毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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08-33 史上最大のレース

「うおおおおお!」

「やったっ!」

 

 地上で上がる勝利の雄叫び(ビクトリークライ)

 そして空中では。

 

「やったあっ!」

 

 喜色満面のマデレイラが青い鎧の首に飛びつき、嬉しそうに頬ずりする。もっとも両方ともヘルメットをつけているので頬ずりと言っていいかどうかは微妙だが。

 

「・・・」

 

 それに一瞬驚いた後、青い鎧は苦笑の気配を放ちながらマデレイラを抱きしめ返し、ヘルメットをポンポンと叩いてやった。

 

 

 

 ゴードやモリィ達が叫ぶ中、カイヤンは僅かに口元を歪めただけで、騎乗したまま静かに宙を見上げている。

 その視線がふとシルシープの足元に落ちた。

 

 モゾモゾと何か動くものがある。

 甲高い声できいきいと鳴く、文字通りノミほどのサイズのそれを、黒等級のレベルでも並外れたカイヤンの視力は正確に捉える。

 

『タスケロ! ワシヲタスケロ!』

「ほう、これは」

 

 荒野の土の上をフラフラと歩くそれは、手足の生えた人型の菌糸のようなもの。

 その手足や顔はたった今消滅した茸悪魔(ファンガス)のそれと明らかな共通点があった。

 

「菌糸・・・いや、胞子が残っていたか? 茸だけにしぶといものだな」

 

 キイキイ、と哀れっぽい声で鳴くそれは恐らくまき散らした胞子の一体。

 相手に吸い込ませて内部から浸食しようとしたそれとは別に、自らの霊体をほんの僅かに分けて地に潜らせたのだろう。本体が倒されたときのために。

 ここまで小さいのは、そうでなければ青い鎧の超感覚から逃れられないからだ。

 

『ケイヤク! ケイヤクをムスンダハズダ! ワシにテをカスト!』

「そうだな、お前とは確かに契約した」

 

 ファンガス・・・イナ・イーナ・ボーインとカイヤンは密約を交わしていた。

 場合によってはヒョウエを妨害し、ゴードを勝たせるために。

 

 イナ・イーナからしてみれば、ゴードが一位にならなくともヒョウエより上なら問題ない。

 カイヤンからしてみれば、他者の順位がどうあれ自分が一位なら問題ない。

 ある意味ではウィン=ウィンの契約だ。

 

 だがしかし、もはやカル・リス社の勝利はほとんど意味を為さない。

 それでも、この期に及んでカイヤンを頼る理由がこの悪魔のなれの果てにはあった。

 

『ならワシをタスケロ! シンメのチカラでワシをツレダセ!』

 

 神馬(しんめ)"天翔る銀の船(シルシープ)"の最後の力。

 唯一カイヤンだけが引き出せるそれは瞬間転移。

 ルールに抵触するゆえにレースでは使えないが、この場からこの菌糸を救い出すには十分な力。

 そしてこの場を脱出さえすれば、安全な場所で力を蓄えていずれは復活することもできるだろう。

 

「そうだな。契約に従えば俺にはお前を助ける義務がある。義理もある」

『オオ! ソレデハ!』

 

 喜色を満面に浮かべる小菌糸(ミニ・ファンガス)

 そしてまたカイヤンも笑みを浮かべた。

 獰猛な、狼の笑みを。

 

「だがお断りだ。こいつ(シルシープ)が貴様を乗せたくないとさ」

『!?』

 

 驚愕する暇こそあれ、魔力を帯びた――それも亜竜並みの――神馬のひづめが踏み下ろされる。

 悲鳴すら上げることなく小菌糸、悪魔ファンガスの最後の一片は霊体ごと消滅した。

 

「ブルルッ」

 

 ふん、と鼻息を荒く吹き出すシルシープ。

 サフィアがそちらを振り向いた。

 

「・・・どうしたんだい?」

「なに、毒虫がいたんでな」

 

 笑って返し、神馬の首をなだめるように撫でてやる。

 

「ふぅん」

 

 サフィアはそれに何かを感じたようだが、口にはしなかった。

 

 

 

 ひとしきり喜んだ後、青い鎧が抱擁を解いた。

 マデレイラがヘルメットを脱いで、その顔を見上げる。

 

「行っちゃうの?」

 

 青い鎧が頷く。

 

「また会えるかな」

「約束はできない。だがどこにいようとも、それがしは虐げられるもの、弱きものの味方でありたいと思う」

「そっか」

 

 マデレイラが頷く。

 

「さらばだ」

 

 青い鎧がふわりと浮き上がり、ドルフィンから離れる。

 次の瞬間、その姿は空の彼方に消えた。

 

「・・・」

 

 その空の一角を、しばらくマデレイラは見つめ続けていた。

 

 

 

 マデレイラが降りてくると、丁度ヒョウエが目を覚ましたところだった。

 

「ああ、もう! 心配したよヒョウエくん!」

「そうだぜまったく!」

「いやあ、申し訳ありません。ご心配をおかけしまして」

「言ったろ、こいつなら大丈夫だって」

「ですわ」

「・・・?」

 

 サフィアやゴードが大喜びしているのに対し、モリィ達三人の喜びようがそれほどでもない気がする。

 付き合いの長さとか信頼の証と言えばそれまでだろうが、少しだけ何か引っかかった。

 つかつかと近寄っていくとあちらも気付いたのか、地面に座り込んだまま手を振ってくる。

 そののんきさがちょっとむかついた。

 

 何を言うにも、こいつ(ヒョウエ)は自分を助けて危ない目にあったのだ。

 しかも毒に冒されていたのにわざわざ自分(たち)を優先して茸悪魔に呑まれた。

 こっちがどれだけ心配していたと思っているのだ!

 

「こっちがどれだけ心配していたと思っているのよ! のんきそうな顔して!

 なによ、自分が危ないってのにこっちを助けて、私がどんな、どんな思いで・・・」

 

 ボロボロと涙がこぼれる。

 あたふたと慌て始める鈍感(ヒョウエ)を見て、脳のどこかでざまあみろと思うが言葉が続かない。

 ぽん、と頭の上に手が置かれた。

 

「ま、諦めろや。こいつはそう言う奴だからな。危なっかしくてしょうがないんだけどよ!」

「むー!」

 

 言葉になっていないうなり声を発してモリィの手を振り払うと、また頭に手。

 

「ですわ。本当にいつもいつも心配をさせられておりますの」

 

 慈母のようなほほえみを浮かべるリアスの手を、これも振り払う。

 その後ろでカスミがうんうんと頷き、サフィアがくすくす笑っている。

 おろおろするヒョウエの肩にゴードとカイヤンが手を置き、何やらにやにやと話しかけてはヒョウエがそれに食ってかかっていた。

 

 

 

 しばらく後。

 スタート地点から30kmほど、ヒョウエがコースを外れた辺りに一同が集まっていた。

 

「ほんとうにやるのかよ、今更?」

「それはそれ、これはこれですよ。ほら、放送再開するんですから早く離れてください。あ、サフィアさん、作音(サウンド)の術で合図お願いできます?」

「へいへい」

「ふふふ、了解だ」

「わかりましたでまんねん!」

 

 三人娘とサフィア、ムーナ達の乗った魔導ポッドが離れていく。

 荒野を走る大街道、そこに横一列で並ぶレース参加者たち。

 

「ここに私が混じっていいのか?」

 

 困ったようにシロウが尋ねるが、それを否定する人間は一人もいない。

 

「元々参加者じゃないですか。最後くらいちゃんと競いましょうよ」

「そうそう、気にするこたぁないって」

「事情があったのは理解したが、負け逃げなど許さん。負けるならば正面から俺と競って負けろ」

「わかった。そう言う事なら私も全力を尽くそう――負けたからと言って恨んでくれるなよ?」

 

 相変わらずのカイヤンに、ニヤリと笑って挑発を返すシロウ。

 

「言うじゃないか、アグナム野郎。ぐうの音も出ないほど完全に打ち負かしてやる」

「ヒヒン」

 

 大人げないなあ、とでも言うようにシルシープがいななく。

 そうした様子を見て、離れた岩陰からサフィアが声を張り上げた。

 

「それじゃあ行くよ! 5、4、3、2、1、スタート!」

 

 かぁん、という鐘の音。大陸横断レースの最後の一区を走破すべく、六人と一匹が一斉に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒョウエたちが聞き逃した声があった。

 消滅の間際、一瞬の閃きのように放たれた耳に聞こえない声。

 

『うおおおおお、おのれ、おのれぇえええええ! だが我が主よ! 見つけました! お探しのものをついに見つけましたぞぉぉぉぉ!』

 

 悪魔ファンガスの最後の思念。

 荒野に響き渡ったそれにまぎれ、明白な指向性を持って放たれた一本の矢のようなメッセージゆえにヒョウエたちが聞き逃したそれ。

 それを誰が受け取ったのか、それをヒョウエたちが知るのはもう少し先のことになる。

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