毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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エピローグ「シビビーン・ラプソディ」

「ピンチになれば空を切り、魔球の如く現れて、風のごとく去っていく」

 

     ――「逆転イッパツマン」ナレーション――

 

 

 

 

 

 メットー北西部の、とある豪華なお屋敷。

 大小様々な魔道具が持ち込まれた大きな広間に、歓喜の声が響いた。

 

「ダー・シ様! 選手がビーコンを装着しました!」

「見えてるワヨッ! 装着した選手から順次映像を流しなサイッ! ああもう、手間取ってくれちゃっテ・・・!」

 

 キイキイ声で指示を出しつつ、中央の輿に座した肉の塊・・・ダー・シ・シャディー・クレモントが安堵に胸をなで下ろす。

 それまでのダイジェスト映像を流すことで各地のパブリックビューイングも取りあえずは収まったが、それでも時間と共に不満が溜まるのは避けられない。

 実際一部のパブリックビューイングでは暴動に近い状況になっていた。

 レースが再開することで何とかそれも収まるだろう。

 

 命令一下、きびきびと動き出す家臣たちを眺めつつ、先ほど見たものを思い出す。

 ミン・ニム・ボーインの誘拐。その正体がイナ・イーナ・ボーインであること。

 そしてその真の姿、悪魔ファンガスと選手たちの戦い、そして青い鎧の出現。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ダー・シが沈思黙考する。何人かの家臣はそれに気付いたが、よほどのことがない限りこの状態のダー・シに声をかけるものはいない。

 瞑目することしばし、ダー・シが目を開いた。

 

「マア、取りあえずはあの戦闘を編集して、スペシャルエディションの特典映像にしまショ! プレミア感も出ていいワヨネッ!」

 

 キャハハハハ、と甲高い笑い声が広間に響いた。

 

 

 

「イィィィィヤッホォォォォォ!」

 

 ア・マルガム大街道にヒョウエの歓声が響く。

 杖の後部からはこれまでの数日で見せていた五連ロケットエンジンの爆発的噴射。

 

「ハッハーッ! 今日こそ抜き去らせて貰うぜ、ヒョウエよ!」

「そしてお前ら二人を俺が抜き去る! それこそ完璧な勝利というものだ!

 シルシープよ、ここで負けたら本当に刻み肉だぞ!」

「ブヒヒヒヒヒン!」

 

 それを追うのはゴードとカイヤン。両方ともそのテンションは普段通り。

 ほぼ同着でその頭上を飛ぶシロウが不敵に笑う。

 

「さて、そううまくいくかな」

「くっそー!」

「何としても最下位だけは・・・!」

 

 そこからやや遅れてマデレイラとモニカが最下位争い。

 マデレイラの「ドルフィン」も、モニカも、先ほどのファンガスとの死闘で力を使い果たしている。

 レースについて行けているだけ驚きという状態だ。

 

 もっとも、誰も彼もが少なからず消耗している。

 ヒョウエは"隠された水晶の心臓(クリプトス・クリスタル・ハート)"をフル稼働させて、心停止状態には至らなくともいくつかの経絡が閉じてしまっているし、ゴードやモニカ、シロウも消耗が激しい。

 マデレイラのドルフィンも魔力が枯渇寸前だし、カイヤンとシルシープは一見消耗が少ないように見えて、騎獣の能力を底上げする《騎手の加護》を全力で使用して双方共にかなりの疲労がある。

 トップを行くヒョウエですら、全力時に比べればかなりのスピードダウンを起こしている。

 

 だがレースを投げるようなものは一人もいない。

 積極的ではなかったシロウですら、残った全力をつぎ込んで飛行の魔力を絞り出している。

 そんな彼らを、世界中の観衆が熱狂して応援していた。

 

「見えた!」

 

 先頭を飛ぶヒョウエが叫んだ。

 大陸横断レースのゴール、ライタイム王国の首都アトラ。

 それがもう、ほんの20kmほど先にある。

 アトラから1kmほどのところに設置されたゴールまで、遮るものは何もない。

 

「かっとビングだぜ、俺!」

「早く! もっと早く! 限界を超える!」

「駆けろ! "天翔る銀の船(シルシープ)"!」

「アヌッタ=サミャク=サボディ! アヌッタ=サミャク=サボディ!」

「きばれ、ボボ! 全部、全部つぎ込みなさい!」

「おおおおおおおおおおおお!」

 

 全員の脳裏によぎるのはこの十日間の出来事。

 衝撃のスタート、山賊の出現、五日目の劇的な大逆転とそこからの連日のデッドヒート。そして巨魔ファンガスとの戦い。

 それら全ての思いを込めて、今はただ駆ける。

 泣いても笑っても、あと一分。

 

「!」

「何い!?」

 

 全員が同時に仕掛けたラストスパート。その中でも、明白にゴードが抜き出た。

 併走していたカイヤンとシロウを突き放し、トップのヒョウエに肉薄する。

 

「来たぜヒョウエェェェェェェェェ!」

「くっ・・・このぉっ!」

 

 この期に及んで更にロケットエンジンを増やす。

 使用可能な経絡を、一つを残して全てロケット燃料の生成に回し、念動障壁すら空力制御のみに限定して速度を上げる。

 最後の1kmを、並んで駆ける二人。

 モリィの目ですら、どちらが先かを判断できないだろう。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

「ぬあああああああああああああああ!」

 

 全てを振り絞る絶叫。

 二人の力と意地のぶつかり合いは全くの互角。

 そして。

 

「えっ?」

 

 ゴールラインの1m前で、それまでの加速が嘘だったかのようにゴードが完全停止する。

 衝突回避で空に舞い上がりながら呆然と振り向くヒョウエ。

 直後、こちらも何が起こったかわからない他の面々がほとんど同時にゴールしたのを確認すると、ゴードは悠々と歩いてゴールラインを越えた。

 

 

 

「・・・どう言うつもりですか?」

「わかるだろ? 勝負は勝負。けどレースの勝ち負けは別だ。形だけでもカル・リスを勝たせるわけにはいかないからねー」

「そう言う事か。お前でなければ殺しているところだぞ友ゴード」

 

 ゴール後。ゴードの謎の行動に困惑はあったものの、それでも大歓声の中で六人がそんな会話を交わしている。

 得心したシロウが溜息をついた。

 

「まあ確かに、あのまま続けていても同着ではあったろうな」

「そゆこと」

 

 にへら、と笑ってゴードが頷く。

 

「めんどくさいやつね。どうせカル・リス社は潰れるだろうし、レースしてればいいじゃない」

「マデレイラ。私も理解は出来ないが、男というのはそう言う所があるのだ。害があるではなし、大目に見てやれ」

「ふん」

 

 苦笑しつつ肩をポンポンと叩くモニカに、マデレイラはそっぽを向きはしたが反論はしなかった。

 それを眼を細めて見ていたゴードが何かろくでもないことを思いついた顔でカイヤンに振り向く。

 

「まあ、あれだよね。『全力で走ってたら俺の勝ちだった』ってとこか」

「前言撤回だ。お前は殺す――あだだだだ!?」

 

 額に青筋を立ててサーベルに手をかけたカイヤンの頭にシルシープが噛みついた。

 さんざん暴言を吐かれたり酷使されたりして腹に据えかねていたのだろう。

 その様をひとしきり笑い、ゴードはくるりと身を翻した。

 

「どうしたゴード殿。この後表彰式だぞ」

「お色直し。髪が乱れちゃったからねー」

「式には間に合わせなさいよ。折角ここまで欠けずに来たんだから」

「へいへい」

 

 へらへら笑いながら、ゴードは適当に手を振ってその場を後にした。

 

 

 

「うげごがががげごがごげがげごごごご」

「あー、やっぱりこうなりましたか。見栄を張りすぎですよ」

 

 ゴードの控え室。ベッドの上で痙攣しながら怪音を発するゴードに、最近覚えた"透明化(インビジビリティ)"の呪文で忍び込んできたヒョウエが溜息をついた。

 

「だ、だってあそこで倒れたらかっこわるいじゃん・・・」

「あんなことすればそりゃ反動がきついですよ。なんですか、減速無しの瞬間停止って。それを超音速でやったんだから体がミンチになってないだけ感謝しなさい」

 

 治療を司る「水」の金属球と大振りの魔力結晶を取り出し、馬鹿(ゴード)の治療を始めるヒョウエ。

 モンスターを退治して現れる魔力結晶は文字通り魔力の塊だ。術師にとっては魔力の電池代わりにもなる。流石にチート持ちと言えど、今さっきで自前の魔力を絞り出すのは辛い。

 

「おー・・・効く効く・・・」

「この魔力結晶結構高いんですからね。これで貸し借り無しですよ」

「はーい。義理堅いねえ。気にしないでもいいのに」

「僕の気分の問題です」

 

 言い張るヒョウエに、ゴードがにへらと笑みを浮かべた。

 

 

 

 その後はさほど語ることもない。

 表彰式。パーティ。休養の後、モニカに案内されてアトラの名所旧跡巡り。

 "星の騎士"にばったり出会って全員が驚き、ヒョウエと気安く話していることに更に驚く。

 再会を約し、瞬間転移術師の力を借りて彼らはそれぞれの国に帰っていった。

 ゴードもカイヤンもモニカもマデレイラもシロウも、それぞれの生活に戻っていくだろう。

 

 タム・リス社とカル・リス社の因縁には綺麗に決着がついた。

 会頭と後継者である孫娘が同時に行方をくらましたカル・リス社は瓦解し、タム・リス社に吸収。

 ただし後ろ暗い面々――トラル支店長ハイドなどは一網打尽に逮捕された。

 王国諜報機関"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"主導だったのは謎とされている。

 

 ミンのお付きだった三人はヒョウエの口添えもあって無罪放免されたが、ムーナが助けてくれたシロウに一目惚れし、野郎二人を連れて例の魔導ポッドでアグナムまで追いかけていってしまった。

 その後の経緯は不明である。

 

 そしてメットーに戻って数日ほど後。サフィアを連れたエブリンガーの面々が王都の通りを歩いていた。

 

「いやー、助かるよ。いつも頼んでる魔導技師の人には手が出せないって言われちゃってね」

 

 苦笑するのはサフィア。"ファンガス"との戦いで限界まで出力を絞り出した力場の腕輪の調子があれ以来悪いのだ。

 古代遺物(アーティファクト)としてもかなり高度なものであるため、それを扱える数少ない魔導技師――つまり、ヒョウエの兄弟子と姉弟子を紹介しに行くと言うわけだ。

 

「いえいえ、いつもお世話になってますし。あ、ここですよ。こんにちわー・・・」

 

 からんからん、とドアベルが鳴る。

 扉を開けたヒョウエが固まり、ハテナマークを浮かべて後ろから覗き込んだ四人が目を丸くした。

 

「いらっしゃいませ! アキリーズ&パーシューズ魔道具店にようこそ・・・あ、ヒョウエじゃない! どうしたのよ、一週間顔も見せないで!」

 

 満面の笑顔を浮かべるのは作業服に革エプロンの小柄なメガネ少女。

 見間違えようはずもない、大陸横断大レースの参加者マデレイラ・ビシク。

 

「ど、どうしてここに・・・?」

「えーと・・・そのさ、あれよ、やっぱり私未熟だなって! ドルフィンには自信あったけど実質モニカさんと同着最下位だったし!

 ドルフィンの修理にお姉様の手も借りたいし! それにメットーってさ、青い鎧もいるんでしょ? ここにいればまた会えるかなって・・・」

 

 頬を赤らめてモジモジするマデレイラ。後ろのアンドロメダが頭を撫でてやる。

 

「ええ、彼はそれなりの頻度でメットーに現れますから、そのうちきっと会えますよ。遠くないうちにね」

 

 その頬に邪悪な笑み。その更に後ろでは両手を合わせて瞑目する役立たず(イサミ)

 三人娘+1が顔を覆ったり天を仰いだり、溜息をついたりくすくす笑ったり。

 

「私の妹同然の子ですし、仲良くしてやってください」

「ヒョウエ! 良かったら今度一緒に仕事しようね! 姉様と一緒に魔道具作るの!」

「・・・」

 

 ヒョウエにできたのは、引きつった笑みで頷くことだけだった。

 

 

 

 毎日戦隊は毎日が毎日日和。

 雨の日も風の日も、それはそれで毎日日和。

 かたつむり枝に這い、神空にしろしめす。

 全て世はこともなし。

 




と言うわけで八巻完結でございます。
今回の全体の元ネタは懐かしのタイムボカンシリーズ「逆転イッパツマン」。
巻タイトルも主題歌の一節をニンジャスレイヤーっぽくひねったものです。

色々な時代に未来の製品をリースする主人公側、それを妨害する悪玉側、ピンチに現れるヒーローという構図で、リース業をファンタジーらしく運送業に置き換え、それをレースという形に更にひねったわけです。
主人公たちがリース業やっても面白くありませんからねw
名前の元ネタは以下の通り。

タム・リス社→タイムリース社
カル・リス社→スカル・リース→シャレコウベリース社

ミン・ニム → MIN NIM → MINMIN → ミンミン
イナ・イーナ → イナイイナイババー
ボーイン → ボーイング → コンコルド → コン・コルドー

ヒゲの支社長ベアード→ ヒゲの部長
支社長ハイド → 隠(かくれ)球四郎

まあわかる人は結構わかってたと思いますがw

どうでもいい裏設定。
「九曜の術」なのに使い手が「虹の男」なのは虹の七色に加えて人の目には見えない二つの光(紫外線、赤外線)も数えているから。
実際九曜星の一つ、羅「目侯」(らごう、ラーフ)は人の目に見えない暗黒星です。

後前作の途中からシコシコ溜めていた書きためがついに尽きました。
今後は平日更新、土日お休みになるかと思います。
ご了承下さい。
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