毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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九の巻「狭間の世界の魔法使い」
プロローグ「やみのなか」


「はじめに言葉ありき」

 

     ――創世記――

 

 

 

 ふと目を覚ました。

 周囲には何もない。

 ただ暗闇があるばかりである。

 

 天はなく、地もなく、光もなく、音もない。

 そこで気がついたが、そもそも自分がなかった。

 手を顔の前に持ち上げようとするが、その手が見えない。

 

 不自然な気もするが、これが自然である気もする。

 そもそも何が自然だったのか、何故これを不自然と思うのか、それが思い出せないのだが。

 

「~~~~」

 

 何かが聞こえた。

 そのとたん、「自分」が現れた。

 女の子のような細い腕。白く綺麗な指。

 

(女の子のような?)

 

 その感想にも疑問を覚えて、自分の「体」を見下ろす。

 薄くはあるが明らかに男性の胸板。

 毛の薄いほっそりした体、股間からぶら下がるもの。

 取りあえず自分は男性であるらしい。

 

 足も腕と同じく、ほっそりしていてなめらか。

 ただ良く見ればある程度の筋肉はついている。

 

 そこで気付いたが、いつの間にか足が地面に付いていた。

 重力が体にかかり、筋肉が体を支えるのを感じる。

 

 空――空ってなんだっけ?を見上げる。

 やはり暗闇のままで何も見えない。

 下を見下ろす。やはり何も見えないが、足元にはしっかりとした平面の感触。

 

「~~~~」

 

 また何かが聞こえた。

 そちらの方に向けて足を踏み出す。

 一歩。また一歩。

 おぼつかなかった足取りが、一歩一歩確かなものになっていく。

 

「~~~~」

 

 どれだけ歩いたか、またそれが聞こえると同時に、周囲が光に包まれた。

 

 

 

 彼は目を覚ました。

 周囲にはただ暗闇があるばかりである。

 

 しばらくすると眠気で朦朧としていた意識がはっきりしてきた。

 それに伴うかのように、夜明けの光が僅かにカーテンの間から差し込んできて部屋の中の様子を浮かび上がらせる。

 勉強用の机とその上の筆記用具、いくつかの本。

 椅子。

 本棚。

 私物を入れて置くための(チェスト)

 質素ではあるが十分な家具。

 

「ん・・・」

 

 そして今彼が横たわっているベッドと布団。

 こちらも豪華なものではないが、学生の身には十分だろう。

 

(学生・・・?)

 

 思考がぐるぐると頭の中を回る。

 そうだ、自分は学生だ。

 

「おはよう、クロウ。意外と朝が早いな」

「おはよう、スケイルズ。何か目がさめてしまったんだ」

 

 少し離れたもう一つのベッドから声がかかった。

 彼の名前は「川べりに落ちた鱗」。通称「スケイルズ」だ。

 そして自分の名前は「数字の海を飛ぶ鴉」、通称「クロウ」。

 共にこの世界「ビトウィーン」で最高の学術機関とされる「エコール魔道学院」に入学したばかりの新入生だ。

 

 んっ、と身を伸ばして上半身を起こす。あくびひとつ。

 横を見ればスケイルズも同様に上半身を起こしている。

 

 顔を洗い、制服のローブを着込み、朝食を取りに食堂に降りていく。

 おしゃべりをしていたせいか、食堂は既にそれなりに人がいた。

 

「・・・・ちっ」

 

 制服の上から飾り紐や銀の鎖を付けた、派手な格好の学生が彼らを睨んで舌打ちした。

 「獅子の頭上に輝く太陽」、通称ソル。どこかの街の領主の息子だそうで、それゆえに懐も温かい。

 周囲には既にして取り巻きが何人もいる。

 

「うらやましいね、お金持ちは」

お前(クロウ)は特待生だからまだいいだろ。うちなんて俺を学院に入れるために結構無理してるからな、プレッシャーきついぜ。まあ、顔のせいかもしれないけどな」

「勘弁してほしいなあ、そういうの」

 

 クロウは名前の通りの鴉の濡れ羽色の髪と瞳を持つ絶世の美少年である。それは大概の男は嫉妬するだろう。

 

「そう言えば『カワセミ』組の生徒見たか? それがもう凄い美人でなあ・・・」

「はいはい」

 

 口から先に生まれてきたようなスケイルズのおしゃべりを適当に受け流しつつ、適当に料理を取ってソルの隣のテーブルにつく。ソルがまた舌打ちした後、笑顔を作って話しかけてきた。

 

「いよう、おはよう、お二人さん! 昨夜はよく眠れたか?」

「まあぼちぼちかな」

 

 見た目はあくまで上機嫌に話しかけてくるソルだが、目の奥には敵意がある。彼は何故か入学初日から二人にちょっかいをかけてくるのだ。

 

(あいつ、故郷では魔術師に個人的な授業も受けて、天才だってもてはやされてたらしいんだよな。特待生のお前のこと敵視してるんじゃね?)

(えー?)

 

 そんな会話をスケイルズと交わしたことが思い出される。

 確かにクロウは成績優秀と言うことで学費を免除されているが、だからと言って自分が一番だとかそう言う意識はあまりない。

 ソルからしてみればそう言う態度こそが、かんに触るのだろうが。

 

「今日の授業、光の術の実習だろ」

「ああ、そうだな」

「お前には負けないからな」

 

 指を突きつけられる。

 

(ライバル視されているのかな、これ)

 

 心の中で肩をすくめると、クロウは朝食の残りを片付けて席を立った。

 教室に向かう足が、自然と跳ねて踊る。

 入学して初めての魔法の実習。

 クロウだって心躍っているのは否定できないのだ。

 

 朝の日射しが青い大理石の学舎と緑豊かな中庭を照らす。

 生徒たちが笑いさざめきながら石畳を歩き、教室に向かう。

 木の枝や空中からそれを見ているのは半透明の風精霊(シルフ)たち。

 

 ここはエコール魔道学院。

 八つの島からなる世界「ビトウィーン」で唯一にして最高の魔術の教育機関だ。

 

 

 

「・・・・・・・!」

「・・・! ・・・・・!」

 

 闇の中。

 周囲には何もない。ただ闇があるばかりである。

 天はなく、地もなく、光もなく、音もない。

 

 そんな空間に、音ならざる音が響いている。

 だがそれは誰の耳に届くこともなく、やがてかすれるように消えた。

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