毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
09-01 天才
「誰も永遠に仮面を被り続けることはできない」
――セネカ、ローマの哲学者――
「!」
「わぷっ!」
「うおっ、まぶしっ!?」
カーテンを下ろした教室。薄暗い空間がまばゆい光に包まれた。
大抵の魔術師が最初に覚える、"光"の呪文だ。
もっとも魔術師の卵の呪文など通常はロウソク程度、せいぜいランプくらいだ。
最初の授業では発動すらできないものも多い。
にもかかわらず、クロウの発動した光の呪文は目を開けていられないほどにまぶしく、教師以外の全員が思わず目を閉じていた。
「え、ええと・・・」
「はい、そこまでですクロウくん。良くできました」
老齢にさしかかった男性教師が戸惑うクロウの手を取り、解呪の魔力を流す。
両手の間に輝いていた光がふっと消え、教室に薄暗さが戻ってきた。
まあ、ほとんどの者は目がくらんで何も見えていないが。
「初めての発動としては素晴らしい出来です。ですが必要以上に魔力を注ぎ込んではいけません。よく言うように『斧とナイフにはそれぞれ役目がある』のです。今後は制御にも心を砕くように」
「は、はい。ありがとうございました」
頭を下げるクロウ。
ぱちぱちぱち、と拍手が飛んで少し頬が赤くなる。
「・・・・・・・・・」
その様子を、憎しみすらこもった瞳でソルが見ている。
「そうです、
「ロザム、ラーラ、クエス、フォウ、ビアズ、カテコ、エルプ・・・」
教師の言葉に従い、習った通りに腕を動かし、ゆっくりと呪文を唱える。
この世界では魔術はまず根源的には意志の力に魔力を乗せて発動させるものだが、身振りと詠唱にも重要な意味があるとされていて、学院でもそれぞれ専門の授業がある。
これは術者の精神と肉体を術式と結び合わせる意味があり、特に初心者にとっては重要だ。上級者になればなるほど省略されがちなものではあるが、それでも重要な術を発動する場合はあえて本式の身振りと印、詠唱を行う術師も多い。
それはさておき、緊張しつつもソルは正確に身振りと詠唱を行い、最後に印を組んで詠唱を終える。
両手で結んだ印の上に、ランプほどの明かりが灯った。
「素晴らしい。安定していますね。光量も強い。見事な業です、ソルくん」
「・・・ありがとうございます」
教師の称賛に礼儀正しく一礼するソル。
実際、新入生としては間違いなくトップクラスの術力である。
だが、ちらりとクロウを見たその瞳に籠もる敵意は一層強くなっているようだった。
言霊の術の授業。
意志と魔力を乗せて言葉を発することにより、現実の事象に影響を与える術。
たとえば「君に幸運あれ」と祝福することにより本当に幸運を与えたり、逆に「ねこのうんこふめ」と呪うことで本当にその通りの事象が偶然起きてしまうような、そんな術だ。
ある意味では魔術の根幹に最も近い術と言われ、101人いる学園の教師たちでも使いこなせるのはほんの一握り。だが魔術の基本でもあり、まれに優れた素質を示すものもいるために、新入生は必ずこの術の授業を受ける。
「六ゾロっ!」
クロウが叫ぶと、投げたサイコロが本当に六ゾロを出してぴたりと止まった。
これで十回連続の六ゾロだ。
「おおおおおおおおおお」
同級生たちのどよめきが教室を揺らす。
「すげーなクロウ! こんな術が使えるならあっという間に大金持ちだぜ!」
興奮するスケイルズの後ろに、糸目で黒髪のロングヘアの女教師がいつの間にか立っている。
「そう言う性根で術を使っていると、あっという間に術の力が衰えますよ。雑念は何よりも魔術師の敵なのです」
「ひえっ!? き、肝に銘じます!」
「それ以前に何かこれ凄い疲れますよ・・・」
「まあ極めて本質的、イコールで極めて高度な術ですからね。術者の精神への負担はどうしても大きくなります。あなたの才能は飛び抜けたものですが、それでもたやすい事ではありません。繰り返しますが軽々しく使わないように」
「はぁい」
椅子にもたれてぐったりするクロウを、ソルがやはり敵意を込めた目でじっと見ていた。
その後も、ほとんど全ての授業でクロウは目を見張るような成績を示し続けた。
召霊術の授業では、教師の召喚した霊魂の声を一人だけ聞く事が出来た。
幻術の授業では本物とまごうばかりの猫の幻影を生み出してみせた。
薬草学(魔力を秘めた薬草の扱いは治癒術とも関係が深いし、魔道具作りの第一歩でもある)では薬草の種類と効能とを完璧にそらんじてみせた。
難しいと言われる治癒の術でも、ごく小さなものではあるが最初から傷を癒す事に成功した。
もちろん失敗もある。
念動力の術の授業で力を込めすぎて浮かせた石が窓を突き破ったり、肉体操作の術で右手が巨大化して元に戻らなくなったり(教師が戻してくれた)、物質変性の授業で木の机を丸ごと鉄に変えてしまったりと色々あったが、それでも入学したばかりのひよっこには到底成し得ないはずの術である。
クロウが何かをするたびに周囲は称賛し、評価を高め、その評判はいやが上にも高まった。
そしてそれに比例するようにソルのまなざしに籠もる敵意は強まっていった。
二ヶ月後。
「・・・?」
「どうしたよ、クロウ?」
「いやさ・・・ソルって、召霊術の授業の時は何かピリピリしてない?」
「そうか? 最近は大体あんなもんだと思うけどなあ」
教室を移動しながら、スケイルズとクロウがちらりと後ろを振り返る。
ここのところソルの眉間には少年らしからぬシワが常に寄っており、彼を近づきがたい人間にしていた。
取り巻きでさえも彼の顔色を窺い、遠巻きにしているありさまだ。
召霊術の授業。
教師は
いつものようなぽつぽつとしたしゃべり方で、今日の授業の説明を進めていく。
「それでは・・・前回も言ったように、今日は個人的に関係のある霊魂を召喚を試してみることになります。入学前に通達しておいたはずですが・・・親しい故人の形見のようなものを準備できた方は?」
教師の問う声に答えて、半分を少し超えるくらいの生徒が手を上げた。
クロウとスケイルズは持っていないがわ、ソルは持っているがわだ。
「まあそのようなものですね・・・故人の形見など、必要になったからと言って必ずしも用意できるものでもないでしょう。では召霊儀式の部屋に移動します・・・出席番号順に試行して貰いますので準備して下さい」
教室を出ると、生徒たちは普段は閉ざされた大きな鉄の扉をくぐり、深い地下へ螺旋階段を下りていく。
暗い地下階段を照らすのは、ところどころにあるロウソクほどの光を放つ魔道具のみ。
どれだけ降りたかわからなくなったくらい降りた後、一行は先ほどと同じような鉄の大扉に突き当たった。
厳重に施錠された扉を開け、中に入るとそこは円形の巨大な広間だった。
壁と天井はドームのように綺麗な半球型を描いており、床にも壁にも継ぎ目一つ無い。扉を含めて全ての壁と床と天井にはびっしりと意味もわからないルーンが刻まれていた。
「では始めて貰います・・・まずはアネモネから」
最初の生徒が進み出る。彼女は形見を持っていたが、祖母の霊を呼び出すことは出来ずに終わった。
何人かの生徒が進み出るが、いずれも成功しない。
そして七人目、クロウの番になった。
「こいつなら」という期待の眼差しが周囲から浴びせられる。
(親しい故人か・・・思い出せないなあ)
一瞬そんなことを考えつつ、それでも雑念を綺麗に振り払って精神を統一し、詠唱を始める。
「カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア・・・ライア、サバツ!」
きわめて正確な身振りと詠唱と共にクロウが念を放つと、儀式の間の中央に白いもやが現れた。
「おお!」
「やっぱすげーよあいつ!」
白いもやはうごめき、急速に収縮して具体的な何かの形をとっていく。
普段は無表情の教師が目を見張る。
「おお・・・ここまで明確な姿をとるとは・・・!」
やがて白いもやは一人の女性の姿をとった。
長い黒髪、どこかクロウに顔立ちの似た絶世の美女。
「・・・はは、うえ」
クロウが呆然と呟く。
霊魂の美女はニコリと笑い、ふっと消える。
「・・・」
「あの・・・ソルさん、大丈夫ですか?」
呆然とするソル。
取り巻きの声も聞こえない。
ざわめく同級生の中で、彼は魂を抜かれたように呆然とそれのいた空間を眺め続けていた。