毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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09-02 収穫祭の夜

 召霊の儀式の間。

 

「カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!

 カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!」

 

 クロウが召霊に成功したどよめきもさめやらぬ中、ソルが必死に呪文を詠唱していた。

 額に汗を浮かべ、これ以上ないと言うほど集中し、少し離れた場所、儀式の間の中央に置かれた女物の首飾り――恐らくは触媒となる故人の形見――を穴の空くほどに睨みつけている。

 

「カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!

 カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!」

 

 何度も繰り返される詠唱。身振りと印もほぼ完璧なものだ。

 だが、儀式の間には霊魂どころかその出現の前兆となる霊的物質(エクトプラズム)のもやすら見えない。

 他の生徒たちなら既に諦めているところを、彼は更に詠唱を繰り返す。

 

「カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!

 カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!」

「ソル」

 

 教師が声をかけるも、極度の集中に没入しているソルは気づきもしない。

 

「カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!

 カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ!」

「ソル!」

「!」

 

 大声を上げて腕を掴むと、ソルはぎょっとしたようにその顔を見た。

 

「・・・せん、せい?」

 

 呆然と自分を見る生徒を確認すると教師が頷いて手を離す。

 

「良かった・・・戻ってきましたね。魔術師にとって集中は大切ですが、没入しすぎるのは危険です。こうした召霊の術や精神の術では特に。

 術は制御できてこそ術なのだと言うことを肝に銘じなさい。さ、触媒を持って下がるように・・・次の人の番です」

「そんな! もう一度! もう一度やらせて下さい! もう一度やれば成功できます!」

 

 ソルが必死に食い下がるが、教師は静かに首を振る。

 あるいは毎年似たような生徒を見ているのかもしれない。

 ソルの肩に優しく手を置き、諭すように話し始める。

 

「亡くなられた方に会いたいのはわかります。ですが召霊は元々難しい術ですし、出来ないときは出来ないのが術というものです。チャンスは今回だけではありません。

 術力と術の制御を鍛え、精神修養を重ねて自分を磨きなさい。いずれは成功するようになります。いいですね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 長い沈黙と葛藤の後、自分を納得させるようにソルが頷いた。

 儀式の魔法陣の中央に置いた首飾りを、丁重な手つきで白絹に包んで後ろに下がる。

 

「カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア、ライア、サバツ・・・」

 

 次の生徒が進み出て、詠唱を始める。

 その日、霊魂の召喚を成功させたのは結局クロウだけだった。

 

 

 

 季節は巡る。

 春が終わり、夏が過ぎ、秋の収穫祭の季節。

 エコール魔導学院が存在する同名の小島でもやはり収穫祭が行われ、学院のふもとにある街もお祭り一色になる。

 魔導学院の学生たちにとっては冬至、春分、夏至の祭りに並ぶ、数少ない羽目を外せる時期でもあった。

 街に繰り出すものも少なくないが、多くが学院の中庭で開かれるパーティに参加する。

 

 クロウとルームメイトのスケイルズもそんな生徒たちの一人だった。

 テーブルに盛られた様々な地方の料理を食べ歩き、同級生や上級生と歓談する。

 既にクロウの名前は上級生たちにも知られており、話しかけてくるものも多い。

 

「おい」

 

 そんな中、料理をほおばっていたスケイルズがクロウの脇腹を肘でつつく。

 

「? ・・・!」

 

 何かに憑かれたような目つきでまっすぐこちらに近づいて来たのは、ソルだった。

 

「・・・」

「最近ますますやばくなってないか、あいつ?」

 

 耳打ちしてくるスケイルズの言う通り、ここ半年ほどでその容貌は一変していた。

 育ちの良さと気品を感じさせた中々にハンサムな顔立ちは、幽鬼のようなやせ衰えたそれに。入学当初は女子にもそれなりにもてていたものだが、今は女子どころか取り巻きですら近づかない。

 こけた頬に落ちくぼんだ眼窩。眼光だけはぎらぎらと輝き、ますます近づきがたい雰囲気をかもし出している。

 教師たちも心配はしていたものの、成績はクロウに次ぐトップクラスであるため中々口も出しにくいらしい。

 唯一変わらないのはクロウに対する敵意だけであった。

 

「・・・」

 

 そのソルがクロウの前で立ち止まった。

 

「?」

 

 それまで話していた上級生が大丈夫か、と言うようにクロウに目配せ。クロウが頷くと肩を叩いて離れていく。

 

「なんだい、ソル」

「・・・ここじゃしにくい話だ。二人きりで話せないか」

「いいよ」

 

 頷くと、心配そうなスケイルズに頷くとクロウはその場を歩み去った。

 

 

 

「・・・頼む! 俺じゃダメなんだ! どうしても!」

「え? ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 中庭周辺の森の中。

 パーティの賑やかな声も遠いそこでソルが最初にしたのは土下座だった。

 

「今までの件については謝罪する! 俺に出来ることなら何でもする! だから頼む!」

「だから何を・・・ひょっとして、召霊かい?」

「そうだ!」

 

 地面から額を離さないソルの言うことには、あの後何度も試行してはみたが、ことごとく失敗した事。

 どうやら自分には召霊の才能がないこと。

 教師に頼んではみたが危険だからと断られたこと。

 それで思いあまってクロウに頼みに来たということだった。

 

「それにしても何故今日・・・いや、そうか。収穫祭は」

「そうだ」

 

 ソルが顔を上げた。

 

「冬至、春分、夏至、秋分は大地と天空の力が強まる時。

 特に秋分――つまり収穫祭の祭りは大地の力が一年で一番強まる時だ。

 死者の霊は大地に属するものだから、召霊は大地の力が強いほど成功しやすい。召霊の儀式の間が地下深くにあるのもそのせいだ」

「首飾りがあっても、僕は呼び出す人を知らない。成功率は低いぞ」

「わかってる。失敗しても恨まない。お前が最後の望みなんだ」

「・・・呼び出すのは誰の霊魂なんだ」

「俺の・・・母上だ」

 

 溜息をついて、クロウは頷いた。

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