毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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09-03 影

 暗い魔導学院の廊下を二人の少年が駆けてゆく。

 生徒の大半は中庭におり、そうでなくても周辺の木立か寮に戻っているか、監督する教師たちもほとんどは中庭にいて校舎には注意を向けていない。

 明かりもつけず、暗視をもたらす猫目の術を用いて走って行くクロウの後を、ソルが必死で追いかける。

 クロウがいなければ間違いなく学年首席の座を手に入れられるだけの実力はあるが、それでも彼にこんな真似は出来ない。

 今更ながらにこの本物の天才との差を痛感する。

 

「ここだ。見張りを頼む」

「ああ」

 

 廊下の途中の召霊の間に通じる大扉。

 クロウが指を触れると、しばらくして鍵の外れる音がして扉が僅かに開いた。

 素早く中に入って扉を閉めると再び鍵をかける。

 ソルがランプほどの光を手の平の上に灯し、二人は足早に階段を下りていった。

 

「うおっ・・・」

「う・・・」

 

 召霊の間の中は、恐ろしいほど濃密な魔力に満ちていた。

 大地の力を引き出し制御するように作られたこの部屋は、一年でもっとも大地の力が強まるこの日に、少年たちが感じたことの無いほどの圧倒的な大地の魔力で満ち満ちている。

 

「・・・多分術を始めたら先生たちが誰か気付くと思う。時間との勝負だ。首飾りを」

 

 こくり、と無言で頷くソル。

 部屋の中央に白絹の包みから取り出した例の首飾りを置くと、扉まで後ずさる。

 それを確認してクロウが部屋の中央に進み出た。

 1mほど離れた首飾りを見下ろし、身振りと共に呪文を唱え始める。

 

「カヤーサ、ヌージュ、ルカーヒー、アーリマ、ラキーア・・・ライア、サバツ!」

 

 反応は劇的だった。

 クロウが詠唱を完了し印を切ると同時に、部屋全域に白いもや――霊魂の仮の肉体を形成するエクトプラズムが発生し、首飾りを中心に渦巻き始める。

 

「おお!」

「何だ・・・おかしいぞ!」

 

 母親らしき霊魂を召喚したときよりも遥かに激烈な反応にクロウの頭の一部が警鐘を鳴らし始める。

 

「ああ、母上・・・!」

 

 だが心を強い感情で塗りつぶされたソルにはそれがわからない。

 広間の中心、何かの形を成そうとしているエクトプラズムに、近づこうとするソルの手を、クロウが掴む。

 

「よせ、近づくな! 何かおかしい!」

「うるさい! 放せ・・・!?」

 

 渦巻いていた白いエクトプラズムが一瞬で黒に染まる。

 ソルが目を見開いた瞬間、人間ほどの大きさになったエクトプラズムの塊が扉の方向・・・つまり二人に向かって飛んでくる。

 不運なことに、ソルを止めようとしたクロウは部屋の中央に背を向けていた。

 振り向いた瞬間目に入ってきたのは黒く長い髪を振り乱し、落ちくぼんだ眼窩と歯も生えていない口を持った幽霊――そのビジョンを最後に、クロウの記憶は途絶えた。

 

 

 

 気がついたときには学内施療院のベッドの上だった。

 三日間寝ていたらしい。

 喜色満面のスケイルズが大騒ぎしてつまみ出され、ソルはクロウの手を握って泣きながら何度も何度も謝っていた。

 

 彼らや治療師から聞いたことによれば、クロウの呼び出した黒い影は膨大な魔力をまき散らしつつ、地面を突き抜けて地上に出、収穫祭のパーティに大混乱をもたらしたらしい。

 多くのものが魔力を吸われたが、現在ではほぼ回復しているとのこと。

 

 奇妙なことに、クロウと一緒に襲われたはずのソルも魔力を吸われただけで、クロウのような重篤な症状は出ていなかった。

 母の形見の首飾りは卒業まで取り上げられることになったが、それでも憑き物が落ちたかのようにさっぱりした表情をしていた。

 少なくともそれだけで召霊の術を行った甲斐はあったかなとクロウは思う。

 「お人好しもほどほどにしとけよ」とスケイルズにはこづかれたが。

 

「それで、あれは一体何だったのですか?」

「本来・・・召霊の術は明確に対象を念じて行わなければならない。霊魂の世界は広く・・・また危険な霊も多いからだ。

 もっとも普通ならそんな術は効果を現さずに立ち消えするものだが・・・不幸にも君にはそれを押し通すだけの強大な術力があった。

 世界の壁の向こう側を乱暴に引っかき回した事によって、霊魂の世界とこの世界の間の壁が大きく広がり・・・危険な影の霊魂(ソウルシャドウ)が出て来てしまったのだ。

 あのまま放っておけば・・・世界の壁に大きな穴が開き続け、霊魂の世界から沢山の魂があふれ出てきてしまっただろうな。

 学長がいなかったらと思うとぞっとするよ・・・」

「申し訳ありません」

 

 深々と溜息をつく召霊術の教師に頭を下げる。

 

「まあそれはいい。今のところ大きな被害は出さずに済んでいるからな・・・君を除いては」

「はい」

 

 あれ以来、クロウの魔力は大きく減じていた。

 最初は体が回復していないせいかとも思ったが、体調がほぼ回復しても魔力は戻らない。何かと繋がっていること、そのラインを通って継続的に魔力がよそに流れているのが直感的にわかった。

 

「あの夜、教師たちもあの影の霊魂(ソウルシャドウ)を捕縛、あるいは霊界に帰そうと試みた・・・だが成し得なかった。理由が判るかクロウ」

「・・・僕と繋がっているからですね。僕というよりしろ、現世に沈着するための錨と繋がっているから、普通の霊魂に対する術が効かない」

 

 教師が頷いた。

 

「だが、あの影を放っておくことは出来ない・・・間違いなくあれは世界に悪影響を及ぼす。だから選択肢は二つだクロウ・・・お前を殺してあれをこの世界にとどめる重しを取り除くか」

「僕自身があの影に対抗するか」

 

 再び教師が頷いた。

 

「そうだ。どうする」

「僕はまだ死にたくありません。それに、あんなものを呼び出した責任もとらなくてはならないでしょう」

「よし・・・船と食糧を用意する。召霊に造詣の深い教師は後始末でここを離れられん。霊の世界との穴は、まだ仮に塞いだだけだからな・・・天候操作の術は習得しているな」

「船を動かす程度には」

「うむ・・・明後日出航だ。準備をしておけ」

「はい」

 

 

 

 そして翌々日。

 船着き場にもやわれた、一人用としては明らかに大きい帆船とその前に立つ二つの人影を前にしてクロウは困惑していた。

 

「スケイルズ・・・ソル・・・何でここにいるんだ? 今は知覚の術の授業中だぞ?」

「水くさいなあ。ルームメイトだろ?」

「俺にも取るべき責任がある。アクベの領主の嫡子として、名誉にかけて責任から逃げる訳にはいかん」

「・・・」

 

 あの影は危険なんだぞとか、お前達魔術師の修行はいいのかとか、やってくれたなクソ教師とか、色々な言葉がクロウの脳裏をよぎるが・・・結局出てきたのは溜息だけだった。

 

「好きにしろ。足手まといになるようなら置いていくぞ」

「だーいじょうぶ、まーかせてっ! こう見えても海辺の村の出身だからな! 魚を釣るのも船を漕ぐのも得意なんだぜ!」

「俺の風呼びの術の腕前は知っているだろう。嵐の時以外は船は任せて貰って構わない」

「やれやれだ」

 

 またしても溜息をつきながら船に乗り込むクロウ。

 しかし、その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

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