毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
ビトウィーンの海を、滑るように帆船が行く。
全長10m幅2mほど。三人用としても大きめの船だが高言しただけあってソルの風呼びの術は強く、帆は安定して風をはらみ、すいすいと海上を進んで行った。
「ソル、左に五度くらい風を曲げてくれ」
「オーケイ」
針路を指示するのはクロウの役目だ。
地図とコンパス、そして自分の中の影との繋がりが頼りになる。
「『針の島』のほうか?」
「ああ。海を渡ってそっちに行ったんだろう。『祭壇』の本島の方に行かなかったのは謎だが」
「追い出されたのかもしれないぞ。何しろ学院があるだけあって、『祭壇の島』は八つの島の中でも一番術師が多いからな」
この世界は概ね八つの島とそれらの周囲の小島からなっている。
魔導学院のあるエコール島は第一島『祭壇の島』に属する小島。
『祭壇の島』は八つの島の中でも一番西にあり、これから向かう第三島『針の島』はその北東にあった。
「スケイルズ、何か意見はないのか?」
「え? ああ、いいんじゃないの?」
先ほどから一心不乱に釣り糸を垂れているスケイルズが上の空の返事を返す。
この男は船が海に出るなりソワソワしだし、沖に出た途端に手際よく用意していた釣り竿を準備して、それ以来ずっと石になったかのように船べりから動かなかった。
そう言えば学院でも時々釣り竿と
ソルがふん、と鼻を鳴らす。
「役に立たん奴だ」
「まあいいんじゃないの。少なくともああやって釣りに集中してくれている間はあのおしゃべりを聞かなくて済む」
「なるほど、違いない」
クロウが肩をすくめる。
ソルが浮かべた皮肉げな笑みと言葉も耳に入らず、スケイルズは一心不乱に釣りに集中していた。
「ジャーン! どうだっ!」
「おおう・・・」
「人間何か一つは取り柄があると言うが本当だな」
「うるっせえよ」
夕方。
スケイルズの足元の水を張った木桶には数十匹の魚が跳ね回っていた。
三人で食べても十日はもつだろう。
「さーて、じゃあ俺は釣りして疲れたしワタ抜きは頼むぜクロウ!
飯が出来るまで少し横になるわ」
「しょうがないなあ・・・」
一日中釣りをしていたスケイルズ、風を操っていたソルと違い、クロウは海図とコンパスとにらめっこして、後は時折船の索具をいじって帆の角度を調節していただけである。
ついでに言えばこの三人の中では彼が一番料理がうまい。
よっこいしょ、と腰を上げたところでソルの冷ややかな声がかかった。
「待て、スケイルズ。こう言う時は釣ってきた人間がハラワタを抜くのがルールだろう」
ぎくり、とルームメイトの肩が震えた。
思わずクロウが半目になる。
「・・・スケイルズ?」
「い、いやだってよぉ・・・俺が釣ったんだし・・・」
「ルールはルールだ。それにお前は釣りを楽しんでいたんだろうが。まじめに働いていたクロウと一緒にするな」
「ちぇーっ」
がっくりうなだれて、夕食で食べる分の魚を水を張った木桶から
ソルが鼻で笑った。
「ありがとうと言うべきかな、ソル」
「礼を言われるほどのことでもない。大体お前はお人好しすぎるぞ。俺が言えた義理ではないがな」
目の前でぶーたれているルームメイトも同じ事言ってたなと思いつつ、疑問を口にする。
「そう言えばハラワタは釣った人が抜くなんてルールよく知ってたね。釣りが趣味だったの?」
「いや、俺の故郷は内陸の方だしそう釣りが盛んな訳じゃない。ただうちの下男が釣り好きでな、普段はいい奴なんだが釣りのことになると人が変わると言うか・・・毎回奥方に『釣った魚は自分でワタを抜け!』と怒鳴られているので覚えてしまったのさ」
「なるほど」
にやにやと笑うソル。クロウもくすくす笑いつつ、魚料理のレシピを考えながらかまどの方に歩き始めた。
魚をぶつ切りにして香味野菜と塩で煮込んだ、こちらの世界で言えばブイヤベースのような魚鍋をつつきながら三人で会話を交わす。
腹を割って話してみると、これでソルはいいやつだった。
お坊ちゃん育ちゆえのちょっとした高慢さはあるが、頭の回転が速く気遣いも出来る。
入学以来ぶつけてきた敵意とライバル心も綺麗さっぱり消え失せ、母親に対する執着も憑き物が落ちたように消えて無くなっている。
(多分これが本来のソルなんだろうな)
何よりありがたかったのはスケイルズと違って、こちらが黙っていて欲しい時にはそれを察してくれることだ。
このルームメイトは間違いなく善良で友情に厚くて献身的なのだが、時にそのおしゃべりが原因で絞め殺したくなることがある。
その点ソルは間違いなくスケイルズよりも素晴らしい話し相手だった。
「ん? 何か言った?」
ペラペラとしゃべり続けていたスケイルズが首をかしげる。
「「いや、何も」」
クロウとソルが声を揃えて返事を返した。
翌朝。
前夜に食べきれなかった分の魚をスケイルズがワタを抜き、クロウがさばいて塩を振る。それを船縁に並べて天日で乾かす。簡単な干物だが、それだけでかなり長持ちする。
初日と同じくソルは船尾で舵を握りながら風呼びの術を使い、スケイルズは船縁から釣り糸を垂らした。
「なに、まだ釣る気? そんなに釣っても食べる前に腐っちゃうよ」
「食わない分は海に戻すさ」
「じゃあ何で釣るんだ?」
呆れ顔のソルに、スケイルズが今まで見たこともないような真剣な顔を向ける。
「釣りというのはな、男と男、人と魚の真剣勝負なんだ。人生の全てを賭けるに足る競技なんだよ!」
それに対してソルの反応はたった一言だった。
「アホか」
「何だとぉっ!?」
「ま、まあまあ・・・」
顔色を変えて食ってかかるスケイルズをなだめるのに十分くらいかかった。
「いいかっ! 今後一切てめーに俺の釣った魚は食わせねーからなっ!」
「ほう、そうか。なら俺が風を吹かせて進んだ分の距離を、お前は手こぎボートでついてこい。もちろん自分で風を吹かせるのでもいいがな」
「ぐっ!?」
頭に血が昇ったところに、綺麗なカウンターを決められてスケイルズが絶句する。
規格外のクロウ、十分天才の部類に入るソルと違ってスケイルズの成績は平凡だ。そして天候操作の術はスケイルズの苦手な分野だった。
彼が起こすそよ風は夏に涼む分にはいいだろうが、動かせるのはせいぜいおもちゃの小舟くらいだ。
「で、どうする? 俺はどちらでも構わないぞ」
「ぐぐぐぐぐぐぐ」
「まあまあ、まあまあ・・・」
二人が付いてきてくれたおかげで色々な雑事をやらずに済むし、船を進めるために風の術で魔力を消耗しなくて済む。その分影と対決するときのために力を蓄えておける。
大変ありがたいし感謝もしているのだが・・・。
(僕何やってるんだろうなあ)
そう思いながら何とか二人をなだめるクロウであった。