毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「お客さまよ。ご案内して上げて」
「はい、セレ様」
「!?」
唐突に、セレの後ろに侍女が現れた。
そればかりではない。
「スケイルズ、ソル、気付いたか?」
「なにが?」
「ああ。いきなり人の気配が湧いて出た」
「えっ?」
驚くスケイルズを放置して、クロウとソルが頷きあう。
魔術師には周囲の魔力の波を感じる能力があり、これはイコールで生命の波動を感じる能力として応用が効く。
あくまで副次的なものであり、"
城門をくぐってからこちら、クロウにもソルにもまったくと言っていいほど人の気配を感じられなかったのにだ。多くの人間が息を潜めて気配を消していたか、あるいは急に現れたとしか思えない。
「・・・どう思う?」
「わからん。警戒はすべきだろうな」
「なあ、二人とも何納得してんだよ! 無視するなよ! 泣くぞ!」
厳しい顔、小声で会話を交わす二人。
訳がわからず騒ぐスケイルズ。
セレがその様子を見てかすかに笑った。
もてなしは丁重なものだった。
部屋と言い、料理と言い、地方領主のレベルとしては完璧と言ってもいい。
ただ、晩餐の席に現れたのは給仕の侍女を除けばセレだけだった。
「・・・ここの主はあなたなのですか、セレ?」
「いいえ」
「ではあなたは主のご令嬢か何か?」
「それもいいえ。私は代理人に過ぎないわ」
「ではここの主は・・・」
す、とセレの白魚のような指がクロウの唇を封じた。
スケイルズがクロウを凄い目で睨んでいる。
「主とはいずれ会えるわ。今はもっと楽しい話をしましょう」
「・・・」
クロウの唇から指を放すと、セレがにっこりと微笑んだ。
「私、エコール魔道学院の話が聞きたいわ。話して下さる?」
「喜んで!」
ここぞとばかりにスケイルズが口を開いた。
雪崩を打って飛び出して来る色々な話を、セレは楽しげに聞いている。
出会ってからずっとこの少女に感じ続けているかすかな違和感。
時折相槌を打ちながら、クロウは静かに彼女を観察していた。
夜半。
クロウは寝付けずにベッドの上で寝返りを打っていた。
三人別々、しかもかなり上等の部屋だ。上客をもてなすのに使うような。
「・・・」
主の正体。
セレの行動。
"
この城と、その周辺から感じる大地の強い力。
それはとりもなおさず、霊魂の世界に近いと言うこと。
それらのことが頭の中でぐるぐると回って眠れない。
不意に、とんとんとん、とノックの音がした。
「・・・?」
物思いを中断し、扉の方を見る。
再びとんとんとん、とノックの音。
どうやら気のせいではなかったようだと確かめて声を上げる。
「どなた?」
「わたし。セレよ。いいかしら?」
「・・・どうぞ」
ベッドから降りて立ち上がると同時にセレが入って来た。
寝間着の薄物姿である。
「何か御用で?」
「用はあるわ、もちろん。だからこそ来たのだし」
セレがベッドに腰掛ける。
笑みを含んだ上目遣い。
「・・・」
「座ったら?」
「いや、このままで結構ですよ」
「そう」
くすっと笑ってベッドに横になる。
「あなたに見せたいものがあるの。ついてきてくれるかしら?」
「スケイルズやソルは?」
「あなたひとりだけ」
「・・・」
しばし沈黙して、クロウは頷いた。
指の先に魔法の光を灯し、二人は地下へ降りていく。
「素敵ね、魔法って! ロウソクよりずっと明るいし、ススも出ない!」
楽しそうに笑ってセレが螺旋階段を軽やかに下りていく。
三階ほどは下りただろうか、階段は分厚い樫の木の扉で終わっていた。
少女が扉に触れると、重そうな樫の扉は音も立てずにすっと開く。
「さあ、どうぞ」
「・・・・・・・・!」
一歩踏み込んだクロウが目を見張った。
差し渡し10mほどの地下空間。
その中央に鎮座するのは直径4mから5mはありそうな、巨大な天然物の水晶。
そしてそこから放出される膨大な魔力――大地の力、霊の世界に通じるそれ。
一瞥した瞬間、背筋に走る最大限の警報。
「セレ・・・!」
振り返ったクロウの視界に映ったのは瞳のない、闇だけをたたえた空っぽの眼窩。耳元まで裂けるような笑みを浮かべた「セレ」と共に閃光が走り、クロウの意識は断絶した。
「・・・」
「・・・・・・。・・・・・・・・・・・・!」
ふと目を覚ました。
周囲には何もない。
ただ暗闇があるばかりである。
天はなく、地もなく、光もなく、音もない。
そこで気がついたが、そもそも自分がなかった。
手を顔の前に持ち上げようとするが、その手が見えない。
「~~~~」
何かが聞こえた。
ハッと気付くと肉体が生まれている。服装も先ほどまでの寝間着のままだ。
まるで経験があるかのようにスムーズに出来た気がする。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
目の前で誰かが、涙ながらに詫びている。
「・・・!」
涙を浮かべてひたすら詫びの言葉を口にしているのは、たった今まで一緒にいた少女、セレだった。
周囲にはゆらゆらと、おぼろげな人影が無数にうごめいている。
「これは一体・・・」
言いかけて、クロウは今までセレに感じていた違和感を目の前の少女からは感じないことに気付いた。加えて服装も違う。
「取りあえずここはどこだか教えて頂けますか、セレではないセレさん」
そう言うと目の前のセレはひどく驚いたようだった。
「わかるんですか?!」
「まあ、これでも魔術師の卵ですので」
にっこりと微笑んでみせると、セレも何とか落ち着いてきたようだった。
「その、正直私にもよくわからないんですが、ここはあの水晶の中らしいんです」
「やはり」
想像していたこともあり、驚きはなかった。
あの巨大な水晶は恐らく魔力結晶の一種なのだろう。
「私たちはあの水晶に『喰われ』たんです。それ以来私たちの魂はこの中に閉じ込められ、肉体はこの水晶に操られて・・・」
「恐らくこの水晶は古き妖魔のたぐいですね。『創世の八神』がこの世界を作った時に自然発生した霊的な存在ですが、時折強大な力で災いをなすと聞きます」
「魔術師様ならどうにか出来ないんですか?」
すがるようなセレの眼差し。
「今は何とも。色々試してみるつもりではありますが」
「そうですか・・・あ、でも最近『何か』がここに入って来て、それ以来少し水晶の様子がおかしいんです」
「というと?」
「意地汚く何でも口に入れた結果、変なものを喰って腹を壊しているということだ。端的に言えばな」
「!」
「え、えっ!?」
その場にいきなり現れた第三者。
影のようなそれはクロウと同じ顔をしていた。
「・・・! 今ピクって動いたぞ!」
「本当だ! 何かあったのかも!」
ディテク王国王都、メットー。スラム街にあるヒョウエの屋敷。
その一室、魔法の儀式用に整えられた部屋、床に描かれた魔法陣の中央には眠るように横たわるヒョウエの姿。
モリィたちやリーザ、サナ、イサミとアンドロメダたちがその周囲を囲んでいる。
恐らく魔法陣を制御しているのだろう、結跏趺坐を組む老婆が近づこうとするモリィ達を制する。
「落ち着け。恐らくは接触したようじゃが、まだ何とも言えぬ。
それに・・・ここからが本番じゃ」
「やっぱりヒョウエ一人じゃ危険だったんじゃないですか、師匠」
イサミの言葉に老婆が首を振る。
「今回はどのみち誰もついて行けん。わしでは弾かれてしまうしの。
ヒョウエたちの師匠、メルボージャは険しい顔で首を横に振った。