毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「え? え? え?」
二人のクロウを見比べてきょろきょろするセレ。
唐突に現れた影のようなもう一人のクロウは顔立ちこそ瓜二つであるものの、体のシルエットは周囲の闇に溶け込んでおり、雰囲気にもどことなく薄暗いものがあった。
「お前は・・・
『お前達がそう呼ぶものではあるのだろうな』
本当は聞く必要もなかった。
自分とこいつが繋がっているのがクロウにははっきりわかる。
こいつが自分と同じ姿をしているのも、恐らくは「奪われた」から。
クロウの中にある魔法の源の一部、接触した瞬間に奪われたそれは「クロウ」の一部でもある。
DNAのようなものだ。
あの瞬間、影のような何かだったこれは手にした「クロウ」と混じり合って姿を得たのだろう。
『本来ならもう少し力を蓄えるつもりだったが・・・ちょうどいい。ここでお前を全て取り込んでやる』
「・・・! セレ、下がって!」
「は、はい!」
意味のないことだ。
ここは恐らく精神の世界。近かろうと遠かろうと同じ事。
それでも揺らめく幽霊たちの中に埋没してこちらを見つめるセレを視界の端に捉えると、少し気が楽になる。
「・・・」
『・・・』
にらみ合うクロウと影。
「とりこんでやる」などと言った割に、影はすぐに攻めてこようとしない。
こちらを窺っているようにも見える。
恐らくこの戦いは存在の奪い合いになるのだろう。
どれだけ自己を固く保っていられるか、どれだけ相手の存在をちぎり取れるか。
(・・・けど、警戒してるって事は僕にもチャンスがあるって事だ)
自信満々な言葉は相手を動揺させるための牽制。
本当にそこまで自信があるなら、すぐさま襲いかかって一方的に食い尽くせばいい。
それをしないというのは、そういうことだ。
恐らく奪われたのはクロウの魔法の力の二割ほど。影自体の力があるにしてもクロウを圧倒できるほどではないのだろう。
にらみ合い。
物質世界で言えば剣を構えて互いに互いの側面に回り込むような、拳銃の早抜きでどちらが先に抜くか牽制し合うような、そんな動き。
セレや他のおぼろげな幽霊達が息を呑んで見守る中、どれほどの時が過ぎたか。
「かっ!」
『オオッ!』
先に動いたのは、意外にもクロウ。
むろん影もそれに応じて動く。
両手を伸ばし、組み合う。
手四つと言われる姿勢。
互いに組んだ手と手は互角。
震えながら互いに互いを押し込もうとする。
やがて僅かだが均衡が崩れた。
じりじりと押され、体勢を崩していく"影"。
"影"に一部を奪われたとは言え、クロウの力は強大なものだ。
八割の力しか残っていなくても、"影"を押し込むには十分。
(よし・・・!)
精神世界での格闘は多分に象徴的なものだ。
このまま押さえつければ相手を無力化して、奪われた力を取り戻す事ができる。
更に反っていく"影"の背中。ついに片膝を突き、クロウはそこから更に押し込む。
だが。
「何?!」
『・・・』
"影"がニヤリと笑った。
押し込んでいた腕が止まる。
押し返されることはないが、それ以上押し込めない。
「っ!」
クロウが表情を変えた。"影"の胴体に蹴りを入れて身を離す。
"影"がゆっくりと立ち上がった。
クロウは"影"から目を離さず、しかし何かを確かめるように手を何度も握ったり開いたりしている。
『ようやく気付いたか』
あざけるような"影"の声。
クロウは沈黙。
しかしその目には相手の言葉を認める色がある。
『お前は少しずつ俺に力を奪われていた。もう引けは取らん』
最初に奪われた力はおおよそ二割。だが今は恐らく五割近くを奪われているだろう。
今や力は互角。だが触れて力を奪われるのでは勝負にならない。
(どうする・・・?!)
『さあ、いくぞ!』
「くっ!」
考える暇もなく、"影"が襲いかかって来た。
動きの速さも鋭さも最初の時の比ではない。
『そら! そら! そら! いつまで逃げ切れるかな!』
「・・・!」
繰り出される手刀から必死に身をかわし続けるクロウ。
時折体をかすめた手刀から、僅かながらに力が奪い取られるのがわかる。
だがその脳裏は襲い来る攻撃ではなく、別の事で占められていた。
『しゃあっ!』
「っ!」
息もつかせぬ連続攻撃。動きだけではなく、技も巧妙になってきている。
『獲った・・・がっ!?』
踏み込んできた"影"の一撃。それに対して、逆に踏み込んで頭突きを見舞う。
これも僅かに力を奪われるが、"影"がひるんだ隙に距離をとった。
『ちっ・・・だが俺が勝つことには変わらん。お前は奪われるだけなのだからな』
「そうでもないよ。君の名前さえわかれば」
『!』
"影"の表情が変わった。
名前とはその本質を現す言葉だ。そしてしばしば本質そのものと同一視される。
言霊の術の奥義の一つに「真の名前」というものがある。
物質、生物、あるいは風や火といった事象に至るまで、その真の名を知るものはその全てを操ることが出来る。
そこまで行かなくとも名前を知っているというのは重要だ。
失せもの探しの術を使うにせよ、呪いをかけるにせよ、逆に癒すにせよ、相手の名前を知っているのとそうでないのとでは術の効きに雲泥の差が出る。
"影"はクロウの名前を知っている。クロウは"影"の名前を知らない。
(霊魂の世界に存在する暗い霊魂の一つなんだろうが・・・)
『そうか、貴様さっきから攻撃してこなかったのは俺の名前を探り出そうとしていたのか』
「・・・」
名前が重要なのであれば、当然それを探り出す術もある。
真の名を探り出すとなればそれこそ大魔術師にしか成し得ない技だが、一般的な意味での名前であればクロウでも十分扱える範疇だ。
『だが無駄だな。貴様には探り出せん』
"影"の言葉は事実だった。
先ほどから試みてはいるのだが、一向に反応がない。
(けど、何か手応えがおかしいんだよな・・・霊界の暗い霊かと思ったけど、何か芯に別のものがある・・・むしろ暗い霊の方が付属物のような・・・)
思考はそこで中断された。
"影"の攻撃が再開される。
必死に回避しながら名前を探る術を試すが、効果はない。
『はは! はは! ははははは!』
クロウの存在が、魔法の力の源がどんどん削られていく。
五割、四割、三割。
二割、一割。
"影"が手を止めて再び哄笑する。
『ははははは! これまでだな! たとえ俺の名前を知ったとしても、もうどうにもなるまい!』
「・・・」
その通りだった。
同じ土俵に立っても、力がそこまで違うともう勝負にならない。
だがそれでもクロウは諦めてはいない。
「もう一度会うんだ。――に・・・」
はっとする。
今、自分は誰の名を口にした?
『誰かは知らんがもう無理だな! 消えてなくなれ!』
とどめを刺し、クロウの全てを吸収するべく襲いかかる攻撃。
チカッと、何かがフラッシュバックした。
どこかの豪華な屋敷。
床に描かれた魔法陣。
横たわる黒髪の少年と、その周囲を囲む女性たち。
「―――」
「―――!」
彼女たちが口々に叫ぶ名前。それは――
「
『!?』
"影"の手刀がぴたりと止まった。
おごそかに、朗々と、祝詞のようにクロウが呪文を唱える。
「太古の言葉により命ず 冥府より来たる死の影 汝にまことの名を与えん 我は汝、汝は我なり」
『や、やめ・・・』
恐怖の表情で後ずさる"影"。それを見すえながら、クロウは最後の一言を発した。
「汝の名は『ヒョウエ』なり」
言葉にならない悲鳴を上げて"影"が爆発した。
その下から現れたのは、クロウと瓜二つの、しかし影を纏っていない少年。
クロウと少年が鏡合わせのように手を上げ、触れる。
二つの人影が揺らいだかと思うと、次の瞬間そこには一人の人間が立っていた。
揺れ動くおぼろな影の中から、こわごわとセレが顔を出す。
「クロウ・・・?」
「ええ、クロウですよ。ヒョウエでもありますけど」
少年がにこりと笑った。