毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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09-08 あるべきものをあるように

「ええとその、どういうことなんです?」

「つまりですね、推測も入りますが・・・」

 

 混乱するセレ。

 記憶が定かではないが、クロウが何とか説明を試みる。

 

「たぶん僕は本来この世界の人間ではないんです。何らかの使命を果たすべく霊の姿でこの世界にやってきて、『クロウ』として存在を得た。

 しかし、どこかで分裂してしまったんですよ。今の"影"はその片割れなんです。それが今ようやく一つになって、記憶もある程度は甦ったんでしょう」

 

 正確に言えば、分裂したヒョウエの片方が地上の世界で「クロウ」となり、霊魂の世界で迷子になっていたもう片方に霊魂の世界の暗い霊、つまり"影の霊魂(ソウルシャドウ)"が取り付き、我がものとして操っていたのがあのもう一人のクロウなのだろう。

 ソルに頼まれて召霊を試みたときに"影の霊魂(ソウルシャドウ)"が現れたのは偶然ではなかったし、"影の霊魂(ソウルシャドウ)"と繋がりが出来たのも最初に襲われたせいではなかった。

 何のことはない、同一人物だった両者の間に元から繋がりがあっただけなのだ。

 

 他の者が魔力を奪われただけだったのに対してクロウが存在の一部を奪われたのも、この元からあった繋がりのせいだ。

 ただ、クロウの名を知っていた"影の霊魂(ソウルシャドウ)"に対して、"影の霊魂(ソウルシャドウ)"の本質・・・つまり「ヒョウエ」を知らなかったために、力が一方的にあちら側に奪われていったのだ。

 

 「クロウ」はヒョウエが分裂した後に生まれた名であり、もう片方のヒョウエはヒョウエではあってもクロウではない。そして確固たる本質を持たない影の霊魂は、ヒョウエの片割れを乗っ取りながらその本質を逆に乗っ取られかけていた。

 クロウの存在を吸収して「ヒョウエ」の割合が増えれば増えるほどそれは進行し、最後の方には実質「自分を"影"だと思い込んでいるヒョウエ」のような状態になっていた。

 ゆえに自分の存在を見失った影の霊魂の支配力は弱まり、1/10にも満たない存在になったクロウ=もう一人のヒョウエの術によって「ヒョウエ」は再統合され、取り付いていた影の霊魂ははじき飛ばされて消滅したのだ。

 

「まあ、ひょっとしたらまだ僕の中に残っているかもしれませんが、取りあえず影響はないみたいですね」

「ははー・・・」

 

 と、その様な事を全て理解したわけではないだろうが、こくこくと頷くセレ。

 

「それで、これからどうするんです? 私たちがここに閉じ込められてるのは変わりませんけど・・・」

 

 "影"が現れて中断していた話を最初に戻す。

 しかし、憂鬱そうなセレに比べてヒョウエは自信満々だった。

 

「大丈夫ですよ。こちらの世界でもそれなりに破格の才能を持ってはいましたが、僕の真の才能はそれだけじゃありませんから」

 

 

 

「あ、また動いたよ!」

 

 メットーのスラムにあるヒョウエ邸。その儀式の間と化した広間の一つ。

 嬉しそうなリーザの声に、仮眠していたモリィ達が飛び起きた。

 

「マジか・・・って、うお!?」

「・・・!」

「な、なに?」

 

 モリィとカスミの反応にリーザがうろたえる。

 

「落ち着かぬか」

 

 儀式が始まって以来数日、結跏趺坐を組んで解かないヒョウエたちの師匠、メルボージャがやんわりと制する。

 

「まあ、気持ちはわかるがの」

「だよな。こいつがこんな馬鹿げた魔力を発するのは・・・あー、その」

「青い鎧を纏うときくらいじゃというのじゃろう?」

「!」

 

 モリィ達の視線が老婆の背中に集中する。

 ちなみにサナは雑事で席を外している。

 イサミとアンドロメダは「お前らがいたって役に立たんのだからまじめに働け」と老婆に蹴り出されていた。

 閑話休題(それはさておき)

 

 くっくっく、と老婆が肩を震わせる。

 

「それは知っておるわい。なんせ小僧(ヒョウエ)が青い鎧の術式を組むときにはわしも手伝ったんじゃからのう」

「そうでいらっしゃいましたか」

「あの時は正直自信を無くしたわい。小僧め、術式構築に関してはわし以上の・・・いや、それはどうでもよいわな。問題はこの魔力を何に使うかじゃ」

 

 カスミが深刻な顔で頷く。

 光以外の魔力には鈍い彼女ですら強烈に感じるほどのそれ。

 隠された水晶の心臓(クリプトス・クリスタル・ハート)が紡ぎ出す莫大な魔力が魂のラインを通って虚空に消えていく。

 今の彼女たちにはそれを見守るしかできない。

 

 

 

「来た来た来た来た、来ましたよ!」

「う、うわ・・・」

 

 巨大水晶の中。クロウ=ヒョウエの体が光り輝く。

 霊魂と精神の世界だけあって、魔術の素養の無さそうなセレにもそれがわかった。

 

『や、やめろ!』

 

 先ほど影が現れた時のように、唐突にセレがもう一人現れた。

 姿形は瓜二つだが、浮かべる表情とうつろな眼窩がこの水晶――古代の妖魔の化身(アヴァター)だと明白に主張している。

 

『お前は外に出してやる! 体も返す! それに他の者はもうこの中でしか生きられない! ここ(ワタシ)を壊せば・・・』

 

 ぴくり、とヒョウエの腕が止まる。

 振り返れば拳を握りうつむいたセレと、ゆらゆら揺れるおぼろげな人影らしきもの。

 

『そうだ。この中にいれば・・・』

「いりません」

 

 猫なで声になった「セレ」の言葉を、本物のセレの言葉が鋭く切り落とす。

 

「かまいません、クロウさんのヒョウエさん。どうせこのままここにいれば、こいつに記憶も心も食べられて、あんな風になるんです!

 そうなるくらいなら・・・やっちゃってください!」

「・・・いいんだね?」

「はい」

 

 ヒョウエの言葉に、目は揺れながらもきっぱりと頷く。

 

『ヤ、ヤメ・・・』

 

 次の瞬間、まばゆい光が視界を塗りつぶし、世界がひび割れる。

 水晶が砕けるその音の中に、ヒョウエは人ならざる古きものの絶望の悲鳴を聞いた気がした。

 

 

 

 ハッと気付くと、館の二階廊下だった。

 スケイルズとソル、セレと侍女二人が一緒におり、

 スケイルズ達は夢からさめたような表情をしている。

 

「クロウ? ソル? こりゃどうなって・・・」

 

 侍女二人がバタリと倒れた。

 

「おい大丈夫か・・・」

 

 かがみ込もうとしたソルがぎょっとして身を引いた。

 倒れた侍女二人の体が塵になっていく。

 痛ましそうに目を伏せたクロウにソルが気付く。

 

「クロウ! どういうことだ! お前、何か知っているのか?」

「それは・・・」

「みんな、もうとっくに死んでいたんです。地下の水晶が生きているように見せていただけ」

「セレ」

「クロウさん、ありがとうございます。最後に自分の体に戻れた」

 

 にっこりと少女が笑った。

 震える声でスケイルズが口を開いた。わかっているけどわかりたくない、そんな顔。

 

「せ、セレちゃん・・・」

「スケイルズさん、あなたのお話とても面白かったです。話してたのは私じゃないけど、あなたともっとおしゃべりしたかった」

「セレちゃん・・・そんな! 待てよ! そんなのないだろ!」

「最後に・・・ぎゅってしてくれませんか。男の人にそうして欲しかったんです」

「・・・」

 

 震える腕でスケイルズがセレを抱きしめる。

 

「ああ」

 

 嬉しそうに――本当に嬉しそうに微笑んで。

 セレの体は塵になった。

 

「あ・・・」

 

 クロウとソルが目を背ける。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 スケイルズの絶叫が館に悲しく響いた。

 

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