毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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第二章「暗渠の少女」
09-09 君去りてのち


「恐ろしい! 恐ろしい!」

 

     ――ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』――

 

 

 

 

 スケイルズが落ち着くのを待って、三人は館を見て回った。

 そこかしこに塵になった人と思われる痕跡が残っている。

 生きた人間は一人もいなかった。

 うまやから尖塔のてっぺん、厨房までをも回ったが、どこも数十年は放置されていたかのような荒れようだった。

 

「ダメだな、食糧もない」

「昨夜オレ達が食べてたのは何だったんだ・・・?」

 

 空元気も多分にあるだろうが、多少は調子を取り戻したスケイルズがゾッとした顔になる。

 

「魔法なんだろうな。そうとしか言いようがないよ」

 

 明かりをつけるとか火の玉を撃ち出すと言った小手先の現象を操る術ではなく、現実をまるごと改変する本物の「魔法」。

 魔術師を目指す三人の少年はそのスケールの大きさ、遠大さに思いを馳せて溜息をついた。ただ、ヒョウエでもあるクロウだけは慣れ親しんだそれとの違いに違和感を感じている。

 

(こんな現実そのものを改変するような術、よほどの大魔術師か精霊魔術・・・あるいは"真なる魔術師(トゥルー・ウィザード)"でもなくちゃできないはずだ。妖魔がそれだけ強力だと言われればそれまでだが・・・

 この世界は一体何なんだ? 思い返してみれば学院で習った術も系統魔術とはどこか違ったような気がする)

 

 物思いにふけっていたクロウの肩をソルが叩いた。

 

「どうした、クロウ。何か気になる事でもあるのか?」

「うーん・・・いや、よくわからない」

「なんだそりゃ」

 

 少し身構えていたスケイルズがどっちらける。

 肩をすくめてクロウが歩き出した。

 

「どこ行くんだ? もう大体回ったろ?」

「最後に地下室を見ておきたくてね」

「・・・ああ」

 

 ソルが頷いて歩き出した。スケイルズも後についていく。

 

 

 

「・・・これはすごいな」

「どれだけでかい水晶だったんだよ?」

 

 水晶の破片が散乱する地下室に踏み込んで、二人が感嘆の声を上げる。

 差し渡し10mほどの地下の広間は、一面大小の水晶の破片で覆われていた。

 暗闇の中クロウの作った魔法の光を反射する光景は、一種幻想的な美しさがある。

 

「そうだな、しげしげと見る時間はなかったが、4、5mくらいはあったか?」

「すごいな・・・」

「これ、いくつか持って帰ったら高く売れないかな?」

「「やめとけ」」

 

 クロウとソルのツッコミがハモった。

 三人で行動するようになって以来、結構起きている気がする。

 閑話休題(それはさておき)

 

「それは妖魔の一部だぞ。力が残っていたらどうする」

「最悪スケイルズを喰らって存在を乗っ取るかもしれませんね」

「ひえっ」

 

 二人がかりで脅されて首をすくめるスケイルズ。

 これなら小遣い欲しさにこっそり水晶をポケットに入れたりはするまい。

 

「・・・ん?」

「なんだよ、人にはやるなって言っておいて自分はポッケナイナイするのか?」

「一緒にしないでくださいよ、君じゃあるまいし・・・とと」

 

 言いながらヒョウエは散乱する水晶の破片の中を歩いていく。

 部屋の中央、かつて水晶が鎮座していたあたりで腰をかがめ、何かを拾い上げた。

 

「なんだ、それは?」

「なんだろう。指輪・・・かな?」

 

 拾い上げたのは半透明の色鮮やかな石で出来た指輪、少なくとも元はそうだったと思われるそれだった。

 ほぼ真っ二つに割れており、半円形の部分だけが残っている。

 

「翡翠か?」

「翡翠は赤と緑が混じってたりしないんじゃないかな・・・」

 

 こわれた指輪をつまみ、魔法の光に照らすクロウ。

 継ぎ目のない一つの石から削りだしただろう指輪はきらめく透明な部分、どんな翡翠やエメラルドも敵わないような鮮やかな(みどり)、炎のようにきらめく紅が入り交じって息を呑むほどに美しい。

 

「なんだそりゃ、すげえ・・・」

「こんな輝石は見た事も聞いたこともない。クロウ、お前はどうだ?」

「僕もありませんね。光の加減によって赤くきらめいたり緑色にきらめいたりする宝石(アレキサンドライト)があると聞いたことはあるけど、明らかに別物に見えます」

 

 まがりなりにも領主の息子であるソル、博識のクロウも聞いたことのない、奇妙で美しい石。三人はしばらくそれに見とれていた。

 

「ん・・・?」

「どうした」

「いや、何か魔力の流れを感じて」

 

 目を閉じて精神集中する。

 

「・・・」

「どうだ?」

 

 クロウが目を開き、息をついた。

 

「かすかに、ほんのかすかにどこかへ向かう流れを感じる・・・東、少し南だと思うけどそれ以上はわからない」

「きっとその片割れのところだぜ! 場所は洞窟の奥で、目もくらむような財宝があるんだ!」

「だといいですけどね」

 

 目を輝かせるスケイルズに苦笑する。

 

「取りあえず、この旅の目的は達しました。魔導学院に戻りましょう」

 

 二人が頷いた。

 

 

 

 数日かけて来た道を戻り、川べりの村に戻る。

 脅しがよほどに効いたのか、あのごうつくばりの村長はクロウ達の顔を見た途端安堵の息をついていた。

 船に近づくと現れる幻影をクロウが消し、数日ぶりに乗船する。

 

「どうだ?」

「荒らされてる様子はないね。まあ大したものは積んでなかったけど」

 

 声を合わせて笑う。

 やがて村長と、数人の村人のホッとした顔に見送られ、船は川岸を離れた。

 

 

 

 三人を乗せた船は河を下り、海に出る。

 

「しっかしすげえよな、クロウは! "影の霊魂"を一人で倒した上に古代の妖魔まで退治しちまうんだからよ!」

「まったくだ。才能の暴力にもほどがあるぞ」

「まあ色々と経験がありますので」

 

 肩をすくめるクロウ。

 しかし内心ではやや違和感を感じている。

 

(「クロウ」だった僕がベースになっているのはありますけど、今僕はクロウだったヒョウエとクロウじゃないヒョウエが融合した存在です。

 どうしてもどこかに違和感や差異は出ると思うんですが・・・)

 

「そう言えばスケイルズ、ソル。

 僕を見て何か変わったと思いません?」

「んー、特に? お前は初めて会ったときから滅茶苦茶変わってたからな。多少変わったくらいじゃわかんねえよ」

「俺から見ても特には・・・何かあったのか?」

「それはまあ色々ありましたよ。特に影の霊魂(ソウルシャドウ)との・・・そうですね、『戦い』なんて自分が消えてしまうかと思いました」

 

 適当な言い訳だが、それでも二人には納得のいくものだったらしい。

 

「まあそうだよな。変な幽霊に自分を半分持ってかれちまったんだから、そりゃ元に戻ってもしばらくはしっくり来ないだろうな」

「さすがのお前でも色々疲れてるんだろうな。雑事は俺とスケイルズでやっておくから、お前はゆっくり休んでろ。帆の向きの調整ならこいつにやらせればいい」

「えー。まあしゃーねーか」

 

 「鱗」の名前の通り海べりの村の出身であるスケイルズは、海で生きるための技能を一通りは身につけている。

 釣りほどではないが、泳ぎや船の操作もそれなりにこなせた。

 

「・・・そうですね。じゃあしばらくはお願いします」

「おう、任せろ。大船に乗ったつもりでどんと来い!」

「嵐でも来ない限りはやってもらう事はない。大人しく寝てろ」

「はいはい、感謝しますよ」

 

 笑みを浮かべながらクロウ。

 

(まあ、実際元から両方とも僕なんですから、変化と言うほどの変化はないのかもしれませんね)

 

 そう自分を納得させると、クロウは寝床に毛布を敷いて横になった。




「闇の奥」は「地獄の黙示録」の原作。
舞台が植民地コンゴからベトナム戦争に変わってはいますが。
戦争描写の方が有名な作品ですが、本来は白人による有色人種支配の愚かしさを描いた作品です。
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