毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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第一章「サムライレンジャーザンザザン」
02-01 ニシカワ伯爵家


 

 

 

「軍で使ってる具現化術式もすげえがニシカワの白甲冑、あれは本当に別格だわ。

 やっぱり真の魔法の時代の遺物(アーティファクト)は違う」

 

 

                     ――軍の魔導技師――

 

 

 

「ニシカワ伯爵家ですか? あの『白のサムライ』の?」

「そうそう。魔導鎧の調製を至急って依頼が来ててね。こっちも手が放せないんでヒョウエに行って貰えないかなってさ。伯爵家は金持ちだ、礼金は期待できるぞ」

 

 二年前、ヒョウエがその話を聞いたのは兄弟子の工房でだった。

 大型の魔道具を組み上げる手伝いが一段落ついたところでの打診。

 2mの体を窮屈そうにソファに沈めて香草茶をすする兄弟子を見上げる。

 後にトレードマークになる呪鍛鋼の杖は、まだその傍らにはない。

 

「それはありがたい話ですけど、こっちのほうはいいんですか?」

「後は細かい調整だけだもの。私たちだけで大丈夫よ」

 

 涼やかな声が割って入った。

 カップを持って兄弟子の横に座るのは水色の髪に眼鏡の麗人。こちらもヒョウエの姉弟子に当たる人物で、今は兄弟子と所帯を持って二人で魔道具の工房をやっている。

 

「じゃあ喜んで。『白のサムライ』をいじれるとはワクワクする話ですね」

「まったくだよ。俺だって仕事がなきゃ自分で思う存分・・・」

「あなた?」

「はい、すいません」

 

 結婚生活2年。すっかり尻に敷かれている兄弟子を見てヒョウエが失笑した。

 

「今は笑ってられるがな、ヒョウエ。いつかお前もきっとこうなるんだぞ。ああ、絶対にだ。その時になってお前は初めて俺とわかり合えるんだ」

 

 うらみがましげにヒョウエを睨む兄弟子。涼しい顔でカップを傾ける姉弟子。

 それを見比べてヒョウエはもう一度失笑した。

 

 

 

 ニシカワ伯爵家。貴族としての爵位名はダーシャ伯爵。

 名前の示すとおり、冒険者族を開祖とする家である。

 1500年ほど前の人物である初代イチロウ・ニシカワは冒険者であり、元の世界ではサムライ、正確には元サムライであった。

 サムライという存在が滅んだ時代の変わり目に生きた彼は、召喚された異世界で諦めていたサムライとしての生をまっとうしたいと望んだのである。

 

 真なる魔法の時代の遺物である魔導パワードスーツ・・・「白の甲冑」と称されるそれを手に入れた彼は英雄となり、伯爵家を新たに興す。

 今でも「白のサムライ」といえば酒場で歌われる英雄譚の定番だ。

 

 その後も代々の当主が白の甲冑を受け継ぎ、剣の達人を輩出してきた武の名家である。

 伝説に名高き白の甲冑をいじれることを別にしても、英雄の子孫である当代に会えるのは楽しみであった。

 

「おお」

 

 貴族の館として一般的な石造りではなく、白い漆喰の館。屋根も粘板岩(スレート)(平たく薄い石。西洋では屋根瓦の代わり)ではなく、和風の黒い粘土瓦。

 日本の城を思わせるそれは初代が故郷を懐かしんで建てたものらしい。

 中に案内され、応接間で待たされる事十分。

 

「あなたが魔導鎧の技師ですの? そんな歳で腕は確かなんでしょうね? しくじったら許しませんよ」

 

 つかつかと入って来た金髪の少女の第一声がそれだった。

 冷たい声。

 傲慢な眼差し。

 年齢は15才ほどであろうか。

 ニシカワ伯爵家令嬢リアス・エヌオ・ニシカワ。

 後ろには女中見習いであろうか、黒髪をシニョンにまとめた10才ほどの童女が付き従っている。

 

(ふうん?)

 

 二人を見比べていると、リアスがまた噛みついてきた。

 

「話をお聞きになってるのかしら? 腕利きと聞いたから依頼したのですけど」

「これは失礼。ですが、人を外見で判断するのは必ずしも正解とは言えませんよ。

 これであなたの十倍くらい生きているかも知れないんですから」

 

 ニヤリと笑ってみせると、金髪の少女はひるんで一歩退く。お付きの童女も僅かに表情が動いた。

 

「・・・本当にそうなんですの?」

「冗談です。ですが兄弟子の紹介を受けた依頼ですし、下手な仕事はしないことは誓いますよ。兄弟子の名前に傷はつけられませんからね」

「そう。きょうだい仲が良くていらっしゃるのね」

「・・・?」

 

 沈んだ物言いに首をかしげるが、聞き返しはしない。

 わずかに間を置いて、リアスが気を取り直したように口を開く。

 

「お部屋は用意させてありますので、仕事は泊まり込みでやっていただきます。このカスミをつけますので、何か必要なものがあればこの子におっしゃって下さい」

 

 控えていた黒髪の童女が一礼した。

 多少の質疑応答を交えて席を立つ。まずは現物を見ない事には話にならない。

 

 

 

 三人で連れ立って廊下を歩く。

 外観は日本の城のようだったが中は標準的な貴族の屋敷のおもむきである。

 ひょっとして建てた当時は板張りだったのかと聞くと、リアスが目を丸くした。

 

「ええ、初代様のお好みだったそうで、昔は壁に薄い木の板を張っていたと聞きます。

 数百年前の当主が改装して、以降はこのような普通の内装になったそうですが・・・どうしておわかりになりました?」

「まあ、こう見えて初代様と同類ですので」

「オリジナル冒険者族・・・!」

 

 リアスとカスミが揃って息を呑んだ。

 宮廷や冒険者の酒場を探せば冒険者族の一人や二人見つかる世界ではあるし、そもそもリアスもその血を引く冒険者族である。が、さすがに転移・転生してきたオリジナルは珍しい。

 そしてオリジナル冒険者族が例外なく強力な加護を持っている事は世に知れ渡っている。実際、明らかに二人のヒョウエを見る目が変わっていた。

 

(こう言うのは好きじゃないんですけどねえ)

 

 心の中で溜息をつく。

 前世の記憶を持つせいか、それとも生来のものか、肩書きや身分を振り回すのは苦手なヒョウエである。小市民とも言う。

 しかし依頼主に侮られているようではやはりいい仕事はできないし、多少ハッタリを利かせるくらいはこの際コミュニケーションのうちだと自分を納得させる。

 

「そういえばカスミさんも冒険者族の名前ですけど、ひょっとして?」

「ええ、元はと言えば初代様と一緒にこちらに来たオリジナル冒険者族のかたが先祖なのだそうで。初代様が家を興した後はずっと我が家に仕えてくれている一族なのですわ」

 

 かわいがっている妹を見るような目でカスミにほほえみかけるリアス。

 カスミは一礼したのみだが、それでもどことなく嬉しそうに見えた。

 ヒョウエが微笑ましげに眼を細めて。

 

「おやおや次期御当主様、お忙しいだろうにどうしたんだいそんな奴を連れて!

 それとも全部諦めて冒険者にでもなるつもりか、なぁっ!?」

 

 無遠慮な胴間声がその場の雰囲気をぶち壊した。

 

 

 

「ローレンス兄様・・・!」

 

 複雑な表情でリアスが闖入者を睨む。

 ニヤニヤとそれを見下ろすのは身長190センチほどの青年。

 貴族としてはラフな着こなしの胸元やまくり上げた袖からは、鍛え上げた筋肉の束が見える。立ち姿にも隙が無く、一見して腕の立つ戦士と知れた。

 顔立ちもそこそこ整ってはいるのだが、歯ぐきをむき出しにした下品な笑みがそれを台無しにしている。

 普段着だが腰の革ベルトには一本の刀。

 カタナを見たヒョウエがぴくりと眉を動かす。

 

「継承の儀はもうすぐだぜ? こんなところでご歓談してる場合じゃねえだろう」

「・・・この方は優秀な魔導技師です。そのために来て頂きました」

 

 かはははは、とローレンスが笑う。

 

「何人目だよ、おい? まあうまく行くことを願ってるぜ。ニシカワの御当主が『白の甲冑』を動かせないんじゃ末代までの恥だからなあ?

 もしそんなことになったら、廃嫡されてもやむなしだよなあぁぁ?」

「・・・・・・・」

 

 にちゃりとした笑みを浮かべてリアスの顔を覗き込む。

 唇を噛んで耐えるリアス。

 カスミとヒョウエが何かを言おうとする直前、ローレンスがぱっと下がる。

 かはは、とどこか無機質な笑い。

 

「まああんまり邪魔しても悪いからなあ。俺もそこまで暇じゃあないし。

 ま、せいぜい頑張ってくれよ技師の嬢ちゃん」

 

 ヒョウエが肩をすくめる。

 リアスの肩を乱暴に叩き、笑いながら男は去っていった。

 

 

 

「・・・・・・・!」

 

 憤懣やるかたないという顔でカスミが男の去っていった方を睨み付ける。

 どこか寂しそうにリアスが微笑んだ。

 

「およしなさい、カスミ。かわいい顔が台無しよ」

「ですがリアス様!」

 

 くやしくてくやしくてたまらない、そう顔に書いてある。

 

「それにあなたの無作法をヒョウエさんはどう思うかしら?」

「・・・! 失礼致しました、ヒョウエ様」

 

 無理矢理に平静な表情を取り戻して一礼するカスミ。

 ヒョウエがヒラヒラと手を振った。

 

「お気になさらず。女の子扱いされて僕だって怒ってるんですから」

「「えっ」」

「えっ?」

 

 三人三様のまぬけな声が上がり、数秒ほど時が止まった。




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