毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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09-13 男一匹釣り大将

「お、見えたぜ! あれが《雌馬の島》だな!」

 

 エコール魔道学院を出航して二ヶ月。「竜の眼」号は雪のちらつく中、第二島《雌馬の島》に到着していた。

 もっともこれは風呼びの術師であるソルが優秀だからであって、並の風呼び(ウィンドコーラ―)ならこの二倍、自然の風に任せていたら三倍かあるいはもっとかかった可能性もある。

 領主の息子でなければソルも船に乗って高給を稼げただろう。腕のいい風呼び(ウィンドコーラ―)は、しばしば船長よりも多くの報酬を手にする。

 閑話休題(それはさておき)

 

「何か感じるか?」

「んー・・・」

 

 結跏趺坐を組み、集中するクロウ。

 重ねた手の上に指輪の片割れ。

 

「前の"影"の時と違って方向がおぼろげで確信が持てない。東の方だとは思うんだけどね・・・」

「最悪《雄牛の島》まで行かなきゃならないか」

 

 クロウが無言で頷く。

 第四島《雄牛の島》は《雌馬の島》の東1000kmほどにあり、ここからだとソルの風呼びの術があってもさらに二月はかかる。

 現在は《雌馬の島》の北西の端の辺りだ。

 

「取りあえずは《雌馬の島》の北を回ってみよう。前みたいに感じる方向が変わったら、河をさかのぼるなり上陸して馬を買うなりして移動しよう」

「馬か。お前乗れるか?」

 

 領主の息子らしく、ソルは乗馬の心得はあるのだろう。

 クロウも「ヒョウエ」としては一応心得はあるが今の自分に出来るかどうかはやや心許ない。

 とは言えエブリンガーでやっているように念動で浮かせて飛ばせるには、媒介となる何かがないとかなり効率が悪くなる。三人ともなればなおさらだ。

 内陸を探索するなら馬は必須になるはずだった。

 

「歩かせるくらいは何とかなるかな? スケイルズは・・・」

 

 視線を向けると、例によってスケイルズは自分の世界にひたっていた。

 釣り糸と浮きに視線を集中させ、ピクリとも動かない。

 

「・・・こいつもなあ。この集中力を魔術の時にも発揮できればなあ」

「ほんとにね」

 

 二人して溜息をついた瞬間、浮きが沈んだ。

 

「うおおおおおお!?」

「な、なんだ!?」

 

 不動の姿勢から一転、全身に力を込めて踏ん張るスケイルズ。

 よほどの大物がかかったのだろう、

 

「クロウ! ソル! 助けてくれぇっ! 引きずり込まれる!」

「ああもう!」

「念動の術で引っ張り上げますよ!」

「それはダメだ!」

「え、なんで?」

 

 きっぱりした拒絶に思わず真顔でクロウが聞き返す。後ろからスケイルズの体を支えているソルも思わず真顔。

 授業や日常生活では見せない、こちらも恐ろしく真剣な顔でスケイルズが言い返す。

 

「言ったろう! 釣りは人と魚の勝負なんだ! そんな邪道で釣り上げて魚に失礼だと思わないかっ!」

「知るかぁぁぁぁぁっ!」

 

 思わず絶叫するクロウ。

 滅多に声を荒げない彼を叫ばせただけでも、ある意味スケイルズは偉業を成し遂げたと言えるだろう。

 だが直後、はっと何かに気付いたスケイルズの顔がこわばる。

 

「あああっ!」

「どうした?」

 

 律儀に一応聞いてやるソル。

 彼も割と付き合いが良いが、それはそれとして声に冷ややかな物が混じってるのは否定できない。

 

「糸が切れそうだ! マジで死ぬほどでかいぞこれ!? そうだクロウ、お前の念動で糸が切れないようにしてくれ!」

「糸に念動を使うのはいいんですか!?」

「いいんだよ!」

 

 思わずぶん殴ってやろうかと思ったが、それでも何とか糸に念動の術を絡ませて切れないように、しかしそれ以外の力は働かないようにする。

 

(む、難しい・・・!)

 

 動き続ける糸を切れないようにするだけなら嵐の中で船の中の物を固定したときの要領でやればいいが、釣りの邪魔も手助けもしないようにとなるとこれが難しい。

 集中の余り額にうっすらと汗が浮かんでくる。

 

「ぬぬぬ・・・!」

「ぬおおおおおおおお!」

「うおおおおお!」

 

 一方、二人がかりで必死に竿を支えるスケイルズとソル。

 三人がかりの格闘劇は、結局一時間以上続いた。

 

 

 

「はーっ、はーっ、はーっ」

「ぜえぜえ」

「お疲れさま・・・」

 

 一時間がかりで魚を疲れさせ、何とか釣り上げた三人。

 竿を持っていたスケイルズとそれを支えていたソルは疲労困憊して甲板に転がっていた。

 念動で糸を支えていたクロウはそれほどでもなく、今はクロウが風呼びの術を使って船を動かしている。

 

「しかし、それにしても・・・」

「ああ、やってやったぜ・・・」

 

 甲板に横たわり、力尽きて弱々しくパクパクとエラを開閉する魚。

 その体長は3m近くもあった。

 はじめて海面に姿を見せたとき、スケイルズとソルはもとより、前世の記憶でそうした魚を知っていたクロウですら瞠目したものだ。

 

「ふ、ふふふ・・・どうだ、釣り上げてやったぞ! 俺の勝ちだ! ははははは!」

「ふふふ・・・」

「ははは・・・」

「はははははははははははは!」

 

 満面の笑みを浮かべるスケイルズにつられてソルとクロウも笑い出す。

 どこまでも青い空と青い海のあわいに、少年たちの笑い声は長いこと響いていた。

 

 

 

「ンマァーイッ!」

 

 一口食べるなりスケイルズが叫んだ。

 そのままクロウのとっておきのタレを使った魚肉ステーキを、親の仇のように切り刻んで猛烈に胃袋に収めていく。

 ソルの方もそこまでではないが、やはりかなりの勢いでステーキにむしゃぶりついていた。

 

「いやあ、うめえなあ! お前の料理の腕は最高だぜ、クロウ! そう言えばこれを釣り上げたときの話はしたっけか?」

「その場で見てたしこの半日の間に五回は聞いたけど、したければどうぞ」

「うん、お前はやっぱりいい奴だ! あれは今日の昼、いつも通り釣り糸を垂れていたとき・・・」

 

 上機嫌でスケイルズが話し始め、クロウとソルが眼を見交わして苦笑した。

 

 

 

 数日後、三人は港町についた。

 わざわざ不純物を取り除いた水で作った例の魚の半身いり氷柱を念動で浮かべ、スケイルズとクロウは港をうろついていた。ソルは船で留守番である。

 流石に珍しいのか、住人がわらわらと集まってくる。

 

「おお、すげえな! これ一本釣りしたのか兄ちゃん!」

「おう! 三人がかりでな、二時間はかかったぜ!」

「なんつー綺麗な氷だ・・・こんな透き通ったやつは見た事もねえ・・・」

「そいつはクロウっつってな、エコール魔道学院始まって以来の天才なんだよ!」

 

 それら全ての人々と、スケイルズは十年来の友であるかのように親しく言葉を交わしていた。

 陽気で人なつこく、細かい事を気にせず、適度に知識があり、適度に馬鹿。

 人に好かれる要素を備えている上に、意図しているわけではないのだろうが相手の懐にするりと滑り込むのがうまい。

 

(僕やソルじゃこうはいきませんねえ)

 

 友人の意外な特技に感心しつつ、クロウは話しかけてくる女性陣に適当に愛想を振りまいていた。

 

 

 

 夕方、船。

 

「どうだった?」

「魚は氷こみで金貨二枚で売れたよ。軍資金の足しにはなるね」

「それっぽい噂は色々聞けたけど、漁師の怪談以上のもんじゃねえなあ」

「そうか・・・」

「まあこの島にあるとも限りませんからね。進みながら気長に探しましょう」

 

 例の魚の残り(まだ随分残っている)のムニエルをつつきながら、スケイルズとソルが頷いた。

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