毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「さて、どうしたものかな」
「女王様にそうそう会えるとは思ってなかったけど、やっぱり難しそうだね」
「指輪の繋がりはどうだ?」
「この都に近づいてから方向がわからなくなった。かなり近くにあるのは確かだと思う」
「黒曜石の都」の安宿。
半日ほど歩き回って(主にスケイルズが)情報を集めてからの作戦会議だ。
「ソルって領主の息子様だろ? それでどうにかならないかね」
のんきなスケイルズの言葉にソルがためいきをつく。
「隣の村の領主とかならまだしもな。俺の家は遠く離れた《使命の島》の小さな町の領主で、大きさはこの黒瑪瑙の王国の百分の一にもならない。
住民の数は下手すれば千分の一程度、目を引く特産品があるわけでもない。
興味を引けば会って貰えるかもしれないが、まあ門前払いで終わりだろうな」
第八島《使命の島》はこの群島の東南の隅にある島で、この《雄牛の島》からは直線距離で南に二千kmは離れている。
遠洋航海が未発達なこのビトウィーンでは他の島をぐるっと経由していかなければならないため、並の船なら最低でも半年はかかる遠い場所だ。
「うちの村の領主様は、相談に行けば大体会ってくれたけどなあ」
と、スケイルズ。
クロウとソルが揃って苦笑した。
「何せ数が多いからな」
「相談事がある住人にいちいち会ってたら、女王様の身がもたないだろうね」
「そりゃそうか。この町、俺の村の何百倍・・・いや、何千倍の人がいるんだ?」
「それより俺はこの宿の綺麗さに驚いたよ。うまやは手入れが行き届いているし、部屋はとんでもなくこざっぱりしているし、風呂があるし、食堂も清潔この上ない。
《使命の島》からエコールまでにあちこちの港町で宿屋に泊まったが、こんな綺麗な宿屋は覚えがないぞ。これで大して高級な宿じゃないって言うんだからな」
この世界で宿屋と言えば掃除は適当で寝床にはシラミがいて、食堂ではすえた何かの臭いがするようなものが普通だ。
(僕の時代でそんなことがなかったのは、文明の進歩だったんだろうなあ)
心の中で呟くクロウ=ヒョウエ。同時にそれはこの国が、時代に見合わぬ先進性とシステマチックな統治機構を持っている事を間接的に示している。
ますます簡単には会えないと言うことだ。
「どうするかねえ」
話が最初に戻るが、実際国家元首に簡単に会う方法など思いつくはずがない。
取りあえず諦めて三人は寝床に入った。
翌朝。三人が目を覚まして身だしなみを整え、さて朝食というあたりで部屋の扉が控えめに叩かれる。
「失礼します。宿の主ですが、城から使者の方が・・・」
三人が思わず顔を見合わせた。
「『名高きエコール魔道学院の俊英クロウ殿を王宮に招きたく』・・・?」
「クロウだけってのが気になるな。確かにこいつは度を超した天才だが、それでも世界の果てまで名が鳴り響くものか?」
「自分で言うのも何ですがさすがにどうでしょうねえ」
「いいなあ。うまい飯とか出るんだろうなあ。俺も女王様に誘われてみてぇ!」
「賭けてもいいですけど、そんないいもんじゃないと思いますよ」
城からの使者の用件は、クロウへの呼び出しであった。
出来る範囲で身だしなみを整え、普段は荷物の中にしまってある学院の術師の杖も取り出しておく。本来は卒業の証だが、今回の旅に出るにあたり、特別にクロウには授与された。
「こんなもんでしょうかね」
「指輪はどうするんだ?」
「うーん・・・結局のところ僕が持っているのが一番安全な気も」
「あ、そっか。相手も指輪を持ってて、その片割れに気付いたって線もあるのか」
「判断が遅い」
「あいてっ!」
ソルがスケイルズにデコピンする。
「まあたまたま見かけて僕の魔法の力に驚いた可能性もありますが、用心はしておくべきでしょうね」
「そういうことだ」
城へついた途端、クロウ達の努力は全て水泡に帰した。
クロウは即座に風呂場に連行され、隅から隅まで綺麗に磨かれ、香水を吹き付けられた後純白の絹のローブを着せられ、宝石の付いたいくつかの腕輪や指輪、額飾りを貸し与えられた。
残っているのは学院の術師の杖と、こわれた指輪を包んだ懐の白絹くらいのものだ。
「それでは女王様が謁見なさいます。どうぞこちらへ」
「アッハイ」
丁寧だが愛想のない廷臣に従って廊下を歩いていく。
周囲を観察しているのを悟られないよう、頭を動かさずに視線だけを周囲に飛ばす。
(・・・ディテクの王宮にも引けをとらないな。もうちょっと素朴な作りなのが普通だと思うんだが・・・)
この世界における豪華というのは、恐らく古代ギリシャやエジプト、あるいは春秋戦国時代の中国や紀元前のインドなど、そうした古代のそれに近いはずではないかと、前世の知識を持つ少年は思う。
だがこの宮殿に一番近いのは、恐らく中世から近代の中東。アケメネス朝ペルシャやオスマントルコと言った、これらの地域が世界の最先端だった時代の雰囲気。
改めてこの世界に似つかわしくない、先進的で豪華な装飾。
それらをいぶかしみつつ、クロウは謁見の間へ歩いて行った。
謁見の間はやはりディテク王宮のそれにも劣らぬ豪華で広大な物だった。
奥の玉座にかなり小柄な人影。
だが詳しく見る前に、案内役の廷臣に促されて腰をかがめ、頭を下げる。
「エコール魔道学院本年度首席、"数字の海を飛ぶ鴉"殿、ご入場」
「「「ご入場」」」
儀礼官の呼ばわる無感情な声に、十人ほどの廷臣が更に復唱する。
(首席ね)
多分成績を比べたらうぬぼれを抜きにしてもそうなると思うが、入学してからこの方、授業に出た日数より旅してる日数の方が長いので、ちょっと後ろめたいものがある。
(それはさておいても僕の素性はかなりのところまで知られてるみたいですね)
そんなことを考えていると、玉座から声がかかった。
「近うよれ」
「ははっ」
「女王様、訪問者をお近く寄らせたもう」
「「「寄らせたもう」」」
廷臣たちの輪唱が響くと共に、案内役の廷臣に従って体をかがめたまま玉座に近づく。
おそらく玉座から数メートルの距離で案内役が両膝をつき、クロウもそれに従って両膝をつく。
それを確認すると案内役は下がっていった。
「立つことを許す。
「女王様、訪問者に玉顔を仰ぎ見る恩寵を下す」
「「「恩寵を下す」」」
「・・・はっ」
立ち上がり、顔を上げたクロウの視界に飛び込んでくる女王の姿。
壇上の玉座にちょこんと座っていたのは、体の線が透ける薄物を着て、身の丈を越える黄金の杖を持った十歳ほどの少女だった。