毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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09-16 女王陛下はクロウを見ない

 あらためてちょこんと玉座に座る女王を観察する。

 年の頃は十歳くらい、服装は体が透けて見えるような光沢のある白い薄物の衣で、体中に宝石をはめた黄金の装身具。見事な刺繍の飾り帯で腰を締めている。さながらギリシャかエジプトの女神のようだ。

 小ぶりの頭から腰まで流れ落ちる黒髪には赤青緑、黄色にオレンジ・・・色とりどりの飾り紐が編み込まれていた。

 奇妙なのは瞳で、青くなったり赤くなったり、色が一定しない様に見える。

 

(「虹彩」とは言いますけど、ほんとに七色の目は初めて見ますね)

 

 ただしそれは右目だけの話で、左目は逆に全く色が無かった。

 瞳らしい物があるのはこの距離ならかろうじてわかるが、水晶のように透き通って広間を照らす魔法の光を反射している。

 

「そなたがクロウか。エコール魔道学院でも随一の俊英であるそうだな」

 

 どこか教わったセリフを棒読みしているような、そんな女王の言葉にクロウは深々と頭を下げて肯定の意を返す。

 

「それなりの自負はございますが、実際にそうであるかはわかりません」

「謙虚なことであるな」

「お言葉痛み入ります。ところで質問をお許し頂けますでしょうか」

「よい、許す」

「ありがたき幸せ。こう申しては何ですが、魔導学院とこの国はほとんど世界の反対側。一体いかにしてわたくしのことが陛下のお耳に入ったのでございましょう?」

 

 ちらり、と女王の無感情な視線が玉座の右側に向く。

 そこに立っていた黒いローブの、術師姿の男がうやうやしく頭を下げた。

 視線を向けたクロウがあることに気付く。

 

(・・・あれは)

 

 術師が持っていたのは今クロウが手に持っているのと同じもの。

 エコール魔道学院の卒業者に与えられる杖。

 それを持つのは少しシワの目立つ、五十ほどのこざっぱりした男性だ。黒い髪に白いものがまざっており、この世界ではすでに初老の域に入っている。

 

「はじめましてだね、クロウ君。我が同門の弟弟子よ。

 私は黒瑪瑙の王国の宮廷魔術師、"薔薇の聖者を運ぶもの"、プラマー。二十数年ほど前に魔導学院を卒業し、この杖を与えられた。

 学園に残った友人とは今でも手紙のやりとりが続いていてね。遠話の術で会話を交わすこともある。その中で君のことを教えて貰ったんだよ。

 土の精霊学のガールヴ先生の助手をしているヴィルという男だが、知っているかね?」

「いえ、まだガールヴ先生の授業は受けておりませんので」

「ああ、そう言えば彼の授業は二年目か三年目でないと始まらなかったな、失敬失敬」

 

 笑いながら左手で額をぴしゃりと叩く。

 人形のような女王と能面のような廷臣たちの中で、その人間くさい仕草は逆に違和感を感じさせた。

 

「ともあれそういうわけだ。納得はいったかね、クロウ君」

「得心いたしました。ありがとうございます、プラマー師」

「プラマーでいいよ。年は離れているが兄弟弟子だし、それを言うなら君も杖を授けられた身だろう」

「わたくしのは特例ですので」

「それだけ優秀であることには違いないさ」

 

 はっはっは、と気さくに笑うプラマー。

 その様は沈黙と無表情の宮廷の中で、やはり浮き上がって見える。

 

「クロウよ」

「はっ」

 

 女王の声に、クロウとプラマーがかしこまった。

 

「そなたに問う。なにゆえ我が王国に足を踏み入れたか?」

 

 来たな、と思う。

 玉座の右脇からのプラマーの視線を痛いほど感じつつ、女王の目を正面から見返す。

 

「学院から下されし使命にございます」

「使命とはいかなるものか?」

「わたくしの同級生、学院の生徒に"外套の帆を張る船"マルタンというものがおります。これが今強い呪いに苦しんでおりまして。生きながら肉体が腐ってゆく恐るべき呪いです。その様はまるで・・・」

 

 ヒョウエとして飲んだくれの師匠に鍛えられた語り部の技術、魔法の師匠でもある性悪の老婆に教え込まれた初歩のペテンの話術の双方を駆使し、嘘八百のデタラメをつらつらと並べ立てていくクロウ。

 

「ふむ」

 

 クロウが微に入り細に入り説明する恐ろしい呪いの症状。大人でも怯え叫ぶような語り口のつもりだが、この女王は眉をぴくりと動かしはしたものの動じた様子はない。

 本当の十歳の童女ならば、いかに取り澄ましていても怯えを隠せないだろうが、彼女はむしろ無表情の度合いを増すかのようだった。

 視線は女王に向けつつ、視界の端に映るプラマーの姿を意識する。

 静かに話を聞いているように見えるその姿からは、怪しい雰囲気は感じられない。

 

「・・・かくの如くむごい呪いを解くために我が学院の教師の方々も様々な手を尽くしました。その結果、彼には生き別れた双子の兄弟がおり、その双子と恐らくは生まれつきでしょうが魂の霊的な絆で繋がっていることがわかったのです。

 生徒マルタンの呪いもその双子と離ればなれになったゆえと教師は判断し、生き別れの兄弟を捜し連れ帰るように我らに命じたのでございます」

「さようか」

 

 やはり無表情無感動に頷く女王。

 クロウ渾身の口八丁であったが、のれんに腕押しのように手応えがない。

 

(となるとやはり・・・)

 

 そう思ったところで脇から声がかかる。

 想定したとおり、宮廷魔術師プラマーのもの。

 

「陛下、お客人に二、三質問をお許し願えますでしょうか」

「よかろう」

 

 女王が頷く。一礼してプラマーがクロウに向き直った。

 

「呪いと言ったが、双子の魂の繋がりというのは誰が言い出したのだね? 寡聞にして私はその様な話を聞いたことがないのだが」

「私もありませんが、召霊術のスィーリ先生の見立てで、副学長も賛同しておられましたので間違いはないかと」

「ふむ。では何故君たちが送り出されたのだね? このような世界の果てにまで届く大がかりな探索、教師の方々か、少なくとももっと熟達した術師が当てられるのではないかと思うが」

「学院では現在霊の世界との壁が崩れたことにより、教師方が総出でその対応に当たっておられます。また、これほど大規模にではありませんが、直前に私たちも別の探索を成功させていたので評価して頂いたのでしょう」

「霊の世界との壁が崩れたとは聞き捨てならんな。何があったのだね?」

「私が召霊をしくじったのです。その時に漏れ出でた邪悪な霊を封じるための探索でした」

「ふむ・・・」

 

 プラマーが考え込むのを見て、クロウは内心ほくそえんだ。

 

(手紙と言ったって、往復するのに一年はかかる。

 遠話の術も、それこそ学院で教鞭を取る"大魔術師(ウィザード)"クラスならともかく、並の術師が数千キロも離れた場所と簡単に行えるものじゃない。

 頻度はかなり低いはずだし、今からすぐ行うのも難しいだろう。

 つまり、僕の嘘を今見破ることはできない)

 

 恐らくその通りだったのだろう・・・ただし最後のそれを除いては。しばらく逡巡した後、プラマーが女王に向き直った。

 

「陛下、ご下問を」

「うむ」

 

 どういうことだとヒョウエが首をかしげた時、女王の口から聞いたこともない言葉がほとばしった。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■(答えよ。汝が言葉は真実か、偽りか)

「!?」

 

 聞いたこともないはずなのに、意味だけははっきりとわかる。

 それでも真実ですと答えようとした瞬間、舌が凍りついたように動かなくなった。

 

(これは・・・?)

 

 笑い声が響いた。勝ち誇ったようなプラマーの哄笑。

 

「陛下の前では偽りを申し述べることは叶わぬ! 陛下、御身を偽ったものに対する罰を!」

「うむ」

「!」

 

 やはり無感情に頷いた女王の右目が虹色の光を放つ。

 視界が歪み、虹色に輝く目が目の前に迫るような感覚を覚えて、次の瞬間クロウの周囲が漆黒の無に包まれた。

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