毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
気がつくと周囲は真の闇だった。
ただし《雌馬の島》で体感したような、水晶の中の精神世界ではない。
自分の肉体はある。
咄嗟に懐に手をやる。
固く小さい何かが入った絹の包みの手触り。
こわれた指輪は無事らしい。
(ふう)
安堵の息をつき、今度は周囲を探ってみる。
手触りからすると、どうも岩肌、岩壁。
(洞窟かな・・・む?)
周囲の気配を探る内に違和感に気付いた。
「"
極々簡単な初歩の呪文。それが発動しない。
(・・・)
体内に魔力を巡らせてみる。
魔力はきちんと練れるし、体内循環も問題ない。
(となると・・・"
恐らくは魔素の欠乏空間。魔術で作ったかあるいは天然のものかはわからないが、そうした場所に放り込まれたのだろう。
術師を封じるには最適の牢獄だ。
(すうーっ、はぁーっ・・・)
深呼吸。ここではないどこかから来ている"
(これがあれば何とかなる)
魔力を目に集中する。
闇に慣れた目に魔力を注ぎ込み、一時的に感覚を鋭敏にする。
完全な闇を見通すことは出来ないが、ごく僅かにでも光があればそれを拡大できる猫の瞳。
言ってみれば裏技のようなものだ。
生物の体内にごく僅かに存在する魔素を用い、体内だけで完結するゆえに周囲の魔素欠乏に左右されない。
ただし極々微量ゆえに、その分は魔力を湯水のように注ぎ込むことで補わなくてはならない。
穴の空いた鍋に水を注ぎ続けるようなもの。普通の術師なら一瞬術を発動させるのがせいぜいだ。
しかし、クロウは違う。
普通の術を使う分にはほぼ無制限の魔力源である"
この程度であればいくらでも魔力を注ぎ込み、術を維持できる。
・・・が、周囲を覆う闇はいかに目をこらしても見通せなかった。
(魔法的に闇を見通してるわけではないからなあ)
あくまで目の感覚を鋭敏にして極々僅かな光を拡大しているだけだ。
本当に全く光がないのであれば意味がない。
そして、どうやらここは本当の真の闇だったらしい。
感覚を強化しても全く周囲の様子がわからない。
(しょうがないなあ)
何か使えるものが無いかと体をまさぐり始める。
持ってきたものは着替える時にほとんど全部預かられてしまったので、今身につけているのは術師の杖と絹のローブ、そしていくらかの装飾品だけだ。
首飾り、腕飾り、指輪、額冠。
(鉄製のものと硬い宝石があれば火打ち石の要領で火を起こせるんだが)
色々カチカチ打ち合わせてはみたが、やはり装身具だけあってほとんどが金か銀か、何か柔らかい金属で出来ていた。
幸い腕飾りの鎖が鉄製(多分)ではあったものの、宝石はやわらかい物であるのか、それとも丸いせいか火花が起きない。
(最悪歯で火を起こさなくちゃならないか・・・?)
歯は鉄よりよほど固いため、火打ち石代わりに使えないこともない。
しかしそれは嫌だなあとしばらく考えて、試していないものがあるのに気付いた。
ローブのすそを破り、糸をばらして平たい石?の上に置く。
その上に鉄の鎖を置いて端を固定。右手に持ったもので激しくこする。
激しく火花が散り、やがて糸に引火して火口になる。
それを元にローブを引き裂いた布で作ったこより――いわゆる紐ほくちと呼ばれるものの代用品――に着火。
明かりを入手して何とか息をつく。
「やれやれ、何が役に立つかわからないものですね」
苦笑しながらクロウは鉄の鎖をこすって火花を出した火打ち石・・・黄金竜の目から削りだした指輪の片割れを懐にしまい込んだ。
作った紐ほくち――イメージ的にはロウソクの芯だけに火をつけているようなもの――と杖を手にクロウは歩き始める。
細い紐の先端に僅かに灯った光。マッチやロウソクの光よりも更に頼りない、線香よりはまし程度の代物だが、視覚を限界まで強化した今のクロウなら行動に支障はない。
(・・・)
周辺を見渡してみると、やはり洞窟だった。
天井は数メートル、差し渡しは10から20mほど、尖った先端のあたりにいたらしい。
隅の方に1mほどの開口部があり、鉄格子がはまっていた。
(まあ当然鍵はかかってますよね)
鉄格子はそれほどがっしりしたものではないが、魔法の使えない人間が破壊できるようなものでもない。
膝をついて隙間から手を伸ばし、鍵穴を確かめる。
(これならどうにかなるかな・・・? 最近練習サボってたからなあ)
ベルトを引き抜き、留め具を解体して針金のようなものを作る。
それを鍵穴に突っ込み、かちゃかちゃやりはじめた。
今のディテク王家は元々オリジナル冒険者族が起こした家だ。
1200年前、当時の王がこともあろうに眠りについていた"真の龍"に手を出して族滅の憂き目にあった。
そのたった一人の生き残りである王女を守り、当時の「白のサムライ」や影の一族と共に真の龍を倒した冒険者こそ、現在の王家の祖なのである。
そう言った理由で、王族の子弟には様々な冒険者技能の習得が義務づけられている。
もっとも千年以上も経てばしきたりも形骸化しており、大体は形だけのものだ。
それを大まじめに学び、習得したのがヒョウエであった。
盗賊系、野外系、交渉系、医学系、製作、芸能・・・むろん剣や弓、格闘、乗馬と言った基本的な戦闘技能もだ。
どれもこれもかじった程度ではあるが、素人ではない。
武道で言えば初段を取れるかどうかというレベルには達している。
ゲームで言うなら魔法技能30レベル、その他全ての技能が1レベルと言ったあんばいだ。
(何でも勉強しておくものですね・・・でもたまにはおさらいしておこう)
モリィが仲間になって以来、しばらく使ってなかった鍵開け技能である。
せめてこれからはもうちょっと復習しておこうと、悪戦苦闘しながらクロウは決意した。
2、30分ほどもかちゃかちゃやった後、ようやく錠前が鈍い音を立てて外れた。
「ふはー・・・」
しばらくぐったりしたいのをこらえ、素早く外の様子を窺ってから牢獄を出る。
元通りに鍵を閉め直す時間が勿体ないので鉄格子の扉を閉めて、手近の石で動かないように固定しておく。
(さて)
左右を見渡す。
恐らくは天然の洞窟に手を加えたのだろう岩のトンネル。
ひょっとしたらと期待したが、やはりここも魔素欠乏地域のようだ。
明かりの魔法を諦めて耳に魔力を集中。感覚を強化してしばらく耳を澄ませたが何も聞こえない。
(・・・)
指を唾液で濡らし、空気の流れを確かめる。
僅かに風の吹いてくる方を目指し、クロウは洞窟を歩き始めた。
「誰じゃ? そなたプラマーではないな?」
「・・・え?」
数十分ほど歩いて見つけた、同様の牢獄。
見たものと聞いたものが信じられず、驚愕の余りほくちを落としそうになる。
牢の暗闇に溶け込む漆黒の髪。
暗闇の中でも光を放つ虹色の瞳。
岩肌にもたれるように座っている小さな体。
鉄格子の中、無感情にクロウを見返してくるのは、間違いなく先ほどこの地の底へ彼を飛ばした黒瑪瑙の女王だった。