毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
暗闇の中、思わずまじまじと目を凝らすが、鉄格子の中にいたのはやはり間違いなく黒瑪瑙の女王を名乗っていたあの少女だった。
「陛下・・・何ゆえこのようなところに?」
「お主、先ほどの術師か。クロウとか申したか?」
ん? と首をかしげる女王。
無感情なのは変わらないが、先ほどよりは年相応に見える。
「はい、エコールの術師見習いクロウにございます。重ねてお尋ね致しますが、陛下は何ゆえこのようなところに?」
「わらわは常よりここにおる。時折プラマーがここから連れだして宮殿であれこれやる以外はな」
不愉快なものを感じた。下腹のあたりで、何かもぞりとうごめいたものを押さえ込んで言葉を重ねる。
「ご不満をお感じにならないのですか」
「ずっとこのようなものだ。特に不自由は感じておらぬ」
「ずっとこの地の底におられるのにですか」
「そうだ。わらわは黒瑪瑙の女王だからそうすることが必要なのだとプラマーが言っておった。・・・お主はいったい何を怒っておるのだ?」
「おわかりになりますか」
無感情のように見えて、他人の感情を察する能力はあるらしい。
そのままクロウは先ほどの針金もどきを取り出して、鍵穴をかちゃかちゃやり始める。
「何をしておるのだ、そなた?」
「扉を開けて外にお連れします」
「何のために」
「私がそうしたいからです」
首をかしげはしたものの、童女はそれ以上を問わなかった。
クロウの言葉に抑えきれない怒気が籠もっていたせいかもしれない。
先ほどの試行でコツがつかめていたせいか、今度は十分弱で鍵は開いた。
腰をかがめて狭い開口部をくぐると、幼い「女王」の前で膝をつき、頭を垂れる。
「どうぞ御身を外に連れ出すことをお許し下さい、陛下」
「何のためにじゃ」
芯から理解出来ないと言うように、またしても童女が首をかしげる。
ただクロウが本気なのは理解しているらしかった。
その証拠に戸惑ってはおらず、ただ純粋に疑問に思っているように見える。
「そうでなくてはいけないからです」
「何故じゃ?」
「陛下、あなたは生きておられない。自分の意志というものを持っておられない。
それが生まれつきや不幸な偶然によるものならまだしも、他者の思惑――恐らくはプラマーの――によってそうされていると言うことが私には何より我慢ならないのです」
顔を上げて童女と視線をぶつける。
虹色に輝く右の瞳と、色のない左の瞳。
ロウソクよりも頼りない明かりの中で、それでもその目はしっかりとクロウの視線を捉えているようだった。
「・・・」
「・・・」
沈黙が続く。
理を説き、言葉を尽くすことはできる。
だがこの少女にはこれが一番届くはずだ。
そう信じてじっと少女の目を見続ける。
「・・・」
「・・・」
どれだけ経ったろうか。
ふと、わずかに少女の目が揺れ、視線を足元に落とす。
「そなたはそれを望むのか」
「はい」
また沈黙があった。
何かを言おうとしては口をつぐむ。そうした事が何度も繰り返される。
クロウは辛抱強く待った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よい。許す」
長い長い沈黙の後、ついに少女の唇から言葉が漏れた。
「はっ」
笑みを浮かべ、クロウが再び頭を垂れた。
「手をお放しになりませんように」
「うむ」
右手にほくち、左手で女王の手を掴みながら闇の中を進む。
「方向はこちらで間違っていませんか」
「プラマーが連れに来た時はそうだった」
「ありがとうございます・・・あのようなところにいて、疑問は持たれなかったのですか?」
「女王は尊いものであり、俗人の目に触れさせてはならない。それにここの方が安全だ。そうプラマーは言っていたな」
「そうですか」
ふむ、と女王が首をかしげる。
「先ほどもそうだったが、そなたはなにゆえ怒る? 何がそんなに腹立たしいのだ?」
「そうですね、一言で言うなら・・・義憤でしょうか」
「さようか」
わかってはいなさそうな口ぶりで女王が頷いた。
「人は誰かが苦しむとき、それを助けたいと思うものです。
不正義が行われているとき、それに憤るものです。
そして誰かが涙を流していれば、それを止めたいと思うのです」
「わらわは泣いていたか?」
相変わらず無感情に見えるが、それでも初めて会ったときより表情がゆるんでいる気もする。
クロウは頷いた。
「わたくしの傲慢かもしれませんが、そう見えました」
「そうか」
女王が少し考え込んだ。
「そなたクロウと申したな」
「はい」
「わらわがそなたにこうしてついてきた理由がわかった。
そなた、懐かしいにおいがする」
「懐かしい・・・ですか。それはどのようなものでしょう」
「わらわにもわからぬ。ただそう感じたのだ」
「・・・」
そこで言葉が途切れた。
二人はそのまましばらく洞窟を歩き続ける。
洞窟は昇るでも降りるでもなく、緩やかに左にカーブしながら続いている。
「そう言えば」
「なんだ?」
「御身の名前をうかがっておりませんでした」
「ない」
「・・・は?」
思わず足を止めて振り返る。
「今、なんと?」
「ないと言った」
「ばかな!」
思わずクロウが叫ぶ。
この世界において名前とは存在そのものである。
真の名前であれば、名前を持たないと言うことは存在していないこととイコールだ。
通常使う名前であっても、それがないと言うことは存在の欠損を招く。
隠しているならまだしも、「ない」と言うことはあり得ない。
(・・・!)
そこまで考えたところで閃くものがあった。
(古代妖魔か!)
「名前を奪う」などと言うことはそれこそ神か、学院の言霊のマスターでもなければ不可能だろうが、原初の存在である古代の妖魔ならばあるいは可能かもしれない。
(ソルがいればなあ)
ソルはほぼ全ての分野にわたって優秀だが、言霊の術、そして名前を探るのが特にうまい。
協力して貰えば何かわかったかもしれない。
ただ、少し引っかかるものがあった。
(おそらく古代妖魔がこの件の裏にいるのは確定だ。
しかし、それならセレや他の人たちみたいに魂を喰らって体を動かせば済むはず。
多分城の人たちはそうだろう。プラマーは少し違う気もするが・・・。
けど、それとも彼女は違う。わざわざ名前を奪って魔素欠乏空間に幽閉している。
よほど強力な力を持っているから? 名前を奪われ、能力が低下した状態でさえ、僕を地下に直接送り込めるだけの力があった。それを利用するため?
いやそもそも・・・彼女は何者だ?)
「・・・」
「なんじゃ?」
まじまじと少女を見るクロウ。
少女がきょとんと、恐らく初めて年相応の表情を浮かべて困惑した。