毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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09-20 一つの指輪

 黒瑪瑙の女王に仕える――ということになっている――宮廷術師プラマーは上機嫌であった。

 長年探していた指輪の片割れが向こうからやって来て、少し手間取りはしたものの入手に必要な鍵と情報を手に入れ、後は実際にそれを手にするだけ。

 鼻歌の一つも歌いたい気分で地下の洞窟に通じる隠し通路を開き、兵士数人と捕虜二人を連れて地下通路を進む。

 先頭の兵士の一人がたいまつ、最後尾の兵士がランプ(ランタンではなく手でこすると魔神が出てくるほう。本来は油を入れ、注ぎ口に火を灯す照明器具)で暗い洞窟の中を照らしている。

 女王を閉じ込めている岩屋の鉄格子が見えてきて、更に笑みが大きくなる。

 

(指輪を手に入れ、~~様に献上すれば私も更に・・・)

 

 そうやってほくそ笑んでいると、一陣の風が吹いた。

 

「ん?」

「ぎゃあっ!?」

 

 ランプを持っていた兵士の悲鳴が響き、後ろからの明かりがふっと消えた。

 前を歩いていたプラマーが振り向いた瞬間、何かが脇を通り過ぎる。

 ほとんど同時に松明を持っていた兵士の悲鳴。

 更に振り向くと何者かが倒れた兵士から松明を奪い取り、女王の牢屋の中に放り込んだところだった。

 

 ランプと松明、光源を失って洞窟の中が一瞬にして真っ暗になる。

 女王のいる筈の岩屋から僅かに明かりが漏れているものの、常人には真の闇とほとんど変わらない。

 悲鳴が何度か響いた後、洞窟は静かになった。

 

「・・・」

「・・・」

 

 両手を縛られ、腰縄を着けられたスケイルズとソルは息を潜めて壁に身を寄せていた。

 前後を固めていた兵士達も恐らくは倒されたようだが、こちらに対する攻撃はない。

 きい、と音がして洞窟にはまった鉄格子が開くのが見えた。

 何者かが中に入り、松明を手にして出てくる。

 その顔に二人は見覚えがあった。

 

「クロウ!」

「クロウ! ひゃっほう、信じてたぜ!」

 

 オレンジ色の炎に照らされた顔がニカッと笑った。

 

 

 

「これが女王様なのか?」

「確かにただ者じゃないようには見えるが・・・」

「わらわは女王じゃ。少なくともプラマーはそう言うておった」

 

 しばし後。二人の拘束を解き、女王を連れてくる。

 縛られていた手首をさすりながら、物珍しそうに少女を眺める二人。女王は相変わらず無感情に答えを返す。

 火の消えたランプに松明から火を移していたクロウが顔を上げた。

 

「少なくとも宮廷で謁見したのはその子だし、僕を岩屋に直で送り込んだのもその子だよ。強い力の持ち主なのは間違いない」

「そんな子が何でお前と一緒に?」

「それがね・・・」

 

 クロウが経緯を語り終えたときには、スケイルズもソルも眉間にシワを寄せていた。

 

「なんだそりゃ!? プラマーの野郎許せねえ!」

「・・・」

 

 怒りを吐き出すのはスケイルズ。ソルも無言ながら怒りの表情を隠さない。

 

「そなたらも怒るのだな。自分の事でもなかろうが?」

「関係ねーよ! 子供をこんなところに閉じ込めていいわけねえだろうが!

 くそ、むかつく! 一発殴らなきゃ落ち着かねぇ・・・!」

 

 クロウとソルが苦笑する。

 しかしスケイルズが倒れたプラマーの方に歩き出した瞬間、黒い波動が走った。

 

「ぐっ!」

「ぐわっ!?」

「ぎゃっ!」

 

 クロウたちが壁に叩き付けられた。ソルとスケイルズは倒れて動かなくなり、クロウは壁にはりつけにされる。

 黒い波動を発しているのは上半身を起こしたプラマー。

 青あざの出来た右目を憎々しげに細め、開いた右手から波動を発している。

 

「おのれ、小僧ども・・・舐めやがって! 鼻と耳を切り取って豚の餌にしてやるぞ!」

 

 気さくで洗練された宮廷術師の面影は最早微塵もなく、チンピラじみた脅し文句を口にするプラマー。

 だがその様な豹変よりも、よほどクロウを驚かせたものがあった。

 

「馬鹿な、魔素欠乏空間で魔法を・・・いや、その力、妖魔の力か! お前妖魔と契約したな!」

「正かぁい・・・」

 

 ぬらぬらと、ぬめるような笑顔を浮かべるプラマー。

 ゆらりと立ち上がって一歩一歩、クロウの方に近づいてくる。

 

「学院を卒業したとは言え、平凡な私は大した職には就けなかった。生まれ故郷のこの村の呪い師として生きるのがせいぜいだった!

 だがそんな時見つけたあの巨大な黒瑪瑙(ブラックオニキス)

 あのお方が私に力を与えてくれた! 見ろ、この黒瑪瑙の都を! 《雄牛の島》の片田舎のへんぴな村がここまでになったのだ! 全ては私とあのお方の力だ!」

 

 取り付かれたように喋りながら、懐に左手を入れる。

 取り出したのは、青やオレンジの色味がかかった、半透明の輝石で出来た半欠けの指輪。

 

「!」

「顔色を変えたな? 持ってるんだろう、どこだぁ・・・っ!?」

 

 クロウに触れようとした手に、静電気のようなバチッという音とスパークが走る。

 

「ちっ、悪あがきを」

 

 身動き取れないクロウのせめてもの反抗。体に触れるものに対しての、体内の魔素を使った魔力での攻撃。

 だが離れてしまえば魔素のない空中では魔力は雲散霧消してしまう。

 

「兵士ども・・・は使えんか、役たたずめ」

 

 ぐるり、と。120度近く首を回してプラマーが少女を見た。

 無表情に立ち尽くしているように見える少女だが、その目が僅かに揺れている。

 

「しょうがありませんね。陛下、そいつの懐から指輪のカケラを取って下さい。

 箱か何かに入っているでしょうから、直接触れてはいけませんよ・・・」

 

 目の揺らぎが更に大きくなる。

 プラマーの表情がいぶかしげなものになった。

 

「おい、どうした?」

「わ、わらわは・・・」

「私の命令に従え、名無しの女王! お前は私のものだ!」

「う・・・う・・・」

 

 語気を強めるプラマー。少女はついに頭を抱えてうずくまってしまう。

 

「チッ! 役たたずめ!」

 

 プラマーの罵り声を聞きながら、ソルは考えていた。

 随分前から意識は戻っており、隙をうかがっていたのである。

 

(名前を奪うか。神々でもなければできないことだと思っていたが古代妖魔ならば・・・うん?)

 

 ソルは人、物に関わりなく名前を探り出す事がうまい。名前というか、名前に関係する本質を感じるセンスを備えていると言うべきだろうか。

 そのセンスが今、少女の中にある欠落とプラマーの左手にある指輪の片割れに重なる存在を感じとった。

 直感的に体が動く。素早く起き上がってプラマーに体当たりする。

 頭に血を昇らせて注意がおろそかになり、不意を突かれたプラマーは為すすべなくソルに組み伏せられた。

 左手の指輪をもぎ取り、それをクロウに投げつける。

 顔を何とか動かして、それを口でくわえるクロウ。

 

「クロウ! その指輪が鍵だ! その指輪の中に彼女の『名前』がある・・・ぐわっ!?」

 

 至近距離で放たれた黒い波動がソルを吹き飛ばす。

 ボロ雑巾のようになったソルが血を吐いて、壁にぶつかり地面に落ちた。

 

「このっ・・・!」

「させるかぁぁぁぁ!」

 

 全力の黒き波動をクロウに叩き付けようとするプラマー。

 だが、ソルのおかげで一瞬緩んだ拘束を逃さず、魔力を振り絞って体を動かしたクロウの方が一手早い。

 口にくわえたプラマーの持っていた片割れ、そして懐から取り出した水晶の城で見つけた片割れ。

 その二つを合わせるとごく自然にひび割れは融合し、一つの指輪になった。

 

「思い出しなさい! あなたの名前を!」

 

 少女が顔を上げる。

 虹色の右目と、色のないガラスの左目。

 

「御身が名は『アルテナリナリエン』! 今、御身にお返し申す!」

 

 突き出した手。七色の輝石の指輪が自然に宙を飛び、色のないガラスの目に吸い込まれる。

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!』

 

 プラマーの無言の絶叫。

 あるいはそれは、彼を堕落させ、魂を喰らって操り人形とした古代妖魔の断末魔だったかもしれない。

 その時クロウは固い何かがひび割れ、砕ける音を聞いた気がした。

 

 ガラスの目に色が戻る。右と同じ虹色の瞳。

 まばゆい虹色の光。その中でプラマーが恐怖の表情を浮かべ、兵士達の体が塵となる。

 そして全てが光に包まれた。

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