毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
その日、黒瑪瑙の都の民たちは見た。
女王の城からまばゆい虹色の光の柱が立ちのぼり、黒い城が崩壊したのを。
瓦礫の山と化した城からは、不思議な事に遺体は一つしか発見されなかった。
そのたった一つの例外である宮廷術師プラマーの遺骸は驚くほど綺麗に残っていたが、その顔は恐怖に歪んでいたという。
神々の怒りだというものもいた。
天を舞う黄金の竜を見たというものもいた。
エコール魔道学院の杖を持った大魔術師が宮廷術師と魔術勝負の末に城を崩壊させたのだと言うものもいた。
だが時と共にそうした噂も忘れられていった。
城下町の有力者が合議で国を動かす事を決め、やがて新たな王が推戴された。
前ほどの巨大なものではないが城の跡地に新たな宮殿が造られ、幾ばくかの混乱や衰退はあったものの黒瑪瑙の王国は存続していくことになる。
「うあああああああああ!?」
「うおおおおおおおおお!」
「うわあ・・・!」
蒼空を駆ける黄金の翼。
頭から尾の先まで全長10m、翼の差し渡しもそれくらい。
黄金の鱗を持つ龍。たてがみにはいくつもの、色とりどりの飾り紐。
その背中にクロウ達三人が乗っていた。
『
竜が振り向き、背中のクロウに話しかける。
その瞳は虹の色をしていた。
「喋った?!」
仰天するのはスケイルズ。思わず後ずさって、竜の背から落ちかけたところをクロウの念動に救われるていたらくだ。
「いや・・・龍だしそれは喋るだろう。だが何語を話しているんだ? 音は全然聞いたこともないのに意味は理解出来る・・・」
多少なりとも冷静なのはソル。
だが彼も表情から溢れる畏怖と驚愕の念は隠し切れていない。
「大丈夫ですよ、アルテナ」
『
「愛称という奴ですよ。人間は親しい仲では名前を縮めて呼ぶんです。不愉快なら"アルテナリアリエン"とお呼びしますが」
ちょっと間が空いた。
『
「わかりました」
笑顔で頷くと、クロウは後ろを向いた。
目を丸くしている二人に少し笑みを浮かべる。
「な、なあクロウ。ひょっとしてこの龍、あの女の子なのか?」
「ええ。多分あの黒瑪瑙の城にいた妖魔とプラマーに名前を奪われて、とらわれの身になっていたんです。その辺の詳しい事は覚えていますか?」
ちらりと視線をやると、黄金の龍はかすかに首を横に振った。
「ですか。で、プラマーが名前を奪う媒介に使ったのがあの指輪の片割れで、指輪が元の形を取り戻してアルテナのものになったことで彼女の名前もまた再び彼女のものになったと、そういうわけです」
「彼女――まあ女性だからそう言うが――の使う言葉はなんなんだ? まさか」
「ええ。『真の言葉』でしょうね」
「真の言葉」。真言、マントラ、トゥルースピーク、ディヴァインタング。色々な言葉で呼ばれるが、神がこの世を創造したときの原初の言葉であると言われる。
言葉自体に力があり、言葉を発するだけで様々な現象を引き起こすことが出来る。
今人間たちが使っている言葉は、言ってみればその劣化版だ。
「彼女が名前を奪われて操られていたときにこの言葉で『真か嘘か?』と語りかけられたんですけど、虚偽を口にすることが出来なかったんですよ。
これも言葉自体の力のせいじゃないかと」
「うーむ」
「はえええ・・・」
感心するやら驚くやらで唖然とする二人。
話が一段落したと思ったのか、黄金の龍――アルテナが再び振り向いて話しかけてくる。
『それでどうする。クロウが行きたいところに連れて行ってやるぞ』
「そうですね。取りあえず帰らないと」
『家に帰るのだな。わかった』
「ん? うわああああ!?」
「うおっ!?」
「ひえええええええ!」
ぐん、と世界が揺れた。
水平に飛んでいた龍が、垂直に急降下し始める。
「うわあああああああああ! 嫌だ死にたくないいいいいいいいいい!」
絶叫するスケイルズにもお構いなしにぐんぐんと地面が近づいてくる。
地面に激突する、と思った瞬間視界が暗転し、クロウは意識を失った。
「知ってる天井だ・・・」
「ヒョウエくん!」
「ヒョウエ!」
「ヒョウエ様!」
「何言ってんだよこの馬鹿!」
気がつくと見知った我が家の天井が見えた。
周囲の少女たちがわっと駆け寄り、涙目で笑うモリィに頭をはたかれる。
どうやら魔法陣の中心に寝かされていたようだった。
安堵で胸をなで下ろす女執事に視線を向けた後、ふぇっふぇっふぇ、と笑う老婆に目が止まる。
「メルボージャ師匠。これはどういう事です?」
「ふむ。小娘ども、ちょいとどきな」
しっし、とリーザ達を追い払い、ヒョウエの額に手を当てる。
「なるほど、一度分裂した影響で記憶の混乱があるようじゃな」
「それと耳鳴りというか、ガンガンさっきから・・・後胸も重くて」
「おまえ、足元に幽霊が二人立ってんぞ。そいつらが話しかけてるせいじゃないか?」
「え、ひょっとしてソルとスケイルズ!? どうして?」
「耳鳴りはそれじゃな。胸が重いのは単にこれのせいじゃ」
老婆がヒョウエの胸元に手を突っ込むと、金色の塊が引きずり出された。
「え?」
「何だこれ?」
「ありゃ」
すーすーと寝息を立てているのは金色の小さなドラゴン――大きさこそ違うが、その特徴は紛れもなくアルテナのものだった。
「そしてほいっと」
ぱちん、とメルボージャが指を鳴らすと、横になったヒョウエの足元にスケイルズとソルの姿が現れる。
「おお! 体がある!」
「こいつら霊体じゃな。さっきからお前に話しかけておったが、お前の霊感が鈍いからはっきり聞こえなかったんじゃよ」
理屈はわからないが、とにかく霊体を実体化させたか何かしたのだろう。
「相変わらずデタラメな人ですねえ」
「いやもう本当に・・・驚きすぎて何に驚けばいいのかわからないが、一体どういう事なんだ、クロウ?」
「というかこの幽霊ども誰だよヒョウエ?」
いきなり現れた二人の少年に、混乱に拍車がかかる。
起き上がったヒョウエが肩をすくめて首を振った。
「おまえら黙らんかい。小僧もその辺を忘れているようじゃし、一から話してやるとするかの。
取りあえずそこの小僧二人、お前らはこの世界の人間ではない。
お主らにはその
「え? ああ、うん」
「・・・どういうことですか? 私たちとあなた方で、彼の見え方が異なっていると?」
「ほう」
「こやつ少しはできそうじゃな」と言う目でソルを見る老婆。
「おぬしら二人とこやつのいた世界はこの物質界と《百神》が住まう天上界との間にある中間の世界。言ってみれば幻夢界とでも呼ぶべき、想念と現実が入り交じった世界じゃよ。
ただならぬ事が起きておるようなので、こやつの魂を体から抜け出させて、調査に行って貰ったわけじゃ。こやつの魔力なら、魂だけでもあちらの世界で自己を確立できるからの。
言ってみればこやつはこちらと向こうで『ヒョウエ』『クロウ』という二重存在としてあったわけじゃ。
こちらの世界で高度な魔術の素養を持たないものには『ヒョウエ』に見えるが、属する世界の違うお主らには『クロウ』の部分が見えておるんじゃな」
少し考え込んでソルが口を開いた。ちなみにスケイルズはぽかんとしている。
「
「ああ、これは失敬」
ヒョウエが互いを紹介したところで改めてソルが口を開く。
「それでマスター・メルボージャ。クロウをわざわざ世界を渡って幻夢界によこすほどの危機とはなんでしょう?」
老婆の目が僅かに鋭くなる。
「物質界と幻夢界の間に亀裂ができておるようなのじゃ。このままでは世界の壁が裂け、天井が崩れて幻夢界の一切合切が物質界になだれ落ちてくるじゃろうな」