毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
三人が気がつくと空を飛んでいた。
高度は500から1000メートルほどだろうか、雲と同じ位の高さ。
黄金の翼が風を切って羽ばたいている。
行く手には雪をかぶった黒い山脈。
「んー・・・記憶に間違いがなければここは黒瑪瑙の都の北か? 物質界に来る直前に飛んでいたあたりだな」
『そうだ。お前達がそちらに戻ろうと考えていたからそうしたが、それでよいか?』
「いえ、それで構いませんよ。船を回収して学院に帰りましょう」
「あー、悪い。出来ればお守りの鍵束を拾っていきたいんだけど・・・ダメ?」
済まなそうにスケイルズが手を上げる。
「そう言えば預かった路銀とかもそっちですか。しょうがない、いっぺん戻りましょう」
『わかった』
溜息をつくヒョウエに、アルテナが頷く。
夜を待って一行は黒瑪瑙の城の跡地に戻った。
"失せもの探し"と念動を駆使すれば捜索と発掘もさほど難しい事ではなく、荷物のほとんどを取り戻した一行は再び北に向かった。
その後船を預けた港町に戻り、多少の払い戻しを受けて出航。
夜になったところでクロウが念動で船を持ち上げ、アルテナはそのままエコールへ向かって一直線に飛び立った。
「いやもう何度目か忘れたけど、やっぱお前おかしいわ」
しみじみと言うスケイルズにソルが無言で頷く。
クロウが苦笑するでもなく肩をすくめた。
その後、クロウが仮眠をとる間はアルテナも人間の姿になり、船を海上に下ろしてソルの風呼びの術で航行。
クロウが目を覚まして食事をとると、また念動で船を持ち上げて龍の姿に戻ったアルテナが飛行。
それを繰り返し、たったの数日で一行はエコール魔道学院に帰還した。
"
人間の姿のアルテナがきょろきょろと物珍しそうに周囲を見回している。
黒瑪瑙の城ではずっと地下牢にいたし、メットー見物の時には寝ていたので、こうした場所を見るのは初めてなのだろう。
女王の時と変わらぬ服装と美貌が良くも悪くも目立っていた。
ただし、漆黒だった髪が今は黄金を削りだしたようなまばゆい金髪になっている。
「なあクロウ、今更だけどこの子の髪黒かったよな? それとも俺の見間違いか?」
「多分だけど名前を奪われていた影響かと。彼女今は両目とも虹色の瞳ですけど、僕が最初に会ったときは左目はガラスみたいに透明だったんですよ。
あの城の地下にいたのは黒瑪瑙の妖魔ですし、髪も妖魔の影響下にあったしるしだったんじゃないでしょうか」
「なるほどなあ」
そんなことを話しつつ、一行は魔導学院に到着した。
「馬鹿な真似はやめろクリス!」
「いいえ、止めないわ! これは長年のワタシの研究の集大成なのよっ! たとえあなたにだってケチはつけさせないわっ!」
廊下に響いた声に、四人の足が止まった。
教師たちの執務室が左右に並ぶ廊下、そのドアの一つが僅かに開いている。
「この声・・・スィーリ先生とクリス先生?」
「なんだ?」
首をかしげるアルテナに「しいっ」と唇に指を当てて見せてから中を覗く。
口論しているのはやせ型のやや生気に乏しい男と、紫の髪とアイシャドウに頬紅と口紅という特徴的な風貌の長身男性。
「いくらなんでも無謀だと、自分でも思わないのか!」
普段のぼそぼそとしたしゃべり方をかなぐり捨て、スィーリが叫ぶ。
奇矯でこそあるものの、落ち着いた愛嬌のあるしゃべり方をしていたクリスもそれは同じだ。
「十分にリスクは考慮したわっ! 霊界との壁が薄くなっている今が千載一遇のチャンスなのよ!」
「教師たちが総出で穴を塞いでいる意味がわからないお前でもあるまい!
世界の間の壁が崩壊してみろ、死者が蘇るぞ!」
「ワタシの実験はほんの小さな穴を開けるだけよっ! 通常の召霊よりも影響は少ないくらいのモノだわっ! この実験の意義は・・・」
「待てクリス」
「何よっ!? あ・・・」
そこで二人は覗きに気付いたらしい。
ばつの悪そうな顔でクリスが黙り込む。
スィーリはいつも通りの無表情だが、それでもどこかいたたまれなさを感じさせる。
「クロウ達か。良く帰ってきたな。
「探索は成功と言っていいかと思います。この少女は何と言うか話せば長いんですが、例の指輪に関わる重要人物でして」
「ふむ」
「へえ・・・」
スィーリとクリスに見下ろされ、不審げに、どこかふてぶてしく見返すアルテナ。
見知らぬ人間に詰め寄られた普通の少女がそうするように、落ち着きがなくなったり怯えたりはしない。
「やだ、ちょっとスィーリ、この子まさか」
「恐らくはその『まさか』だな・・・なるほど、これは確かに話せば長くなる。
クロウ、副学長への報告は?」
「戻ったら直で来るようにと」
「わかった・・・私も行こう。お前も来るな、クリス?」
「当然よ。見逃せないわ」
頷くとスィーリが額に一瞬指を当てる。
「では行こうか」
「はい」
スィーリに促されてクロウ達が歩き出した。長い廊下の奥に学長室があり、その手前に副学長の執務室はある。
クロウ達が歩いて行くと、廊下の前後で扉が開き、二十人を超す教師たちがクロウ達と同じ方向に歩き始める。
(え、どゆこと?)
(さっきスィーリ先生が額に指を当てたのが多分心話の術だな。手すきの先生たちに声をかけたんだろう)
(あ、なーる)
長いとは言っても100mもない廊下、間もなく一行は突き当たりにたどり着いた。
彼らの背後には教師たち。
「ふう」
呼吸を整えて、ノックしようと近づくと、扉が内側にガチャリと開いた。
顔を出したのは白面玲瓏の麗人。
「長旅ご苦労でした、クロウ、スケイルズ、ソル。首尾良く探索をしとげたようですね」
「ありがとうございます、副学長」
慈母のような笑みで三人をねぎらう副学長。
が、にこやかな表情もそこまでで、一転して胡乱げな顔で後ろの教師陣を睨む。
「それはそれとして後ろのあなたたちは何ですか、いい大人たちが金魚の糞みたいにゾロゾロと」
「そうは申しましてでもですね、副学長。こんなものを見てしまったら話を聞きたくなるのはしょうがないじゃないですか」
視線が集まるのはアルテナ。じろじろ見られるのが嫌なのか、ちょっと不機嫌な顔で少女がにらみ返す。
副学長もちらりと視線を落としてから溜息をついた。
「まあそれはわかりますけどね。マリーチ、会議室を開けてきて下さい。そこで話を聞きましょう」
「わかりました」
小柄で俊敏そうな教師が頷くと、ふっとその姿が消えた。
「瞬間移動だ!」
「ええ、彼はその手の術のスペシャリストですからね。さて、行きましょうか?」
目を丸くするスケイルズ達とは対照的に、教師たちは全く動じていない。
今度は副学長に従って、一団がぞろぞろと歩き始めた。