毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
作中の状況なら標高8000m地点から上が見えるくらい。
「あれから一時間くらい飛んでるのにまだつかねーぞ・・・」
「言ったろう、島の真ん中だとな」
呆れたような声を出すスケイルズに、更に苦笑するソル。
時速200kmを超える速度で飛んでいるというのに、神々の峰はまだ地平線の向こう側にあって全貌を現さない。
それでも更に三十分ほど飛ぶとようやくその全体が見えてきた。
周囲には小さな山が連なり、ちょっとした山塊をなしている。
もっとも中央のそれが規格外に巨大だからそう見えるのであって、植生からすれば恐らくは周囲の山々も2000m級、山塊の範囲も直径100kmを超えるのではないかとクロウは思う。
アルテナが首を動かしてクロウ達の方を見た。
『後30分ほどだ・・・確かに周囲に"世界の壁"を感じるぞ』
「どのくらいの範囲ですか?」
『あの大きな山をすっぽり覆うくらいだな。すそ野の小さな山もいくらかは入っている』
「ふむ。取りあえずその壁の周辺くらいまで飛んで下さい」
『わかった』
アルテナが頷いたのを確認すると、後ろを振り向く。
「ソル、この辺に人は住んでいるんですか?」
「すまない、良くは知らん。だが少なくとも大きな町や国はないはずだ」
「ですか・・・」
沈思黙考に入るクロウ。
とは言えさほど考える暇もなく、アルテナは結界の周囲に到着した。
「ここですか」
『うむ』
目測で20kmほどか、白い峰の手前でアルテナは旋回している。
視覚を強化して周囲をざっと見回してみたが、動くものは動物以外にない。
「越えられますか?」
『造作もない――が、しっかり掴まっていろ。衝撃が来るだろう』
「わかりました」
後ろの二人と頷きを交わし、自分たちを固定している念動を更に強める。
『行くぞ』
翼を広げてまっすぐに白き峰を目指して飛ぶ。
肉体的なものとも精神的なものともつかない衝撃が襲いかかり、クロウの視界が暗転した。
夜のような漆黒の闇の中、黄金の龍の背中でクロウは目を覚ました。
「っく・・・アルテナ、僕はどれだけ気絶していました?」
『一瞬だけだ。それより見ろ』
「?!」
世界が反転していた。
朝の青空は星も雲も見えない薄暗い闇の空に。
緑豊かな山々はインクをぶちまけたようなぬっぺりした黒いでこぼこに。
そして気高く天にそびえ立っていた純白の三角錐は中央から真っ二つに裂けて、底の見えない巨大な亀裂を大地に穿っていた。
「・・・」
一瞬絶句して、それでも気を取り直して後ろの二人を無理矢理叩き起こす。
「"
「ぐぇ・・・何だよ一体・・・うぉ!?」
「うっく・・・これは・・・!」
魔力が高くないせいか、覚醒の呪文を受けてもスケイルズは朦朧としていたが、それを吹き飛ばすほどに目の前の光景は衝撃が強かったらしい。
「い、一体何だよ・・・何だよこりゃ・・・」
「文字通りの『世界の裂け目』ってわけだな。なるほど、これなら世界が引き裂かれるわけだ」
「のんきなこと言ってる場合かよ!?」
ソルに食ってかかるスケイルズ。
実際のところはソルも軽口を叩かなければやっていられないほどには一杯一杯なのだが、動転しているスケイルズにはそれがわからない。
「落ち着け、二人とも。二人ともだ。ヤバい状況なのは認識した上で冷静に行こう。冷静に、冷静にだ」
「・・・」
「・・・わかった」
二人が顔を見合わせる。
動じていないクロウの態度も相まって、二人は何とか落ち着いたようだった。
「・・・」
「・・・」
「何?」
二人がじっとクロウを見る。視線の中にいぶかしさとわずかな疑いの色。
「いや、お前何でそんな冷静なの?」
「まさか状況理解していないんじゃないだろうな? 比喩も誇張も抜きで世界の危機なんだぞこれ?」
「まあ・・・世界の危機なら何度も救ってますので」
「・・・」
「・・・」
二人は顔を見合わせた後、再び胡乱な視線をこのおかしな友人に向ける。
クロウは今度は肩をすくめただけで、何も答えなかった。
虹色の目を持つ黄金の龍は山を引き裂く巨大な亀裂に降下していく。
その幅は恐らく数キロ、あるいは10キロ近くにもなるだろう。
荘厳であるはずの巨峰は色と形を失い、コールタールの塊のように見える。
その黒い塊に挟まれた闇もまた、実体を持つかのようにぬたりとして見通せない。
「スケイルズ、明かりを頼む」
「おう」
魔法の光が周囲を照らしはするが、それですらどこまで光が届いているのかわからない。亀裂の断面も光を反射せず、どれだけ遠くにあるのかすら曖昧になる。
下へ、下へ、下へ。
下へ、下へ、下へ。
かなりの速度で降下しているはずだが、どこまで降りたか、どれくらいの速度で降下しているかわからない。
唯一それを認識させるのは、頭上遠く彼方に遠ざかった亀裂のシルエットだけだ。
どれだけ降りたろうか。頭上の亀裂が点になり、肉眼で識別できなくなってかなりの時間が流れてようやく一行は亀裂の底にたどり着いた。
極々僅かに光を反射する、真っ黒な地面にアルテナが着地する。
三人がその背中から滑り降り、クロウは膝をついて地面に手をやった。
その指にすくい上げたのは黒い砂のようなもの。少なくとも手触りは乾いた砂に近い。
「なんだろうな、これ?」
「あの世の砂かもしれんぞ」
「お、脅かすなよ!」
「これだけ地下に降りてきたんだ、ないとは言えまい? ・・・で、どっちに行くんだ?」
「そうだな・・・アルテナ、何か感じるか?」
人間の姿になった金色の少女に視線をやる。
龍の化身たる少女は周囲を見渡した後、一方を指さした。
「確かか?」
ソルの問いに少女が首を振る。
「何となくそっちと思っただけじゃ」
「うーん、でも手掛かりもないしなあ。そもそもどっちが北でどっちが南だ? いや、東西だったか?」
「東西だとは思うが、あの亀裂は物理的なものじゃないんじゃないかとも思うしな。
冗談抜きでここが冥界の底かなにかである可能性は考えておいた方がいいかもしれないな」
「ですね。アルテナ、どうです? まだ飛べますか?」
「飛べなくはないが結界を越えるときに少々疲れた――お前の世界に行ったときよりもよほど疲れたかもしれんぞ」
クロウがもう一度頷く。
「では取りあえず歩いてあちらに向かいましょう。いいですね?」
全員が頷いた。