毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
真っ暗な闇の中、ぼんやりとした明かりの中で黒い砂地を延々と歩き続ける。
周囲は闇に包まれ、足元は黒い砂地が続き、岩や小石、起伏すらない。
全く変化のない場所をひたすら歩き続けている内に、本当に前に進んでいるのかすら疑わしくなってくる。
数時間ほど歩いたろうか、既に時間の感覚はなくなっていた。
歩いても歩いても変化のない、時間の経過もわからない。
そうした精神的なプレッシャーは疲労を倍加させる。
アルテナは平気なようだが、ソルもスケイルズも既に疲労の色が濃い。
(そろそろ休憩するか)
そう提案しようとしたとき、うっすらと明かりのようなものが見えた。
術師が良く使う魔法の光に似ているがもっとおぼろげで怪しげな、人魂の光のような青白い光に見える。
「スケイルズ。ソル」
小声で呼びかけると、二人も気付いたようだ。
ゆるみかけていた顔が一瞬で引き締まる。
「世界を引き裂こうとしてる犯人かな?」
「わかりません。でも気を抜かないように」
「わかってる」
「アルテナは何か感じますか?」
尋ねてみたが、金髪の少女は首を振った。
「少なくとも世界を滅ぼせるほどの魔力のようなものは感じぬな・・・ただ、どこか普通の人間とは違う気がする」
「・・・」
沈黙が落ちた。
三人が視線を交わし、頷き合う。
「行きましょう」
「ああ」
アルテナも頷き、言葉少なに四人は歩き出した。
そこから更に一時間ほどを歩いた。
疲労は蓄積しているはずだが、クロウもスケイルズもソルもそれを感じさせない。
明確な目標が出来たことが疲労を忘れさせている。
歩くにつれて明かりが明白に大きくなっていった。
それと同時にゆらゆら揺れる炎と、青白い妖しの気配も強くなっていく。
宙に浮く青白い炎と、その下に座り込んだ男のシルエットが見える頃には、カツーンカツーンという音が聞こえてきていた。
「いよう、初めましてだな」
四人が近づくと、1.5mほどある丸石の上に座り込んで何か作業していた男がにたりと笑って振り向いた。
そのまま丸石を滑り降りてその前に立つ。
「俺たちはアノソクレス。ようこそ、お客人」
幽鬼のような男である。
黒いぼろぼろのマントのようなものを体に巻き付け、上半身は裸。骨と皮のような体に振り乱したぼさぼさの髪。
骸骨のような顔の中で、目だけが爛々と光っている。
「『俺たち』? え? うん? あいつ、本当に目が光ってないか?」
「・・・本当だ!」
男の目に青い光がゆらゆらと揺れている。
頭上に燃える青白い炎を反射しているのかと思ったが、角度的にはあり得ない。
スケイルズの灯した魔法の光を反射して、男の瞳の中で青い炎が揺れているのだ。
良く見れば男の目そのものが普通ではない。
白目のように見えたものは乳白色の石のような何かであり、その中に青い炎が揺れている。
「なんだあれは・・・」
ソルの戦慄を含んだ声。
対照的にアルテナは敵意に眉を寄せ、怒りの眼差しで男を睨んでいる。
(まるで
はっと気付いて、横のアルテナを見下ろす。
「アルテナ、あいつまさか」
「ああ・・・奴からプラマーと同じ臭いがする」
「!」
スケイルズとソルが身をこわばらせた。
特にスケイルズは水晶の城の少女セレのことを思い出したのか、表情が険しくなっている。
「アノソクレス・・・そうか、古語で月長石のことだったか」
「そのおっさんにとりついて操ってるのか、くそったれの妖魔め」
くくく、と
「どうかなあ。実を言うと俺たち自身、どこからが『俺』でどこからが『妖魔』なのか、もうよくわからないんだよ」
「妖魔と契約した人間のなれの果てということですか。吸収ではなく融合している辺り、随分と力のある人だったんでしょうね」
「まあ大体そんな感じだね。で? おたくらやっぱり俺たちを止めにきたのかい?」
「当たり前だ!」
スケイルズが叫ぶ。
「世界に穴を開けるなんて、そんな真似許してたまるかよ! みんなそこに住んでるんだぞ!」
「俺の故郷でそんな真似をさせるわけにはいかないな」
ソルも静かだが強い語気でアノソクレスを睨む。
クロウは静かな視線を向け、一瞬ちらりと丸岩の上に移す。
丸岩の上にはのみが一本突き立っており、横に金槌が転がっている。
(さっきまでのカツーンカツーンという音はこれか)
黒い砂しか存在しないこの世界で、恐らくはあの丸岩が何か象徴的な存在――例えば日本神話で地上と冥界を遮る千引きの岩(ちびきのいわ)のような――なのだろう。
あの石が割られたらおしまいなのかどうかはわからないが、少なくともろくな事にはなるまい。
その内心を隠し、静かな声でクロウも語りかける。
「お前の目的は何だ? 世界と世界の間に穴を開けて、それで何を得るつもりだ?」
「そうだな、ついでに教えてやろう・・・『流れ』さ」
「流れ?」
「くくっ。地上は生の世界、霊界は死の世界だ。普段この両者は壁によって分かたれているが、穴を開ければ水が対流するように魔力の流れが出来る。
水の流れが水車を回すように、魔力の流れがあれば術師や妖魔はそこから力を得ることが出来る。
もちろん相応の準備は必要になるけどな。
普通の召霊やら何やらでは穴を開けるための労力の方が大きすぎて意味がないが、ある程度大規模に、恒常的に穴を開けられるようになればほとんど無限大の魔力を手に入れられるという寸法さ。
実際少しずつ広げた『穴』から力を得て、俺はこれだけ巨大な裂け目を作り、世界の壁に匹敵する結界を張るほどの魔力を手に入れることが出来た! どうだ、中々凄い計画だろう?」
「ええ、凄いですね。ばかばかしさとはた迷惑なのが凄すぎて溜息が漏れますよ」
ヒョウエがすっと目を細めた。
「くくっ。そうかい」
アノソクレスも眼を細める。
「・・・」
「・・・」
静かな時が流れる。
緊張が次第に高まってゆく。
振り向かないままクロウが後ろの三人に語りかけた。
「アルテナがやられたら僕達は戻れなくなる。アルテナは下がっていてくれ。スケイルズとソルは彼女を頼む」
「うむ、わかった」
「まかせとけ!」
「任された」
三人が口々に頷くのを背中に感じ、正面の怪人に集中する。
更に高まっていく緊張。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
呼吸を整え、精神と肉体を研ぎ澄ましていく。
アノソクレスのほうはわからないが、魔力が徐々に高まっていくのはわかった。
「・・・」
「・・・」
極限まで高まる緊張。
ソルやアルテナも一言も発せない。
「・・・」
ごくり、とスケイルズが唾を飲んだ。
それが合図だったかのように、張り詰めたものが破裂する。
「!」
「くくっ!」
爆発が起きたかと思った。
それほどの勢いで膨れあがった月長石の男の魔力。
あるいは全力のヒョウエのそれに匹敵するかもしれないそれ。
「なっ!?」
だがその場の全員の目を奪ったのはそれではない。
魔力の高まりと共にアノソクレスの両脇から生えた腕ほどの大きさ、左右二本ずつの何か。
黒い剛毛に包まれた虫の足のようなそれと両手を大きく広げ、黒い怪人は謳う。
「さあ、試してみようじゃないか! 地上と霊界、二つの世界の支配者たる俺の力を!」
異形の、人間蜘蛛の如き姿になった男は口を耳元まで裂きながら高らかに笑った。