毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「はっ! とぉ!」
「くくっ! かかかかかか!」
みなぎる魔力は天地破壊級。
等しき魔力が籠もる六本の腕と二本の腕。本来なら手も無く殴り倒されるだろうところを、技量で何とか互角に持ち込んでいる。
だがそれでも限界はある。
「ぐっ!」
「クロウ!」
悲鳴が上がる。
脇腹にいいのを一発貰った。
素人丸出しのテレフォンパンチだが、元の腕力が一回り違う。魔力で防御しても十分強烈なダメージ。
その後の追撃は何とか防御に徹して防ぐ。それ以上は入れさせない。
「大丈夫だ、心配するな!」
「クロウ・・・」
弓を構えたままのソルが悔しそうに呟く。
自分の無力さがこれほど苦しかったことはない。
「がっ!」
「ぐおっ!」
今度は互いに一発ずつが入る。
互いに動きが止まり、どちらからともなく間合いをとった。
「・・・」
「・・・く。くくっ」
蜘蛛男が顔を伏せて笑った。
「く、かははははははははははは!」
顔を上げてまた笑う。呵々大笑とはこのことか。
「見切ったぞ。俺の拳に込められた魔力の方が、お前のそれより多い! 相撃ちなら俺の勝ちだ!」
「・・・」
無言で構えるクロウ。
再び高笑いする黒い怪人。
「かぁっ!」
「!」
アノソクレスが飛び込む。
クロウはファイティングポーズを取ってそれを迎え撃った。
嵐が吹く。雷が走る。拳が炸裂する。
比喩ではなく、怪人の拳が振るわれるたびに世界が揺れる。
先ほどよりも倍加した蜘蛛腕の拳速。
六本腕の扱いに慣れてきたのか、目に見えてスピードが上がってきている。
そして攻撃の切れも。
「クロウ!」
「・・・」
スケイルズの悲鳴が上がるが、クロウには最早返事をする余裕もない。
繰り出される拳を全力で防御している。
技量にはまだ差がある。
手数が三倍でも何とか防御できる程度。
だがそれも完璧ではない。
時折アノソクレスの拳が命中する。
鉄板に鉄の玉を落としたような、あるいは巨大な石を鉄のハンマーで叩いたような音。
それでもひるまず、崩れず、ひたすらに食い下がる。
「・・・!」
「・・・」
見ていられないとばかりにスケイルズが目をそらす。
ソルも悔しそうにそれを見上げるばかり。
弓で援護しようにも、激しく動き回られては神技どころか達人にも届かないソルの腕前では間違っても当たらない。
クロウに誤射でもすれば目も当てられないだろう。
「・・・」
冷静なのはアルテナのみ。
腕組みをして、静かに上空を見上げている。
「くく! くくくく!」
連続攻撃は続く。時間の感覚が曖昧な地の底だが、それでもあれから数十分は経っただろうかと思える。
酸の雨が降り、オレンジほどの雹が地表を叩き付け、まばゆい閃光や致死性の毒ガスがまき散らされる。
そのたびにアルテナやソルがそれを防御するが、最早三人は自分の身を守るので精一杯だ。
「くくく! くかかかかか!」
かさにかかって攻め立てるアノソクレス。その攻撃はいよいよ鋭く早い。
「くくく・・・がっ!?」
高笑いしていたアノソクレスのほお桁に、クロウの拳が埋まっていた。
だが同時にアノソクレスの蜘蛛の腕の拳もクロウの脇腹に突き刺さっている。
「相撃ち狙いか! だが・・・ぐわっ!?」
間髪置かずに叩き込まれたクロウのコンビネーションブロウ。
だがアノソクレスの反撃もクロウの体にまた撃ち込まれている。
「がっ! ぐっ! ぐわっ!?」
乱打。
互いに防御を考えない殴り合い。
だが先ほどまでと違う事がある。
クロウの拳が炸裂する時に変わらず魔力の爆発が起きるのに対し、怪人の拳はクロウの体を捉えても先ほどまでに比べればほんの僅かな爆発しか起こさない。
やがて攻撃が一方的になる。
クロウの止まらない連打。アノソクレスは最早防御することも出来ない。
朦朧としてそれでもフラフラと浮かぶ脳天に、一回転したクロウの浴びせ蹴りのかかと落とし。
叩き落とされ、黒い砂に突き刺さるアノソクレス。
大風が吹き荒れ、大地鳴動して溶岩が吹き出す、そんな原初のカオスの如き戦いは唐突に終わりを告げた。
「・・・」
「・・・」
荒れ狂っていた魔力の嵐がぱったりと止まる。
凪の空間に先ほどと同じ、クロウと立ち上がったアノソクレスが対峙している。
クロウはほとんど変わらぬ姿だが、アノソクレスは別人のようになっていた。
骨と皮だけだった外観がますます細ってほとんど骸骨か死体のようになり、唯一らんらんと光っていた目からも、今は生気が消えている。
「あ・・・あ」
何故、と言いたげに黒い怪人がクロウを見る。最早言葉を発する力も残っていないようだ。
「あなたは確かに莫大な力を得ていた。うまく使えば僕も危なかったでしょうね。
でも霊界と地上界の間の穴は完全に開いた訳じゃない。長い時間をかけて溜めたけど急速には補充できないあなたの力と、途切れない僕の力。
そして学院で世界の穴を必死に埋めてくれている先生たち。長期戦になったらあなたに勝目はなかったんだ」
「く・・・くく・・・なるほどなあ・・・」
静かに言葉を紡ぐクロウ。アノソクレスは、力を振り絞っているとはっきりわかる声で途切れ途切れに笑う。
腰の小袋から取り出したのは、小さな白い丸石。
それを愛おしそうに眺めてからぽい、と後ろに高く投げ捨てる。
「これから始まった旅だが・・・もういらねえ。俺の旅はここで終わりだ」
「・・・」
間違いなく歴史に名を残すレベルの術師であった彼が、いかにして妖魔と出会い契約したかはわからない。
その彼が漏らす感慨に、敵であった四人も静かに聞き入る。
だがそれも、彼が次の言葉を漏らすまでだった。
「だからさあ、一緒に行こうぜ! 下の世界までな!」
「!」
ハッとしてアノソクレスの後ろを見る。
黒い丸石に突き立ったままの"のみ"の柄頭に、先ほど彼が投げあげた白い丸石がこつんと当たる。
その瞬間丸石に縦にヒビが走り、次の瞬間ばっくりと二つに割れた。
「貴様!」
「くくく! くくくくく!」
高笑いするアノソクレスをクロウが殴り倒す。
最後に狂ったような笑みを見せ、怪人は全身にひびを入らせたかと思うと、きらきらした破片となって粉々に砕け散った。
「!」
びしり、と大地が割れた。わき起こる地鳴り。
丸石の割れ目に反って砂地に線が入り、砂が下に吸い込まれていく。
「ひえええええ!? ・・・え?」
スケイルズの悲鳴が上がり、途切れた。
いつの間にか四人は宙に浮いている。
「アルテナ、龍になって二人を乗せてくれ!」
「わかった」
「お前はどうするつもりだ!?」
「このひび割れを戻してみる」
「!?」
会話を交わす間にも地面の裂け目は大きく広がり、砂は飲み込まれて深淵だけが広がっている。
いつの間にか二人は黄金の龍の背中にまたがっていたが、それを気にするいとまはない。
「戻すって・・・どうすんだよお前・・・え?」
答えはなかった。
クロウの姿がいつの間にか消えている。
だがしかし、その代わりに響くものがあった。
「なんだ・・・これ?」
暗い地の底に本来あるはずのない音。
響くはずのないそれ。
世界を揺るがす地鳴りの中でもそれははっきりと聞こえた。
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。