毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
それからの数日は何事も無くすぎた。
「お前ら一体どこで何してたんだよ!?」
「どうしたのよ、その金髪の女の子は!」
「大体クロウとソルがいつの間に仲良くなってるんだ?」
級友達による質問攻めとか。
「クロウが幼女を連れているぞー!」
「幼女誘拐犯だ!」
「幼女と一緒に受ける授業は楽しいか?」
「夜も一緒に寝ているのかこのペドフィリアめ!」
「一年近くいなくなったと思ったらどこからさらってきた! 吐けこの野郎!」
どこにでもくっついてくるアルテナとそれに対する好奇の視線と追随するトラブルとか。
「なにっ? 黒い砂のサンプル取ってないの!? 信じられん、君らはそれでも術師の卵かね!」
「ふーむ、これが青い鎧かあ。こりゃ凄いな・・・魔力許容量もそうだが、この密度の高い、簡素で効率的な術式構築は・・・いいなこれ、色々応用がききそうだ」
「『下』の世界について詳しく!」
「アルテナちゃん、黒瑪瑙の城や、それより前で何か覚えていることはある? 覚えている限りでいいわ!」
「これが黒い岩のスケッチね。古書にあるいはそれではないかという記述を見たことがあるわ。そののみと鎚も持って帰ってくれればよかったのだけれど・・・」
「山が裂けたことによって地崩れなどはなかったかね? 遠見の術も使ったが、直に見た君たちの意見も聞きたい」
「手術室の用意はできている! "
教師連による聞き取り調査と言う名の徹底的な情報の吸い出しとか。
「もうだめ。脳みその中身全部先生たちに吸われた・・・」
「俺もそんな気がする・・・吸血鬼ってのは聞いたことがあるが、吸脳鬼ってのもこの世にはいるんだな・・・」
メインではない、言わば付け合わせのスケイルズとソルですら机に突っ伏してグロッキー気味なのだから、メインディッシュであるクロウとアルテナのダメージは推して知るべしである。
なお最後の教師に対しては断固拒否した上で副学長にチクった。
その後しばらくその教師の姿が見えなくなったが、関係はない。たぶん。
ともかくそうしたあれこれを除けば、授業に出たり、中庭でひなたぼっこをしたり、食堂でワイワイ騒いだりと、久々にクロウ達は学生らしい日々を満喫していた。
「うーん」
「どうしたのだクロウ」
数日後、食堂。
教師たちによる聞き取りはまだ続いている(何しろ希望者が多いし、クロウ達の時間をそればかりに使うわけにもいかない)が、それ以外のあれこれは多少落ち着いて、のんびり出来る暇もある。
そのはずだが、クロウは微妙に浮かない顔だった。
「なんというか、しっくりこないんですよね」
「何がだよ? 割れ目の跡に調査隊を向かわせるって話だけど、何か気になる事でもあるのか?」
「それもあるんですが、特に根拠はありません。ないんですけどどこか不安感があるというか」
本来クロウ=ヒョウエの使命は幻夢界と物質界の間の壁を破壊する穴を塞ぐこと。
そして穴を開けようとする者達を排除すること。
その両方を達成し、今は世界の裂け目が完全に塞がったかどうか確認するための待ち時間。
これで何の問題もないと確定すれば、クロウは青い鎧を解除して元の世界に戻る。
後はそれを待つだけ、のはずである。
であるというのにクロウは不穏な感覚をぬぐい去ることが出来なかった。
「本当に根拠はないんですが、これで全部終わったのか信じ切れないんですよ。まだ何かあるんじゃないかって」
「まあ・・・いくらお前とは言えあれだけの敵を次々戦って、文字通りの世界の割れ目をたった一人で塞いだんだからな。
心がささくれ立つというか、昂ぶりが落ち着かなくてもしょうがないんじゃないか?」
「かもしれないですね」
ソルの言葉に頷いて溜息をつく。
その場はそれで終わったが、心にわだかまるものは消え去ってくれなかった。
数日後。
十人ほどの教師による調査隊に、クロウ達四人が同行することとなった。
「クロウとアルテナはわかるけど、俺達もか?」
「魔術的再現を行うことも考えてるんだろう。確かにクロウとアルテナがメインだが、俺達の存在も補助的な要素としては意味がある」
「魔術的再現か。えーと、何か聞いたような・・・」
「三日前に受けたばかりの講義だろうが!」
そんな会話も交わしつつ、一行は瞬間転移によって一瞬で"神々の峰"に到達した。
ルレク・セレースふもとの「小さな」山々の一つ、ある程度の広さを持つ高原に実体化する。
「便利っすねー。この一年で世界中回ったけど、出来れば最初から使って欲しかったですよ」
スケイルズが成層圏、文字通り天まで届く白き霊峰を見上げてしみじみと頷く。
「まあしょうがない。最初の時はすぐに穴は塞がると思っていたし、二回目の時も世界の裂け目と君たちの探索に直接の関係があるとは誰も思っていなかったからな」
気さくに笑うのは黒目黒髪の小柄な男性教師、マリーチ。
瞬間移動の術に関しては学院随一のエキスパートだ。
実際のところは彼の言う通りだし、加えて一回目はクロウの影を追う探索だったために、クロウ本人以外に対象を探せる人間がいなかったことも大きいだろう。
「それでは・・・まずはベースキャンプを設営しよう。ファラマー、バーテラ、頼む」
調査隊の隊長を任じられたスィーリが教師たちに指示を飛ばす。
霊界と物質界の間の壁の問題であるから召霊術主任の彼が呼ばれたのだろうが、同じく召霊術のエキスパートであるはずの副主任のクリスの姿はない。
学院に帰ってきた時の言い争いを目撃してしまったクロウ達の何とも言えない視線に、スィーリが怪訝な顔になる。
「どうした・・・?」
「いえ、つまり『ここをキャンプ地にする!』ということですね!」
「最初から決めていたことだ・・・いちいち宣言する事もなかろう」
「うーむ、まさかのマジレス」
世界が違うのだから通じるわけもないが。
「ともかく、一時間ほどは準備時間だ・・・お前達は好きにしていていい。
アウラ、ファルタルは観測の準備を。アートは私と一緒に・・・!?」
その瞬間、世界が割れた。
大地に再び亀裂が走り、白い巨峰が真っ二つに裂ける。
「うわああああ!?」
「クロウ! スケイルズ! ソル! アルテナ!」
裂け目に落ちていく四人。
叫びながら手を伸ばして術を発動させるスィーリが目を見開いた。
「発動しない!? ・・・いや、これは落ちているのでは・・・!」
クロウが念動の術を発動し、龍に変じたアルテナが三人を背に乗せて羽ばたく。
だがそれでも四人は裂け目を落ち続け、崖っぷちの教師たちは見る見る遠ざかる。
(落ちているんじゃない・・・そう見えるだけで、これは一種の転移・・・)
クロウが真相に思い至った時、裂け目――恐らく実際には大地ではなく空間の――が、バタンと閉じる。
何故か脳裏にクリス副主任の顔が浮かんだ。
ギンヌンガガップは北欧神話の、世界の最初に存在した虚ろな裂け目。