毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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09-38 波動の結界

 固形化したエクトプラズムが形作る洞窟の中の広い空間。

 壁一面の鏡、その前に並ぶ無数の化粧台と椅子。

 衣装ダンスに荷物箱、くつろぐためのソファやテーブル。

 もう一方の片隅には劇で使う背景の書き割りや大道具、俳優を舞台に登場させるためのせり上がりの機械仕掛け。

 彼の言う通り舞台裏や楽屋をカリカチュアしたようなこの広間の中央、にこやかに笑う悪魔ヴェヴィスはさながら劇団一座の団長か。

 周囲に油断無く目を配りつつ、ヒョウエが口を開く。その回りには、既に四つの金属球が回転を始めている。

 

「ヴェヴィス氏、舞台裏とおっしゃいましたね。僕達のことは役者、ないし観客と。どういう意味です?」

「おお! なんとそれを尋ねられますか!」

 

 大げさに、芝居がかった驚きの仕草をしてみせるヴェヴィス。

 

「いやはやこれは失言、失言。とは言え一度口にした言の葉は元に戻せぬもの、やむを得ますまい。

 さて、舞台と申しましたがこれは言葉通りの事でございます。

 皆様が今までおられました幻夢界はある目的のために作られた大劇場(アリーナ)

 そこにて演じられるは古く、また新しい戯曲。

 これまでのところは実に見事な舞台でございましたが、いまだ幕は下りておりません。

 それゆえに今まで役を演じておられた方々におかれましては、すぐに幻夢界にお戻りになりますよう、同じく物質界におられた皆様には物質界に戻って最後までお静かに観劇いただけるよう、お願い申し上げるしだいでございます、はい」

 

 へらへらと笑うヴェヴィスを油断無く睨みながらも、モリィが軽い口調で話しかける。

 

「よう、それ最後まで見てたらどうなるんだよ?」

「それは見てのお楽しみ、木戸銭は見てのお戻りと言うことで」

「ちっ、話にならねえな」

 

 吐き捨てるモリィに対してもヴェヴィスのへらへら笑いは変わらない。

 

「なにぶんにも舞台でございますから、先に落ちをばらしてしまっては商売になりませぬゆえ、ご容赦頂きたく思います、はい」

「それは、何のために舞台とやらを作ったか白状する気が無いと解釈してよろしいかしら?」

 

 こちらは取り繕う様子もなく、剣と盾を構えながらリアス。

 ヴェヴィスは笑みを消さぬまま、無言で肩をすくめる。

 それが戦闘開始の合図になった。

 

 

 

「しゃっ!」

 

 戦いは雷光銃の乱射から始まった。

 乱射とは言ってもヴェヴィスの急所をそれぞれ狙う正確無比の連射。

 

「なぬ?!」

 

 だがそれらは全て、ヴェヴィスの直前で空中に波紋を残して消えてしまった。

 雷光が消えた点を中心に空間が歪むように波紋が起き、ヴェヴィスの姿を歪ませる。

 

「はははは、踊り子さんへのおさわりはご遠慮願います! というやつですな!

 わたくし脚本家演出家であって役者ではございませんぞ!」

「ならば!」

「はっ!」

 

 続けて突貫するのはリアスとカスミの主従。

 だがカスミの投げた棒手裏剣は同じく空中に波紋を描いてぽとりと落ち、リアスの踏み込みは見えないクッションに受け止められたかのように途中で止まり、柔らかく跳ね返された。

 同時に放たれたヒョウエの金属球四つもまた同様。

 

「そんな!」

「カスミの手裏剣はまだしも、『白の甲冑』を着たリアスも、僕の金属球もですか・・・!」

 

 表情を厳しくするヒョウエに、ぱちりとウィンクするヴェヴィス。

 

「防御だけではありませんぞ。そら!」

「!?」

 

 ヴェヴィスがポーズを取ってぱちん、と指を弾く。

 その瞬間、全員が一斉に吹きとばされた。

 

「"念動(サイコキネシス)"!」

 

 金属球に回していた経絡を念動の術に回し、何とか全員の体勢を立て直させる。

 その間にも全身に圧力が感じられる。爆風のような、激しいが一瞬のものではない。重く、分厚く、まるで津波に巻き込まれたようなそれだ。

 それが継続的に、寄せては引く波のように全身を圧迫している。

 

「ほう! 見事なものですな! まあわたくしめもまだ全力は出しておりませんが!」

 

 拍手をしてみせるヴェヴィス。その芝居がかった態度が崩れることはない。

 その様なヴェヴィスに取り合うことなく、ヒョウエの頭脳はフル回転している。

 僅かな間を置いて、それは正解を導き出した。

 

「そうか・・・"狭間の世界(ビトウィーン)"と物質界の間にある、"狭間の狭間"とでも言うべきこの空間は恐らく全てが霊的物質(エクトプラズム)で出来ている。

 つまりこの空気中にも、感じられないが霊的物質(エクトプラズム)は充満している。

 あなたが操っているのはこの空間に充満する、実体化していない霊的物質(エクトプラズム)・・・いや、原質(エーテル)だ」

「!」

 

 一瞬、ヴェヴィスが心底驚いた表情になった。

 しかし次の瞬間には芝居がかった態度がそれに取って代わり、気取った動きで大仰に一礼する。

 

「いやはやお見事! これだけでそれに気付くとは、さすが! さすがですなあ!

 まったく、オリジナル冒険者というのは大したものです!

 まあもっとも? それがわかったところで・・・」

「対策は打てますよ」

 

 エーテルの波動に圧されながらも、余裕をにじませるヒョウエ。

 ヴェヴィスは不快そうに眉を寄せる。

 

「ふむ。私の波動術に圧されて、吹き飛ばされずにこらえるのが精一杯という状況でよくも吠えたものですね。ではその大言壮語、本当かどうか試してみるとしましょうか」

 

 ぱちん。

 再び指を弾くとともに、ヒョウエたちに向かう圧力が倍加する。

 

「むっ!」

 

 顔を歪めるヒョウエを見てほくそ笑むヴェヴィスの、その表情が次の瞬間一変した。

 

「せいっ!」

 

 ヒョウエが杖を振るった瞬間、見えない「なにか」が切り裂かれるのをモリィは見た。

 空間に充満し、波打っていたそれらはヒョウエの振るった杖の軌跡に沿ってぱっくりと二つに割れ、勢いを失う。

 同時に彼女らの体にかかっていた圧も消滅していた。

 

「な、なんだと!? 確か霊体に対抗する術には乏しいと・・・!」

「弱点をいつまでも放っておくのは三流ですよ。丁度最近、この杖に刻んだ対霊術式を強化したところでしてね。運が悪かったですね、ヴェヴィス氏?」

 

 光る杖を握りながらヒョウエ。

 正確に言えば光っているのは杖ではなく、そこに刻まれたルーン文字。

 

(・・・そうか、スプリガンを倒したときの!)

 

 まだ二人でエブリンガーをやっていた時、ゴブリンの死体に取り付いていた半実体半霊体の怪物"遺跡妖精(スプリガン)"をヒョウエが今のように杖で倒したことを、モリィは思い出していた。

 

「それだけじゃありませんよ。今はこんな真似も出来ます」

 

 ヒョウエが杖を握り直すとルーンの光が杖自体に広がり、更に杖の一端から伸びて剣のように固定化される。

 六尺(6フィート)(180cm)の柄に、それに倍する刃渡りの光の巨大剣。

 

「きえええええええええええいっ!」

 

 滅多に聞けない気合いと共に、ヒョウエがそれを横殴りに振るった。

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