毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「
真なる言葉の詠唱と共に、紫色の魔術師の周囲に100を超す闇の群れがわだかまった。
それは見る間に実体と質感を備え、二足歩行の狼のような怪物になった。
肌は黒いゴムのようで目は赤、鋼のような角と牙と爪を備えている。
「しゃっ!」
リアスが踏み込み、刀を振るう。
その後ろには主をフォローするカスミ。
「っ、強い・・・!」
怪物達は明らかにリアスより弱い。
カスミのフォローがあるとは言え、数匹を相手にしてもリアスは小揺るぎもしない。
だが同時に一太刀で斬り伏せられるほど弱くもない。
洞窟の中で遭遇した怪物達とは明らかに格が違う。
恐らく黒等級でも上位、金等級に迫る実力を持つ今のリアスにとってさえ、たやすくはない相手。
「VOOOOOOOOOOOOOOO!」
再び黄金の龍に変じたアルテナがリアス達に並んで黒怪の群れに向かっていく。
だが黒怪の動きは素早く、爪は鋭く、前足を叩き付けても一撃は耐える。幼いとは言え龍であるアルテナでさえ鎧袖一触とは行かない。
「悪魔かっ!」
ソルが冷や汗を浮かべる。
クリスが背筋の凍るような笑み。
「一つの呪文でこれだけの召喚を・・・!」
こちらも顔を歪めるヒョウエは近づいてくる黒怪たちを金属球8つで迎撃しつつ、手の中の金属球の起動準備をしている。
「シャオラッ!」
黒い悪魔たちの隙間をすり抜け、モリィの雷光がクリスに襲いかかった。
紫の魔術師は棒立ちで何かする余裕があるように見えない。
「なぬっ!?」
しかし雷光は彼の体に届くことなく、むなしく四散して消えた。
ちちちち、と指を振って笑みを浮かべるクリス。
「馬鹿ねえ。雷光銃なんて魔力を集束して撃ち出すだけのおもちゃ、その辺のモンスターならともかく魔道を極めた"
「ちっ!」
舌打ちするモリィ。彼女の目には、雷光が何かに当たって弾かれたのではなく、空中で「ほどけて」四散したのが見えていた。
ヒョウエにはもう少し細かいところまでわかる。
雷光銃は蓄えた魔力を励起・集束させて撃ち出す武器だ。
その時魔力が拡散して威力が低下するのを防ぐために、撃ちだした魔力に簡単な術式でくるんで拡散しないようにしている。
たきぎの束を紐でくくるようなものだ。これによって魔力は一発の弾丸のような雷光になり、十分な破壊力を発揮する事ができる。
ところがクリスはその術式に干渉して解除し、雷光をただの魔力の塊に変えてしまった。
こうなると魔力はただのあやふやなモヤのようになり、ただ空中を進むだけで破壊力を失ってしまう。
術式自体は極めて単純なもので、"
恐るべきは発射されてから0.1秒もない時間の中で、呪文を唱えることもなく、それも複数の雷光の術式を解除してしまったと言うことだ。
(さすがは神の直弟子、"
後に神になった人々と同等の力、同等の技術を持つ、まさしく神の如き術者。
後代の人間や妖精たちが複雑過ぎて扱えなかった真なる魔術をやすやすと操る神代の魔術師である。
彼らをスパコンとすれば、ヒョウエやシャンドラといった当代きっての術師でさえ、機能を限定した業務用のシステムか個人用のパーソナルコンピューターでしかあるまい。
それだけのスペックと汎用性の差が彼我の間には横たわっている。
「だがやりようはある! "
「
金属球の一つがリアス達と黒怪の頭上を飛び越え、クリスの斜め上2mほどで静止する。
ヒョウエの起動と魔力に応えたそれは直径3mほどの暗黒の球体となり、周囲の魔力を無差別に吸収し始める。
「ギギギ!?」
黒怪から驚愕の声が上がる。
霊体から実体化するためのコスト、かりそめの体の維持に使用されていた魔力を吸われて数体の黒怪が消滅する。
「やるわね!
「!?」
黒い球体がふっと消失した。
素早く金属球を手元にもどしたヒョウエが見たのは、金属球の表面をすっぽりと覆う鳥もちのような粘りついた魔力と術式の混合物。
「これは・・・!? それに"
「アラ、ヒョウエちゃんもワタシのこと舐めてナァイ?
もちろん使うのは人間であるワタシだし、魔力抜きでは大幅に力を減じるけど、真の言葉にはそれそのものに力が宿る。
あなただって言霊の術の初歩くらいは授業でやったでしょう?」
「・・・それか!」
真の言葉はそれ自体が魔術とはまた違う、力を引き出すためのデバイスだ。
極端な話、強い念を込めて「光あれ」と真の言葉で銘じれば光が生まれる。
それを世界創世のレベルでやったのが創世の八神なのだ。
だから真なる魔術師と呼ばれるほどの存在が真の言葉を操れば、それだけで生半可な魔術など及びもつかない現象を引き起こすことが出来るということだろう。
(・・・やはりこの人と僕では、魔術師としての引き出しに圧倒的な差がある)
背筋を冷や汗が伝った。
無限の魔力を生み出す"
(やはりやるしかないか)
手に持った杖に精神を集中させる。
「青い鎧」の起動。
具現化術式が変じた杖は微細なパーツに変わり、ヒョウエの全身を覆ってその身を超人へと変える。
セーフティを解除し、ヒョウエは強大な力を解き放つ最後のスイッチを思念の指で押し込んだ。
「!?」
何も起こらない。
愕然として動揺する心を何とか鎮めて、それをやったであろう男を見る。
紫の唇がクスクスと嘲り笑った。
「脇が甘いわよ。起動術式なんて大事な物を何の守りもつけずに使ってるなんてね」
「今の世の中には、そこにつけ込めるほどの術師がいませんので」
恐らくは術式を起動させようとした瞬間、それにロックをかけたのだろう。
たとえるなら敵が拳銃を発砲する寸前にセーフティをかけ直すが如き所業。
強大な魔力も複雑な術式も使わない、神域の技量のみが為せる技だ。
それでも軽口で返すヒョウエ。たとえ背中が冷や汗でぐっしょりと濡れていたとしてもだ。
それを察したのか、紫の口元が再び嘲笑の形に歪んだ。