毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「実のところお嬢様は『白甲冑』をお扱いになれます。いえ、扱えすぎてしまったのかもしれません」
「・・・?」
謎めかしたカスミの言葉にヒョウエが眉を寄せ、無言で続きを促す。
「正式な継承の儀の前に慣らしの期間を置くことはお話ししましたね?
その時お嬢様は見事に白甲冑を起動されました。
ただ、その時に・・・なにが起こったかはわかりませんが、我を失われてしまったのです。
その場に立ち会った数人に斬りつけ重傷を負わせて、護衛のものが魔法も使って総掛かりで押さえ込みました。
幸い治癒術師も待機させていたために死人は出ませんでしたが、ご隠居様――御当主代行であるお嬢様のおじいさまが今伏せっておられるのもその時受けた傷が元なのです」
「・・・それはまた」
治癒術は基本的に肉体の持つ自然治癒の機能を強化するものである。確かに肉体の損傷を修復してくれるが、大規模な負傷を癒せば当然体力も消耗する。
老齢のリアスの祖父にはそれがこたえたのだろう。
「暴走か・・・? まあ確かにそんなこと、間違っても外に漏らせませんね――『白のサムライ』の家が、事もあろうに『白甲冑』を用いて無用に人を傷つけたなどと」
「はい」
沈痛な表情のカスミ。
外に漏れれば間違いなく大スキャンダルである。最悪お取りつぶしすらあり得た。
貴族家の名誉や面子というのは、会社で言えば信用にあたる。
現代日本で言えば、製品に致命的欠陥が見つかった会社のようなものだ。
顧客は離れ、取引先も離れていく。最悪倒産も有り得る。
それが、今のニシカワ家の状況であった。
「この件を知っている人間は?」
「即座に箝口令が敷かれましたので、その場にいたご隠居様と護衛のもの、治癒術師、そして私だけです。いずれも口は堅い人間だと思いますが・・・
なにぶんにも大ごとになってしまいましたし、完全に隠し切れているとは思えません。察している人間はいるかと」
「ふむ・・・」
血しぶきとか盛大に残っただろうし、関係者の様子とか見てれば隠し切るのは難しいだろうなと溜息をついて一つ頷く。
「そしてリアス様はその時の記憶を失われてしまっているわけですね」
「・・・はい。先ほど暴走とおっしゃっておられましたが・・・?」
「えーと、ですね」
説明のために頭の中を整理しようとして少し言葉が途切れる。
「魔法、そして
普通制御に失敗すれば術式は起動しない。魔法は発動しないしマジックアイテムも起動しないんですが、たまに相性が良すぎて制御に失敗することもあるんですよ。
魔導甲冑のほうに問題がない以上、疑うべきはそちらの可能性ではないかと」
「魔法がうまく行きすぎて思わぬ効果を発揮する、あるいは暴発する・・・ということですね?」
カスミの確認に頷いて説明を続ける。
「魔法というのは本来不確かなものですからね。どんな達人でも失敗して暴走暴発することはあります。
魔道具でも同様で、こうなると制御できないのに術式自体は起動してしまいます。
本人は意識を失ったような状態で呪文や魔道具が暴走するんです。
お嬢様の場合はたぶん防衛本能が暴走して周囲の人間を敵として認識してしまったのかと。
更に暴走が起こるとしばしば精神にダメージを負いますので、記憶を失うこともあります――まあ暴走自体がそうそう起こることじゃないですけどね」
魔道具扱いの不慣れさ、内包する魔力の大きさ、そして恐らくは白甲冑との相性の良さ・・・そうしたものが相まって事故を起こしてしまったのだろう。
溜息をつく。
「そうなると魔導技師としてはできる事はほとんどありませんね。先ほど申し上げたとおり、お嬢様の心因的な問題となるとまずそちらを解決しないことには」
「・・・この事をお嬢様にお話しするのですか?」
カスミがためらいを見せる。
「そうならざるを得ないでしょうね。時間があるならまだしもですが」
「そう、ですね・・・」
唇を噛んでカスミ。
ヒョウエは無言で目を閉じた。
リアスとの時間を作れたのは夕食の後だった。
カスミからの説明を聞くにつれ、リアスの顔から血の気が引いていく。
話し終えたときにはその顔は真っ青だった。
「・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫です・・・いえ、大丈夫であるはずがありません・・・私が・・・白甲冑を暴走させて・・・おじいさまや他の者達を傷つけた? ありえません、あってはならないことです・・・」
蒼白な顔で、夢遊病者のようにぶつぶつと呟くリアス。
「お嬢様、大丈夫です! 誰も死んだ者はおりません! ご隠居様もすぐにお元気になります!」
肘掛けを強く掴む手に、ひざまずいたカスミが両手を重ねる。
少し表情を和らげて何かを言おうとしたリアスが、はっと何かに気付いたような顔になった。
「お嬢様?」
「カスミ・・・私は。私はひょっとしてあなたを傷つけてしまったの・・・?」
「それは・・・」
一瞬の表情の変化。
付き合いの長い彼女たちの間ではそれで十分だった。
「!」
「お嬢様!」
椅子を蹴立ててリアスが立ち上がる。
止める間もなく、リアスは部屋から駆け出していった。
一瞬呆然としていたカスミだが、すぐにヒョウエに一礼するとリアスを追って部屋を飛び出した。
「・・・・・・・・・・・・・」
ふう、とヒョウエが深い溜息をつく。
こうなるとヒョウエにできることはあまりない。
色々と悪巧みをする余地はないでもないが、事がリアスのトラウマの問題である限りはカスミに任せるのが一番いいだろう。
ちらり、と白の鎧に視線をやる。
先ほど装着してみた感じ、実用に問題があるレベルではないがそれでも多少いじる余地はあった。
せめて完璧に調整しておこうと思い、ドアが開けっ放しなのに気付く。
「おや。まあしょうがありませんか」
席を立ち、てくてくとドアの方に歩いて行く。
ノブに手を伸ばしたところで、横から伸びてきた腕がこんこんこんこん、と開いたままのドアをノックした。
「・・・?」
視界を遮る腕の主を見上げる。
半日ほど前に見た顔だった。
「よう、かわいい技師さん。今ちょっといいかい?」
均整の取れたたくましい体格、ほどほどに野性味のあるハンサムだがべっとりと張り付いた下品な笑みがそれを台無しにしている。
リアスの従兄、ローレンス・オトゥール・ニシカワだった。
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