毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
悪魔の群れとともに現れたダー・シに、セレスが目を見張った。
『あなた・・・まさかクリスですか!?』
「えっ!?」
「はあっ!?」
サーベージを除くその場の全員が硬直した。
ダー・シがカバのような笑い声を上げる。
「さすが姉弟子ネッ! 一発で見抜かれるトハ恐れいりましたワッ! まあ気付かれなかったラ、それはそれで悲しくて泣いちゃうところだったケドッ!」
ボハハハハ、と更に馬鹿笑いするダー・シ。
ヒョウエがそれを呆然と見ている。
「た、確かにしゃべり方やイントネーションには面影が・・・でも本当にクリス先生なんですか?」
ダー・シが笑顔のまま、ばちこん、と象も卒倒しそうなウインクを放った。
「エエ、そうヨ。ワタシは紛れもないクリス・モンテヴィオラ。まあそのなれの果てっていうのが正確カシラネ?」
『随分ぶくぶくと太ったものですね。まあ昔からあなたは甘い物が大好きでしたけど』
「まァ色々ありましテ! そう言う姉弟子ハお変わりないようで安心しましたワッ! もっとも、その美貌を維持するために色々とご苦労されてるようですケドッ!」
『・・・』
ボハボハと笑うダー・シ。
水晶の中の白い美女が押し黙る。
『・・・それで今日は何の用です。まさか旧交を温めに来たわけでもないでしょう』
「イヤですワ、半分くらいはそれですノニ。アア、そう言えば結婚されたんでしたわネッ!
遅ればせながらおめでとうございマス!」
『どうも。それでもう半分はなんなのです?』
緊迫感を孕んだ会話。
それでもセレスは悠然と、ダー・シであるクリスは陽気に笑いを上げながら。
「もう半分はですネ・・・この六千年ほど進めていた計画がこのたびようやく成就しそうなのデ、姉サマには是非ともお付き合い頂きたいと思いましテ!」
『それは・・・まさか、あれはわたしの居場所を探るために!?』
思念から伝わる驚愕の気配。
カバのような笑い声が更に大きくなる。
「ご明察! 目に見えない染みでも、試薬につければ浮き上がって見える! こんな大きな龍脈の上にあるのに、いやん、隠蔽の仕方がもの凄ぉーくウマい! ホント芸術的ですワッ!
だからあれくらい大ごとにしないと見つかりませんでしたノッ!」
敬愛する姉弟子を驚かせたのがよほど嬉しかったのか、腹を抱えて狂ったように笑うダー・シ。いや、クリス。
目を白黒させながら、モリィがヒョウエに顔を寄せた。
「お、おい、どういうこったよ? 何の話だかわかるか?」
「おそらくは先だっての幻夢界での
セレス先生はこの場所を可能な限り巧妙に隠していたけど、幻夢界から漏れる様々なものが物質界に薄くだけど流れて、それで特異な反応を示した場所を探してここを突き止めたんでしょう」
ばしんばしん、とクリスが手を打ち合わせた。
恐らくは拍手のつもりなのだろう。
「ヒョウエくんもご明察ッ! その通りヨ、あの
幻夢界から漏れ出た
「・・・!」
ヒョウエが絶句する。
さすがの彼が――いや、チート持ちの
同じ真なる魔術師であるセレスにとってさえ、それがかなりの離れ業であるのは彼女も無言になっていることからわかる。
言葉を失って立ちつくす二人の横で、百貫デブならぬ一トンデブに一歩進み出たのは隻眼の老語り部。
「さっきからボハボハうるせえんだよ。
それだけでも鬱陶しいのに人の嫁を勝手に連れて行く?
ゲマイの死なない王様をゲマイの死んだ王様にしてやろうか、あん?」
「・・・」
全身から放射される殺気。
柳生新陰流を極め、四千年の鍛錬を経た伝説の剣士から発せられるそれに、さしものクリスが口を閉じる。
しばし落ちる沈黙。
周囲の巨大な悪魔たちも、クリスの命令がないせいか一同を見下ろすだけで微動だにしない。
それでも。
ややあってクリスが顔に浮かべたのはにまぁとした笑みだった。
「ほう」
怒気をにじませてサーベージが呟く。
じり、と。
すり足で一歩を踏み出す。
それでもクリスの笑みは消えない。
「やぁねえ、マジにならないでヨ。それにアナタは確かに姉様の旦那さんダケド、それでも姉弟弟子の間に割って入るノハ感心しないワネ?」
「知ったことか」
更にすり足で一歩、そして腰を落とす。
まだ10m近く離れているが、構えているのは伝説の達人。
恐らく手に持っているのが刀なら踏み込んで抜き打ちで首を落とせる一足一刀の間合い。
手に持っているのは刀でこそないが、ムラマサの妖刀をことごとく受け流した業物の杖。
恐らくは柳生杖と呼ばれる鉄芯入りの打撃武器のたぐい。使う者が使えば人の頭などスイカよりもろく砕け散る。
そうでなくとも海を断ち割る斬撃を放てば、いかに真なる魔術師と言えどもただでは済まない。
(・・・けど)
驚愕から立ち直ったヒョウエが心の中で独りごちる。
(なんだろう、嫌な予感が・・・!)
既にクリスはサーベージの間合いの中にいる。
周囲を固める巨魔でさえ、サーベージなみの達人でもなければ割って入れない距離。
少しずつ、少しずつ濃度を増す張り詰めた空気。
対照的にサーベージからは殺気が消えている。
無念無想。
リアスが精神統一を必要とした自分を消すという境地に、ごく自然に入り込んでいる。
動かないサーベージ。
動かないクリス。
空気の密度だけが上昇していく。
緊張感で誰もが動けない。
動いたら取り返しの付かない何かが起こりそうな、そんな空気。
その中で何かが弾けた。
武の達人にしか感じ取れないそれは、光の粒子のように二人の間を通り抜ける。
「イエェェェェェェェェェッ!」
空気を震わせるサーベージの気合。
気がついた時には瞬間移動したようにその体がクリスの眼前にあり、両手に握った杖がその頭を砕くところだった。
「!?」
だが、それでもクリスの笑みは大きくなる。
それはつまり、なまじっかな剣士でも影すら追えない、サーベージの踏み込みと一撃を認識していると言うこと。
それでも動き出した杖は止まらない。
龍の角でさえ砕く一撃がクリスの頭に振り下ろされ。
「!?」
硬質の音と共に弾き返された。
「・・・」
「嘘」
『・・・・!』
どこか青い鎧に似た甲冑の色は艶一つない漆黒。
翻るマントは不吉を思わせる暗い紫。
兜の両脇から映えた禍々しい角。爪の如く尖った両手の指。体中に生えた
サーベージの一撃を脳天にまともに食らいながら、その騎士甲冑の人物は悠然と宙に浮いていた。
葬送曲が奏でられた。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
死神は、葬送曲と共に現れるのだ。