毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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10-13 ゆけゆけぼくらのハーキュリーズ

 

 魔法金属製の拳が唸り、空中を舞う緑色の悪魔に直撃する。

 トカゲとトンボを掛け合わせたようなそれは3mほどの巨体を誇るが、家――特に変形するでもない、三階建ての家そのままに手足の生えた奇天烈な構造体――イサミの言を借りるなら万能移動型要塞店舗『ハーキュリーズ』――の拳は更に大きい。

 

「うおらぁっ!」

 

 叩き付けられた拳はそのまま街路に振り下ろされ、緑色の染みがびしゃっと広がった。

 更に後ろから襲いかかって来たトンボ悪魔(ドラゴンフライ)を裏拳ではじき飛ばし、低空から迫ってきたもう一匹にサッカーボールキック。

 5mを超す巨大なつま先が胴体にめり込み、蹴り飛ばされたドラゴンフライは街路を数回バウンドすると、濃い緑色の体液を吐いて動かなくなった。

 

「動くっ! 『ハーキュリーズ』の腕が俺の腕のようにっ! 俺は今『ハーキュリーズ』になったのだっ!」

 

 作業室。歓喜の表情でイサミが吼える。

 その首と両手、頭部にはいつの間にか金属製のバンドや籠手、ベルトや足環が装着されており、見るものが見れば魔道具とわかる。

 足元には複雑な魔法陣が浮かび上がり、体の固定に一役買っているようだ。

 『ハーキュリーズ』の動きはイサミのそれと正確に連動しており、彼が拳を振るうのに合わせて、ハーキュリーズの拳がドラゴンフライを叩きつぶしている。

 ガレージの扉には外の映像が三百六十度リアルタイムで映し出され、周囲の状況を把握できるようになっている。

 

「目だ! 耳だっ! 鼻っ!」

 

 ノリノリで叫びつつ、うっかり地上に降りてしまった緑悪魔を踏みつぶす。

 悪魔は見事に街路の染みになったが、揺れる作業室の中で必死にあちこちにしがみついてるモリィ達としては突っ込みたくもなる。

 

「目も耳も鼻も関係ないだろそれ!」

「ロマンなんですよ、大目に見て上げて下さい」

「・・・」

 

 滅多に見られない真顔のヒョウエ。

 その顔に一瞬見入った後、モリィは盛大に溜息をついた。

 

「肘打ち! 裏拳! 正拳! とりゃあっ!」

 

 作業室に、イサミの歓声が絶え間なく響いている。

 

 

 

 戦闘は続いている。

 手足の生えた家に群がる緑色の空飛ぶ悪魔ども。

 いい意味でも悪い意味でも脳に衝撃を与えるその光景は、こわごわと街路を覗き込む一般市民をして慌てて目をそらさせるだけの威力があった。

 まあ多分悪魔が恐ろしくて目をそらしたのだろう、多分。

 

 とはいえ三十匹はいたドラゴンフライたちも既に十匹余りにまで打ち倒され、転がる死体や街路の染みは嫌な匂いの煙を上げて蒸発しつつある。

 

『GYAGYAGA!』

 

 ついに耐えきれないと判断したか、一匹のドラゴンフライが声を上げて高度を上げると、他のドラゴンフライ達もそれに従って撤退を始めた。

 飛び去る方向に見えるのは煙。

 

「あれは!?」

「アイズナー離宮のほうです!」

「あなた、離宮に援軍に・・・」

 

 ディグの言葉でアンドロメダが夫に提案するも、イサミの耳には入っていない。

 

「逃すかあ!」

 

 イサミが特撮ヒーローの変身ポーズのような何かを取ると、家の二階と三階の間、三階の床下、二階の天井裏から壁を突き破って球体の様な物が二つ飛び出す。

 見ようによっては入り口を口に、二階の窓を鼻にして、目に見えなくもない。

 グッ、とイサミが拳を握りこみ、筋肉を盛上がらせる。

 手を突き出し叫ぶ。

 

「魔法力ビィィィィィィィムッ!」

 

 球体から放たれた指向性の魔力砲――恐らく威力はモリィの雷光銃のチャージ攻撃にも匹敵する――が二条、宙を切り裂いて飛ぶ。

 大空を薙ぎ払う二筋の雷光が王都の空を汚す緑色の汚物を残らず焼き尽くし、消滅させた。

 

 

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「ヴィクトリィィィッ!」

 

 勝利のガッツポーズを決めるイサミ。

 ふてぶてしさを固めて焼き上げたようなサーベージとメルボージャの夫婦を含めて、他の面々は絶句している。

 

「・・・(グッ)」

「(グッ)}

 

 その唯一の例外、祭壇に横たわったままのヒョウエが真剣な顔でサムズアップすると、イサミもまた大まじめな顔でサムズアップを返した。

 

「・・・」

 

 そしてイサミの顔が緩み、再び歓喜の咆哮を上げ。

 

「ぐおあぁぁぁっっ!?」

 

 ・・・ようとした瞬間、金属製の大きな花瓶が彼の後頭部を直撃した。

 悲鳴を上げて悶絶するイサミ。

 彼の動きをトレースして、手足の生えた家が頭?を抑える。

 

「何するんだメディ! あぶないだろ!?」

 

 慌てて「ハーキュリーズ」の動きをロック、歩く家が直立不動で停止したのを確認するとイサミは涙目で妻に食ってかかった。

 極地の吹雪より冷たいアンドロメダの目がそれを見返す。

 

「ねえあなた? 聞きたいことがあるんだけど。この家を改造する費用と資材、どこから捻出したのかしら?」

「 」

 

 イサミの動きと表情がぴたりと止まった。

 

「あ・な・た?」

「いやその、こつこつ貯めたお小遣いから・・・」

「あなたのポケットマネーでこんな規模の改造と魔石の調達が出来ると思えないけど?」

 

 何とか誤魔化そうとする見苦しいイサミであったが、自分と同じかそれ以上の魔道具のプロフェッショナルである妻を誤魔化せるわけもない。

 周囲からの冷たい視線もあってあっさりと屈する。

 

「そのですね、あちこちの依頼や仕事で余った資材を廃棄したことにしてこっそり溜め込んだり、ちまちま《加護》で錬成したり・・・」

「『俺の《加護》は連続使用が辛いから一日10kgくらいにしてくれ』って言っておいて、自分の趣味で浪費していたのね。

 それで? この家を改造するのにどれだけの資材を《加護》で合成したのかしら?」

「えーと・・・・・・10トンくらい?」

「この宿六っ!」

 

 ガチ殺気の籠もった金属製の花瓶が――今度は魔力による筋力強化まで使った本当に手加減無しの全力で――馬鹿(イサミ)の脳天に叩き付けられた。

 

 

 

 酷使に耐えかねて、ついに力尽きてひしゃげた花瓶ががらん、と床に転がる。

 駆り立てたのは浪漫と欲望、横たわるのは瓶と(イサミ)

 愚かな夢追い人の最期であった。まあ別に死んではいないが。

 

「いいからお前らさっさと手伝わんかい! 悪魔は撃退したし、マデレイラ、おまえもじゃ。ジジイ、その馬鹿を叩き起こして手伝わせろ!」

「へいへい」

「は、はい! メルボージャ様!」

「ふー・・・はー・・・わかりました」

 

 怒気をはらんだ老術師の声。

 気のない老語り部と、緊張しつづけの少女と、激情を何とか押さえ込んだ苦労人の人妻と、三人がそれぞれに返事をした。

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