毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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10-14 辞表は受理されませんでした

「ああ、ヒョウエ!」

「わぷっ!?」

 

 涙目のカレンがヒョウエに抱きつく。

 気丈な姉が涙を見せるところを、少年は初めて見た。

 腕に力を入れる姉をいつものようにふりほどくでもなく、背中を撫でてやる。

 もう一方の手は、泣きじゃくりながらしがみついてくるカーラの頭を撫でてやっていた。

 

 メットー王城「ブロンズ・エッジ」。

 その奥まった後宮にヒョウエたちはいた。

 魔法道具店にいた面々に加えてサナとリーザも控えている。

 

 ヒョウエが重傷を負ったと聞いて、カレンは"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"エージェントの一部隊をフル装備で送り込んでいた。

 加えて悪魔の集団に襲われるに至って、関係者を王宮で保護したほうがよさそうだと、父王の許可を得て手術を終えたヒョウエたちを呼び寄せたのである。

 

 なお念のためにと『ハーキュリーズ』で移動したら(イサミが特に強くそう主張した)、大通りの民衆を大騒ぎさせた上、王宮前に緊急配備された魔導砲の一斉射撃を喰らいそうになったのは余談である。

 今ハーキュリーズは王城の前庭で(いわゆるヤンキー座りで)しゃがみ込み、衛兵やメットーッ子の物珍しげな視線を一身に浴びていた。

 

「さて」

 

 カーラが泣きやんで部屋に戻った後、カレンが一同を見渡した。

 その顔にはもう涙の跡はない。

 

「まずはメルボージャ師、アンドロメダ様、イサミ様、マデレイラさん。弟の命を救ってくれたことに御礼申し上げますわ」

 

 深々と頭を下げる。

 

「まああんなのでも弟子なのでな」

「弟弟子ですから」

「右に同じですな」

「い、いえ殿下。私にとっても大切なゆ、友人なので・・・」

 

 メルボージャがにやりと、アンドロメダが微笑んで、イサミが肩をすくめて、マデレイラが緊張したおももちで頭を下げる。

 くすりと笑うと傍らのヒョウエに視線を向ける。

 

「それでヒョウエ、体の方は大丈夫なの?」

「ふつうに生活する分には問題ないと思いますよ。軽くですが魔力も練れますし」

「そう、良かったわ。・・・本当、心臓をえぐられたと聞いた時にはどうなったかと」

「ご心配をおかけしました」

「そう思うなら無茶をするんじゃないの」

 

 顔に似合わずやんちゃな弟の額を指でつつき、表情を真剣な物に戻す。

 

「それで? 事情はほとんど聴いておりませんが、いったい何が起こっているんですの?」

「それがじゃの・・・」

 

 メルボージャが話し始めると、だんだんカレンの鉄面皮がこわばり始めた。

 途中から入って来た『狩人』もその様に見えたが、なにぶん文字通り仮面をかぶっている彼のこと、どこまで動揺しているかはわからない。

 ヒョウエが青い鎧であること以外、ほぼ全てを話し終えると、主従は二人揃って深く溜息をついた。

 

あなた(メルボージャ)やヒョウエが関わっていなければ、何を馬鹿なと一笑に伏していたでしょうね・・・」

「一体いつの間にこの世は神話の時代に逆戻りしたのでしょうな。

 こんな事なら昨日のうちに辞表を出しておくのだった」

 

 軽口を叩く"狩人"をカレンが睨むと、彼は素知らぬ顔で視線を逸らした。

 代わって口を開いたのはメルボージャだ。

 

「それで、今度はこちらからお伺いしたいのじゃがな。

 現在、離宮の状況はどうなっておる? そこ以外に悪魔は出現してはおらぬか?」

「残念ながら離宮はほぼ制圧されました。それなりに被害は出ましたが、働く者達のほとんどが避難できたのがせめてもの救いですわね。悪魔もそこ以外では確認されておりません」

「軍のほうは?」

「ジョエリー叔父様が動いてはいるようですが、先だってのレスタラ相手で随分と戦力を消耗いたしましたから・・・」

「考えてみれば、けっこう立て続けに大事件が来てやがるよなあ。レスタラとかウィナー伯爵とか、エルフの森のあれとか。ひょっとして全部あの紫野郎の仕業ってことはねえのか、姫様」

 

 いつの間にか結構仲良くなっているモリィが視線を向ける。

 少し考え込んでからカレンは首を振った。

 

「かもしれませんが、今考えてわかる事でもありませんね。"狩人"、どうかしら?」

「私もカレン様と同意見ですな。先だってのレースは有り得るかと思いますが、それ以外については何とも」

 

 そのタイミングでノックがあった。

 部屋の中の視線がドアに集中する。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 入って来たのはエージェントとおぼしき若い男だった。

 集中した視線と中の面々に僅かに気圧されたようだったが、それをほとんど表に出さずに一礼する。

 

「何か?」

「はっ、それが・・・」

「構わないわ。言いなさい」

「はっ。"納骨堂(ヴォルト)"が破られました。囚人たちはほとんど脱走して行方不明です」

「!」

「なっ!?」

 

 顔色を変えたのはカレンとヒョウエだった。"狩人"も盛大に渋い顔をしている。

 

「・・・冗談にしては少々刺激的すぎるな。どうやって破られた?」

「極めて強力な魔法によって結界に穴を開けられたようです。そこから物理的に壁と天井を破壊されて、その後閃光と轟音、昏倒の毒気でほとんどの看守が意識を失い、発覚した時には囚人たちの姿はありませんでした」

「何てこと・・・!」

「"狩人"。確かウィナーもブチ込まれていたんですよね?」

「はい。あれの比ではない厄介な奴らも・・・」

 

 そこまで言って狩人は周囲の視線に気付いた。

 

「ああ、"納骨堂(ヴォルト)"というのはな、メットー王国で犯罪を犯しはしたものの普通の牢獄に入れられない、もしくは様々な理由で殺せない連中を放り込むための特別な牢獄だ。

 物理的にも魔法的にも下手な要塞よりよほど頑丈な守りが施してある」

「牢に入れたり殺したり出来ないというのはつまり、身分が高い罪人のための?」

 

 おずおずと質問したリアスに"狩人"が首を振る。

 

「まあ普通はそう思うでしょうが・・・そう言うのとは違います。あそこに放り込まれる犯罪者というのはですな、強すぎて物理的に殺せない連中なんですよ。生身で鉄格子を引きちぎるとか、首をはねても死なないとか」

「うへえ」

 

 うんざりした顔のモリィにメルボージャが頷く。

 

「まあ《加護》なんてものがあるからの。強力な《加護》持ち相手にはそれくらいしないとどうしようもない。封印の手かせなんてものも最近はあるがな」

「あれは辛かったですね・・・!」

「災難じゃったの。まああれが牢獄全体にかけられているような場所だと思えばよい」

「その通りですが何故ご存じなので?」

「そりゃあ『お若いの』、わしも作成に手を貸したからに決まっておろう」

「・・・」

 

 ほっほっほ、と笑う老婆に海千山千のスパイが絶句した。

 頭を振って気を取り直すと、報告を持ってきたエージェントに視線を向ける。

 

「それで、脱走したメンツの名簿は?」

「今作成中ですが・・・意識のある看守によれば残ってるのは取るに足りない連中ばかりで、厄介なのはほぼ全て・・・」

 

 "狩人"が深く溜息をついた。

 

「やれやれ、やっぱり辞表を書いておくべきだったな」

 

 今度はカレンも口を挟まなかった。

 




どうでもいい話ですがブロンズ・エッジの前の王城がシルバー・エッジで最初のそれがゴールデン・エッジです。
多分今のが壊れたら次はモダン・エッジ(ぉ

※アメリカンコミックで、スーパーマン登場のころがゴールデン・エイジ、規制などで一度衰退した後スパイダーマンなどが登場して再興したのがシルバー・エイジと呼称されています。
ブロンズ・エイジはマイナーですが70年代ごろを指すそうです。
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