毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
そこからはやきもきする時間が流れた。
いかに常備軍、いかに精鋭中の精鋭と言えども即座に軍を召集できるものではない。
小数の即応部隊(王宮に配備されていた魔導砲部隊などだ)を除けば、まとまった数を用意するのにはそれなりの時間がかかる。
もっとも兵の配備に避難計画の立案に市民の慰撫と、やる事自体は山ほどあったので退屈だけはしなかったが。
「青い鎧が今回出てこれないと聞いたときの皆さんの表情は見物だったわよ。
アレックスなんか顎をかくーんと落としちゃってね」
「僕の正体は話してないでしょうね?」
「もちろん。でもまあ、タイミングが良すぎるし薄々察してても不思議には思わないわね」
「ですよねー」
カレンの執務室。来客用の卓で茶をすすっていたヒョウエが溜息をついた。
何だかんだで彼の家族や知己には鋭い人間が多い。
馬鹿げた《加護》を持つヒョウエと馬鹿げた力を持つ謎のヒーローを結びつける人間がこれまでいなかったのは、体格が違いすぎるとか声が違うとか色々あるが、この世界であればいずれも魔法でどうにか出来る範疇である。
優秀な情報分析者であるサフィアがおらずとも、いずれはたどり着く人間が出て来たことだろう。
ヒョウエと同じく香草茶をすすりながら、砕けた口調でモリィが尋ねる。
「で、あたしらはどうすればいいのさ、姫様?」
「ヒョウエの護衛兼見張りというところかしらね。このお馬鹿に首輪をつけて大人しくさせててちょうだい。
この有様でアイズナー離宮奪還部隊に志願したと聞いたときには頭を抱えたわよ」
溜息をつくカレンに反論。
「黒等級の戦力ではないにしろ、現状でも緑等級レベルの戦力は発揮できると言ったでしょう」
「まあそれはそうなんですけれども、やはり本調子ではありませんし・・・」
「普段のヒョウエ様にわたくしどももヒョウエ様ご自身も慣れておりますし、正直激戦地に飛び込むにはかなり不安のあるコンディションと申し上げざるを得ません」
「まあそれはそうですが、緑箱を遊ばせておく余裕が現在のディテクにあるとも思えませんけど?」
反論するリアスとカスミに更に反論すると、カレンがぴしゃりと言葉をかぶせてくる。
「逆に言えば緑箱程度って事よ。魔道甲冑数体分くらいの・・・まあそれはそれで大したものだけど、それ位の戦力とあなたの命を引き替えには出来ないわ。
あなたには単なる戦力以上の価値があるんですからね」
加えて家族に死んで欲しくない、とこれは口にはしない。
もっともその辺はヒョウエもわかっている。
「それはそうですけどね。だから大人しく王宮に引きこもっているじゃないですか」
「私も忙しいから、カーラの相手をしてくれるのがありがたいわ。あなたがいるとあの子安心するもの」
「僕は妹の安心毛布ですか?」
「光栄でしょう? 名誉に思いなさい」
「はいはい」
いたずらっぽく微笑む姉に、ヒョウエが全面降伏とばかりに両手を上げて立ち上がった。
「さてと、それじゃそろそろお暇しましょうか」
「あら、もう行っちゃうの? ゆっくりしていけばいいのに」
「仕事をしている人がいるのにくつろげませんよ」
実のところ、先ほどからずっとカレンは仕事を続けていた。
こうしている間にもインクの尽きない魔法の羽根ペンが紙を滑る音が響き続けている。
「それじゃまあ、夕食までは図書館にいますので、何かあったら呼んで下さい」
「あなたもマメねえ。役に立つかどうかもわからないのに」
「閉じこもってて何もしないよりはマシでしょう。できる事はやっておかないと気が済まないんですよ」
「まあ否定はしないけど」
肩をすくめる姉にクスリと微笑んだ。
なお三人娘、サナとリーザも一緒なので、調べ物で入館する閲覧者が美少女揃いの光景にぎょっとするとか何とか言われているのはどうでもいいことだ。
ヒョウエの世話をするサナとリーザ以外はただいるだけだが、それだと流石に退屈なのでそれぞれ適当な本を手にしていた。
「リハビリもちゃんとしなさいよ。心臓えぐられたんですからね」
「はいはい、わかってます」
なお今イサミ・アンドロメダ夫妻とマデレイラは『ハーキュリーズ』と『ドルフィン』でアイズナー離宮奪還作戦に参加するべく待機中。
ハーキュリーズを動かすために使用した魔力結晶の量を見てアンドロメダが再び鬼のような形相になったらしいが、詳しい事は不明だ。
ただマデレイラがひどく怯えていたのと、ボロ雑巾のようになったイサミが作業室に転がっていたのは事実である。
サフィアとQBは"
メルボージャとサーベージはまたしても姿を消した。ヒョウエの心臓をどうにかする当てがあるようだが、期待するなとも言っていた。
ので、ヒョウエも他の面々も彼らの事は頭から追い出している。
「世界のへそか・・・あいつらがそれをどう利用するのか気になるわね」
「悪魔王の召喚とかではないと?」
「根拠はないのだけれどもね。何となく違うような気がするのよ」
「ふーむ」
本人も根拠はないとはっきり言ってはいるが、人間観察に関しては海千山千のスパイマスターが認めるほどの才能を持つカレンだ。
退出するヒョウエの心に、その一言が僅かに引っかかった。
その後は何も起きず、夕食。
久々に会ういとこたちや、回復した第二王子コネルとの会話をヒョウエも楽しんだ。
国王や王子達との会食でモリィなどはかなり緊張していたようだが、ヒョウエとリーザ、サナのフォローで何とか乗り切った。
その後はしばらく家族の時間。嫁に出た第一王女を除いて王族が全員揃っているのは珍しい。
カーラが指定席とばかりにヒョウエの膝によじ登り、周囲の笑みを誘う。
バスケットの中で寝ているアルテナをみんなで物珍しそうに覗き込んだり、リーザや三人娘に対してヒョウエに関する質問が集中、モリィのみならずカスミもかなり緊張していたなどの微笑ましい一幕もあった。
「おめえら、結構大物だったんだな・・・」
「まあ、こう言うのは場数ですから」
「昔から王族の方々の傍近くにお仕えしてきましたから」
対して、それなりに余裕のあるリアスとリーザ。
このあたりは腐っても元伯爵令嬢、現伯爵である。リーザも王族の面々とは昔から顔なじみなのでプレッシャーは感じていない。
モリィが二人を見る目にちょっぴり尊敬の念が増していた。