毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-06 ローレンス

 返事を待たずにつかつかと部屋に入ってくるローレンス。

 その視線はヒョウエではなく部屋の中央に鎮座する白の甲冑に向けられている。

 

「サー・ローレンス? 僕に御用なのでは?」

 

 ドアを閉めたヒョウエの皮肉げな声。

 ローレンスは振り向かず、どこか楽しげな声で返した。

 

「まあそう言うなよ。俺だってこいつは触るどころか滅多に見られないんだ。

 ちょっとばかし堪能させてくれたっていいじゃないか」

 

 ローレンスと並ぶ位置に立ったヒョウエが、ちらりとその顔を見上げた。

 先ほどまでの下卑た笑みは姿を消し、無邪気で楽しそうな表情がその顔を彩っている。

 

(これが本来の彼なんでしょうかねえ)

 

 視線を下げて彼の腰に目をやる。

 ベルトに無造作に差し込まれているのは朱塗りの鞘の日本刀。

 転生者であるヒョウエの目から見てもきちんとした作りで、こちらの世界で作られた模造品ではなく、向こうの世界から持ち込まれた本物かもしれないとの考えが頭をよぎる。

 

 だが、ヒョウエの目を惹きつけたのはそのカタナが本物の日本刀だからではない。

 明らかに魔力を帯びている。それも余り良くないものであるように思えたからだ。

 

(こんな時"魔力解析(アナライズ・マジック)"の呪文でも習得していればなあ)

 

 魔素(マナ)に親和性を持つもの、つまり術師の素質を持つものは魔力を感知できる。

 ただしかなりおおまかにだ。有無についてはともかく性質については何となく雰囲気がわかる程度で、初めて会った他人を第一印象で判断する程度の精度でしかない。

 正確に分析するには専用の呪文なり魔道具なりが必要になるが、さすがに「解析したいのでそのカタナちょっと貸してくれません?」とは言えない。

 

 やがて堪能したのか、ローレンスがヒョウエの方に視線を向ける。

 その顔には最初に見たときと同じ下卑た笑みが、再びべったりと張り付いていた。

 

 

 

「・・・で、何の御用で?」

 

 冷たい視線。まずはヒョウエが問いかける。

 かはは、とローレンスが笑った。

 

「怖いなあ、お嬢さん。あんたはうちの家の事情には関係ないだろう? 職人としてはもう少しフレンドリーな雰囲気を出さなきゃ客が離れるぜ」

「雰囲気についてはお客様次第ですね。後僕は男なので」

「そうか。そりゃ失礼、お嬢さん」

 

 ぴくりと片方の眉だけを上げる。

 かはは、とまたローレンスが笑った。

 

「しかし、やっぱり白甲冑(こいつ)はいいなあ! ちゃんと調整はしてあるのかい?」

「無論仕事はしておりますとも。そのために呼ばれたわけですし」

 

 にやにや顔のローレンスに素っ気なく応える。

 ローレンスの笑みは変わらない。

 

「リアスはこいつをうまく動かせているのかい?」

「テストした限りでは問題なく」

 

 相手の意図はわからないが無難に、そしてどうとでも取れる答えを返す。

 ヒョウエも仮にも王族であるから、言葉の重みというものについて多少は薫陶を受けている。加えて前世で僅かなりとも身につけた腹の探り合いの手練手管もあった。

 

「そりゃあ楽しみだ。継承の儀ではでかいツボを持ち上げるからな。あの細腕が人食い鬼(オーガ)でも持ち上げられないような金壺を持ち上げるのはちょっとした見物だろうぜ。

 動かせれば、の話だがな」

「大きな金属製の壺、ですか?」

 

 煽りを無視して気になった所を突っ込むヒョウエ。

 昔見たカンフー映画の、焼けた釜を持ち上げるシーンが脳裏によぎる。

 微妙な表情が出ていたのか、ローレンスが頭をボリボリとかいた。

 

「まあ意味わからんよな。初代様の言い残した事を元に三代目か四代目の当主が始めたらしいが。えーとなんつったか、『カナエ』か。それを持ち上げるのが当主の器かどうか図ることになるとかなんとか」

 

(「(かなえ)の軽重を問う」ってそれそういう意味じゃないから!)

 

「・・・なんだ?」

「・・・いえ」

 

 叫ばずに我慢した自分を褒めてやりたいとちょっと思うヒョウエであった。

 

 

 

 ローレンスの探りはそれからも続いた。

 それをのらりくらりとヒョウエが何とかかわしていく。

 三十分ほどもそれが続いた後、ローレンスが忌々しげに舌打ちした。

 

「生意気なオカマ野郎が。かわいげがねえぜ」

「それはどうも。かわいげで商売してる訳じゃありませんのでね」

 

 涼しい顔を何とか維持しつつヒョウエ。

 30分間の腹の探り合いは慣れていない人間には辛い。

 

「まあいい。どうせ動かせやしねえんだ。継承の儀の日が楽しみだよ」

「でしたら驚いて腰を抜かさないようにお気をつけを。お年寄りが使う歩行補助用の具現化術式がありますがどうです? いい店をご紹介しますよ」

「ちっ」

 

 もう一度大きな舌打ちをして、ローレンスは荒々しく部屋を出て行った。

 深く溜息をついて開けっ放しのドアを閉めると、ぺたんとソファに座り込む。

 そのまま冷えてしまった茶を一気に飲み干し、並べられた茶菓子をやけ食いし始めた。

 

 

 

 ヒョウエが茶菓子を全部むさぼり尽くした頃、カスミが戻ってきた。

 一礼して溜息をつく。

 

「どうでした」

「取りあえず落ち着いてはいただけました。ですが・・・」

「さすがにショックでしたか」

「はい」

 

 二人揃って溜息をついた。

 ヒョウエとしてもここで気の利いたセリフを吐けるほど人生経験は積んでいない。

 しばらく沈黙が続いた。

 

「それでヒョウエ様。ご隠居様がお話がしたいとおっしゃっておられるのですが」

「当主代行様が? 僕にですか?」

「はい。よろしければお願いできないでしょうか」

 

 確認の態を取ってはいるが、とはいえ断る選択肢はほぼない。

 相手は伯爵家の事実上の当主で、今のヒョウエは平民の魔導技師に過ぎないからだ。

 

「まあ構いませんけど・・・何の御用でしょうか?」

「さあ、私にはなんとも」

 

 首をかしげながらヒョウエは立ち上がった。




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