毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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10-18 流言飛語

 奇妙な噂が流れ始めた。

 世界の終わりが来るというのである。

 

 特に奇妙なのはそれが世界中で同時に流れたことだ。

 ディテク。ライタイム。アグナム。ゲマイ。ダルク。その他多くの中小の国々。

 王宮で、貴族のサロンで、商人の寄り合いで、酒場の片隅で、おかみさんたちの集まる井戸で、庶民の夕食の席で、ひそひそと、人目をはばかるように伝えられ、広められていく。

 

「星占いが・・・」

「占術神神殿の司祭様の言うことには・・・」

「ディテクで悪魔が現れたって聞いたか?」

「これは取引先の旦那が言ってたんだが、貴族や金持ちが逃げ出してるらしい」

「豊穣の女神の星が木星の宮に入ったんだ。これは凶兆だよ」

「神官たちが神託が聞けないって」

「先だっての大地震はその前兆だったんじゃないか?」

「ズールーフの森で奇妙なことが起こったって、エルフと取引のある商人が言ってたんだ」

 

 人の口に戸は立てられない。

 折悪しくディテクの王都で悪魔による離宮占拠事件が起きた。

 襲撃が昼日中であったこともあり、噂はそれこそ燎原の火のように広まった。

 その後王国は精鋭をもって周囲を固めるも、攻め入ろうとはせず膠着状態が続いている。

 それも更に悪い噂の元になるには十分で。

 

 旅人や吟遊詩人、各国や神殿の持つ高速情報ネットワークを通して、この世界としては驚異的な、そして不自然ですらある速度で情報が拡散する。

 それはあたかも、何者かが世界の最後に備えよと言っているかのようだった。

 

 

 

「ヒョウエ! 大怪我をしたと聞いたが大丈夫か!」

「ヒョウエ!」

「セーナ! ミトリカ!」

 

 そうしたある日、ヒョウエたちが滞在する王宮の一角にやってきたのはズールーフの森のエルフ、セーナとピクシーのミトリカだった。後ろにはセーナの幼友達である「護り手」のティカーリもいる。

 三人とも普段のそれとは違う、それなりに格式の感じられる出で立ち。

 顔に飛びついてきたミトリカを軽く撫でながら、セーナたちに笑顔を向ける。

 

「会えて嬉しいですよ。今日は? ズールーフの森からの使者ですか?」

「ああ。ディテク王国への使者として来た。まあ私はお飾りで、実際の話は着いてきたものがする。ミトリカの同行が許されたのもつまる所、私はお前と仲良くしておけということだろう。

 それで具合はどうなのだ? 前に比べて帯びている魔力が随分少なくなってる気がするが・・・」

「随分どころじゃ無いよ! まるで普通の人間みたい!」

「わかるものですねえ、さすがエルフとピクシー」

 

 肩をすくめて、取りあえず座るように勧める。

 ジュリス宮殿から来てくれた馴染みの侍女に頼んで香草茶を淹れてもらうと、ヒョウエは溜息をついて一部始終を語り出した。

 

「・・・使者からおよそのことは聞いたが、本当なのだな。

 "残りしもの"に"最初の戦士(パハーラ・ヨッダ)"、神になり損ねた百一人目の魔術師、黄金鱗の虹竜の心臓、ゲマイの不死の術師に悪魔・・・頭がどうにかなりそうだ」

「皆さんそうおっしゃいます」

 

 モリィ達も含め、事の重大さとスケールの大きさに改めてめまいがする。

 居間に一同の溜息がこだました。

 

「それで使者というのは何の? ひょっとして援軍に来て頂けるんですか?」

「うむ。ことがことだけにお爺様も即決されたらしい。

 我らエルフは世界を維持する使命を授かった種族。

 世界の理を侵す悪魔が相手では是非もない」

「ありがたい! ズールーフの森のエルフ戦士が援軍に来てくれるなら百人力、いや千人力ですよ!」

「オレさまもいるぞっ!」

 

 テーブルの上でミトリカが胸を張る。

 

「もちろんミトリカも当てにしてますよ」

「えへへー!」

 

 褒められて相好を崩すピクシーの少女。

 ヒョウエも眼を細める。彼にしてみれば、彼女はかわいい妹のような物だ。

 

「そう言えば魔力制御はどの程度出来るようになったんです?」

「けっこうできるようになったぞ! アディーシャにもほめられたしな!」

 

 ぽっ、とミトリカの指先に魔力の光が灯る。

 

「ほう」

 

 思わず感心の声が出た。

 指先の小さな範囲にかなりの魔力を集中させて、かつ他の部位の魔力に乱れがない。

 本人が言うとおり相当の修練を積んだものと思われた。

 

「いや凄い凄い。実際大したものですよ。後は戦う時とかにもこれを維持するのが次の目標ですね」

「やっぱ難しいのか?」

「ええ、人にもよりますけど、どうしても戦慣れというかそういうのが・・・」

 

 ばたん、と居間の扉が開く。

 飛び込んできたのはもう一人の妹であるカーラ。

 

「お兄様、クリプトが・・・あれ? すごい、ピクシー!? 初めて見た!」

「カーラ、お客様の前ですよ」

 

 目を丸くする妹を笑顔でたしなめてやる。

 セーナも同様に笑った。

 

「気にするな、王女よ。私も今はヒョウエの友人としてここにいるのだからな」

「セーナは気にしなすぎだよ・・・」

 

 お付きのティカーリが溜息をついた。

 

 

 

 その後、改めて自己紹介をしてみんなでお茶。

 精神年齢が近いせいか、カーラとミトリカはすぐに仲良くなった。

 今はヒョウエの膝の上にカーラ、その膝の上に子犬のクリプト。その更に上にミトリカがふんぞり返るという、親ガメ子ガメどころか孫ガメひ孫ガメのようなことになっている。

 

「尊い・・・」

「・・・ティカーリ?」

「な、何でもないよ? 何でもないからね?」

 

 物心ついたときから一緒の親友に胡乱げな眼を向けるセーナ。

 見てはいけないものを見てしまったような気がしている。

 おほん、と気を取り直して尊いタワーの土台・・・もといヒョウエに視線を向けた。

 

「しかし他の人族の国は何をしているのだ? 悪魔に対して動いたりはしないのか」

「まず大前提として悪魔に対して戦える人が少ないんですよ。人間は弱いんです。《加護》があるときの僕はおいておくとしても、モリィ達が人間の上澄みも上澄みの部類ですからね。

 彼女たちに匹敵するとなると、大国であるディテクを探しても十数人というところでしょう」

「むう」

 

 ヒョウエの言葉にセーナはかなり驚いたようだった。

 冒険者の等級で言うと現在の三人娘が純粋な戦闘力のみで言えば黒等級の中位から上位。

 エルフの基準で言えば「かなりの腕利き」くらいの認識である彼女らだが、人間の中ではヒョウエの言う通り人類トップクラスの精鋭と言っていい。

 

 レスタラ戦役前までの黒等級がディテク全土で11人。

 「星の騎士」たちという例外を除けば、ライタイムもほぼ同数。

 大陸最大級の人口を誇る両国でこれである。

 

 アグナムは例外的に同じく10人ほどの黒等級が存在すると言われているが、ダルクはカイヤンを含めて数人、ゲマイも同程度。

 他の中小国家は推して知るべしだ。

 小国同士であれば一人いるだけで軍事バランスが変わる、とさえ言われるのが黒等級なのである。

 逆に言えば最低でも緑等級下位、腕利きである黒等級相当も数人存在するズールーフのエルフ戦士達の援軍がどれほどありがたいかと言うことだ。

 

「ゲマイは現在魔道君主の一人が暗殺され、政治的な大混乱が起きているようです。

 アグナム、ライタイム、ダルク、その他の国にも悪魔が出没して社会不安が増大しているとか。こうなるとどこの国も下手に動けないでしょうね」

「クリスとやらの仕業か」

「でしょうね」

 

 悔しそうに拳を握るセーナに、ヒョウエが憂鬱な表情で頷いた。

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