毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
戦い終わって日が暮れて、山の寺院の鐘が鳴る。
鴉の弔歌が荒野に響き、罪ある愚者が
「まったくもう心配させて・・・! 心臓が口から飛び出すかと思ったわよ」
「だからダンジョンマスターである僕が現場に行く必要があったって言ってるじゃないですか」
「わかってるわよ。だからその程度で済ませて上げたんじゃない」
部屋で香草茶を喫する一同。
むっつり顔の姉に抗議する弟の頬は赤く染まっている。
腹立ちの収まらない姉に思いっきりつねられた跡だ。
心配してくれたのはわかるが、それはそれとして納得がいかない。
「理不尽じゃないですかねえ・・・」
「諦めなさい、女なんてそんなものよ」
「・・・」
理不尽の権化に断言されたヒョウエがちらりと見るのは三人娘。
モリィが目をそらし、リアスがこわばった笑みを浮かべ、カスミは無表情。
苦笑を浮かべるシロウ達や直立不動で決して目を合わせようとしないディグたちに視線を向けたあと、ヒョウエは大きな溜息をついた。
「まあ言いつけを守らないやんちゃな弟へのお仕置きはまた考えるとして」
「まだ残ってるんですか・・・?」
不服そうな弟の抗議は無視。
「問題はこのタイミングでダンジョンの暴走事件が起こったことよ。
まだ開いてから一年も経ってないけど、これまでは非常に安全な部類のダンジョンだったはずよね」
「少なくとも僕の知る限りでは。まあ開くなり攻略しちゃったんで、非制御状態でどうだったかはわからないけど」
ダンジョンは神の夢であると言われる。
神の力の意図しない現出が起こす現象だ。
なので、夢の種類や神の性格によっては内部のモンスターが外部に大挙侵攻してくる暴走現象が起こる場合がある。
通常ダンジョンを攻略してダンジョンコアを制御下に置いた場合、こうしたリスクは非常に低く抑えられる。
"
王都から近いこともあり、初心者から上級者まで入れる良ダンジョンとしてこの10ヶ月、高い収益を上げ続けていたのである。
なおその高い収益の三割を分配金として受け取れるヒョウエであるが、それでも借金を完済するには百年以上かかる。
「姫さん。このタイミングでってことは、これが紫野郎の仕組んだ可能性があるって事か?
ひょっとしてメットーやディテクの各地でも何か事件が増えているとかあるのか?」
「後方かく乱ですか。ありえますわね。カスミはどう思います?」
「十分有り得るかと」
三人娘の理解の早さに笑みを浮かべるカレン。
(リアスが話について行けているのは事が戦争関連だからだろうなあ)
アームジョーもといああ無情な感想を抱きつつ、考え込んでいたヒョウエが隣の姉に視線を向ける。
「十分有り得る事ですが・・・でも姉上はそうは考えてない?」
カレンが笑みを消して頷いた。こちらも考え込むような表情になっている。
「十分有り得る事だし、モリィの言う通りそうした事件も起きているのだけれど・・・何か違う気がするのよね。ダンジョンマスターとしてはどうなの?」
「何せ神代の真なる魔術師だから、ダンジョンを人為的に暴走させるくらいの芸はあっておかしくはないでしょう。
ただあれはダンジョンの暴走ではなくて、ダンジョンとは別の原因があると思うんですよね」
「ダンジョン・コアで制御が出来なかったという話ね」
頷く。
「まあクリス先生ならあの程度のモンスターを召喚して実体化させるのはちょちょいのちょいだろうけど・・・何か違和感があるんだよなあ」
「その違和感は恐らく正しい。化生ではあるが、あれらは異界の何かを召喚してかりそめの肉体に押し込めたたぐいのものではない」
発言したのはこれまで無言だったシロウ。金剛眼の一族の面々も揃って頷いている。視線が若き行者に集中した。
「間違いないのですか、シロウ様?」
「はい、姫様。我々金剛眼の一族はこの世の外から来た存在や霊体を相手取るのに長けた術師の集まりです。ゆえに実体があるかないかは見れば概ねわかります。
その上で断言しますが、あれらは霊的な存在ではなく、確固たる肉体を持った生物です。
むろん何らかの魔法的な手段で生み出されたり、別のダンジョンから生まれた存在であることを否定するものではありませんが」
「倒した後に魔力結晶が生成されてたよな。やっぱりダンジョンのモンスターだとは思うんだけどよ」
ヒョウエたちが治療を施して回っていた間に見た光景を思い出しつつモリィ。
「でもヒョウエ様のダンジョンのモンスターではない・・・奇妙ですわね」
「まあ色々と考えられることはありますが、現状では推測にしかなりませんね。またダンジョンを解放するわけにもいきませんし」
部屋の中、一斉に溜息が漏れた。
「簡単なことじゃ。そいつは別のダンジョンで生まれたモンスターなんじゃろう。
それも恐らくは世界でもっとも深く危険なダンジョンのな」
「あー、やっぱりですか・・・」
数日後、夫と共に王宮に戻ってきたメルボージャが正解を教えてくれた。
「つまり、世界のへそにそのでかいダンジョンがあると。"
初心者向けかと思えば、最深部では黒等級なみの実力が必要とされるあの奇妙なダンジョンを思い起こす。
ダンジョンで生成されるモンスターの力は概ねダンジョンそのものの力に比例するが、ダンジョン・コアを守るガーディアンは別として、それ以外のモンスター個々の実力にそう差異はないのが普通である。
いずれじっくり腰を据えて調べてみようと思っていたのだが、思わぬところから答えはもたらされた。
「偶然近くに生まれたのか、あるいは封印されたダンジョンの霊気が枝分かれして新しいダンジョンを作ったのかはわからぬが、恐らく底の方で繋がっておるのじゃろう」
「・・・ちょっと待って下さい。封印されたと言うことは、ひょっとしてそのもっとも深き迷宮はエコール魔道学院が存在していたころからあるんですか?」
メルボージャが無言で頷く。
「でもじゃあ、誰が生み出したんですか? ダンジョンというのは神の夢ですよね?
〈百神〉が存在しない頃から存在していたというのは・・・創造の八神ですか?」
老婆が今度は首を振った。
「わしらはそのダンジョンを黄金の迷宮・・・もしくは竜の迷宮と呼んでおった。当時はダンジョンという概念もなかったがな」
「黄金・・・竜の迷宮・・・まさか」
「そうじゃ。あれはな、世界を形作った原初の竜、黄金鱗の虹竜の夢が生み出したダンジョンなのじゃよ」