毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-07 当主代行

 カスミに案内されて屋敷の奥まった一室に向かう。

 ノックの後、思ったよりしっかりした声で返事が返ってきた。

 

「それでは失礼致します、ご隠居様」

 

 一礼して入室する。

 顔を上げると、ベッドの上に上半身を起こした老人がいた。

 髪やひげが真っ白く染まった今でも、肩には昔日のたくましさが見て取れる。

 眉の下から、これは衰えていない眼光がヒョウエを貫いていた。

 

「カスミ、外してくれ」

「かしこまりました。それでは失礼致します」

 

 一礼してカスミが退出する。

 部屋の中、老人とヒョウエが一対一で対峙した。

 

「さて。わしは先代ダーシャ伯爵シンゲン・デカッツ・ニシカワ。君は――ヒョウエくんとお呼びすればよろしいのかな」

「今はただの術師ヒョウエです。どうぞそうお呼びください、ご隠居様」

 

 ポーカーフェイスのヒョウエ。頷くシンゲン。

 ヒョウエが何者なのか、何があったのか――余計な事はどちらも口にしない。

 

「それで御用とは何でしょう?」

「うむ。リアスの事だ――何があったかはカスミから聞いたな?」

「はい」

 

 シンゲンが深く溜息をついた。

 

「リアスは宝だった。ニシカワの歴史をひもといてもそうはいない才能の持ち主だ。

 だが、あの日よりリアスは白甲冑を使えなくなった。このままではあの才能は世に出ないまま埋もれることになるだろう。それはニシカワの家のためにも、リアスのためにもなるまい」

「お嬢様は何か強い加護をお持ちなので」

「《剣の加護》だ。それもとびきりのな。極めれば天を裂き地を割ることもできよう――まあ、身内の欲目かもしれんがな」

 

 《剣の加護》。

 俗にそう呼ばれるそれは、弱いものであれば単に剣の才能をそこそこ増してくれる程度だが、磨き抜いて極めれば剣技と言うに留まらない超常の技を会得すると言われる。

 飛ぶ斬撃。岩を豆腐の如く切り刻む斬岩。実体のない霊体をも斬る水月の太刀。

 伝説に謳われる最初の冒険者族、始祖のサムライに至っては、刀の一振りで海を割ったとも伝わる。

 

 身内の欲目とは言うが彼も武門の、それも代々剣の達人を輩出する家の当主だ。その彼がここまで言うのだから、実際にリアスの才能と《加護》は並外れているのだろう。

 老人がすっと頭を下げる。

 

「だからこそそれを全力で発揮しうる場を与えてやりたいのだ。

 術師ヒョウエ、祖父として頼む。あれを助けてやってくれ」

「頭をお上げください、ご隠居様。元より、僕はそのためにここに来ました。

 まあ、魔導技師としての仕事からは外れてしまうかもしれませんが――依頼された仕事から多少外れてはいても、結果が良くてみんなが幸せになるならそれでよろしいのではないでしょうか?」

 

 にっこり笑うヒョウエに、顔を上げたシンゲンもまた笑みを浮かべる。

 

「いやいや、そんな事はないとも。君はあくまでも不調な白の甲冑を調整してリアスにそれを着けさせただけ。君は魔導技師なのだからそれ以外の事をするはずがない。

 ローレンスが痛い目を見ようとも、リアスを廃嫡しようなどと企む馬鹿どもが災難に遭っても、それは不幸な偶然だし君には関係ない事だ。

 何があってもわしが保証しよう、術師ヒョウエ」

「僕はそこまで言ってませんよ!?」

 

 思わずヒョウエが突っ込んだ。

 一見すると好々爺の笑みだが、言ってる事は実に腹黒い。

 

(これだから貴族って奴は・・・)

 

 渡っていくのにそういうあれこれが必要な社会だというのはわかるが、どうにもなじめないヒョウエである。

 もっともそういう性格でなければ、市井で魔道具屋の手伝いやらをして暮らすことはなかっただろう。

 

「いやなに、もちろん君がそんなことをしない人間だというのはわかっているとも。

 ただ、不幸な偶然というのはどこにでも転がっていると、そういうことだ」

 

 いかにも老武人然とした風貌に好々爺の笑みを浮かべて、それでいてひどくえげつないことを口にする老人。

 ヒョウエが諦めの溜息をついた。

 

「・・・最大の問題はお嬢様の心にあります。こればかりは時間が解決してくれるのを待つか、強烈なショックを与えるかしかありませんが、後者はリスクも伴いますからね。

 いずれは克服できると思いますから、取りあえず当座を凌いでその後事実を外面に追いつかせるとしましょう。

 戦があるわけでなし、継承の儀を乗り切れば時間はあるのでしょう?」

 

 まあな、とシンゲンがひげをしごく。

 

「大ごとにしないで済むならそれに越したことはないが・・・リアスは心の傷を克服できると思うかね」

「それに関しては専門外ですよ。どうしてもというなら心の神(ウィージャ)の神官医にでも訊いてください。むしろご家族であるご隠居様やカスミさんのほうがよくご存じでは」

 

 肩をすくめるヒョウエにシンゲンが苦笑した。

 

「それを言われてはな。まああれは強い子だ。わしも信じるとしようか。それで、具体的な策はあるのかね」

「はい。まず継承の儀で使う(かなえ)についてお聞きしたいのですが・・・」

 

 

 

 それから継承の儀までの間、リアスは手すきの時間をヒョウエの作業室に籠もって過ごすことになった。

 その間カーテンは閉め切られ、扉の前にはカスミが陣取る。

 魔法的な手段もヒョウエに察知妨害されるため、ローレンス派のものたちをかなり焦らせる事になったようである。

 

「ヒョウエ様、今日は何かありましたか?」

「カーテンの隙間から魔力の波動が何度か。兄弟子から借りた解呪の魔道具で何度か追い払ってやったら途切れましたけど」

「多分、覗き見の術だと思います。言ってみれば望遠鏡と鏡を組み合わせたような」

「でしょうね。光系統の術なのは何となくわかりますよ。僅かな隙間から光を何度も屈折させて中を見る術式かな? 間諜(スパイ)がそう言う術を使うって聞いたことがあります」

 

 ヒョウエとカスミの二人が専門的な話をしている横で、リアスは静かに香草茶を口にしていた。

 話に混ざれないのが寂しいのか、心なしか肩がすすけている。

 

「・・・カスミも随分ヒョウエさんと仲良くなったのね・・・」

「お嬢様!? いえ、これは仕事上必要な・・・」

 

 リアスの恨みがましげな視線にあたふたするカスミ。

 こちらも静かに茶をすすり、ヒョウエが苦笑する。

 

「カスミ、ちょっとこっちに来なさい」

「え、しかしヒョウエ様が・・・」

「いいから」

「はい」

 

 溜息をつき、観念したようにリアスに歩み寄る。

 ヒョウエがなんだなんだと思っているとリアスはカスミを抱き上げ、膝の上に載せた。

 そのまま後ろから抱きしめて頭をなで始める。カスミの匂いを嗅いでいるようにも見えた。

 

 カスミも困り顔はしているが嫌がってはいない。

 ヒョウエと目が合うと少し恥ずかしそうに笑った。




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