毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「そう言えば、アルテナくんは世界と世界の間を移動できるんじゃなかったっけ?
その力でどうにか突破できないのかい?」
広い洞窟を降りている途中、ふとサフィアがそんなことを言い出した。
「ふんっ」
これだからもののわかっておらぬ人間は、とでも言いたげにアルテナが鼻を鳴らし、ヒョウエが苦笑しながら頭を撫でてやった。
「探知魔法が効かない理由と同じですよ。魔力の霧が濃すぎるんです。やろうと思えば勿論やれますけど、目を閉じてジャンプするようなことになってしまいますね」
「なるほどなあ」
溜息と共にサフィアが口を閉じ、それからしばらく沈黙が続いた。
ヒョウエのともす明かりの中、気持ち程度の忍び足で三人が歩く。
"探偵"の仮面をかぶるサフィアはもちろん忍び足の玄人だし、ヒョウエも心得はある。アルテナも意外に様になっていた。
「!」
サフィアの体に緊張が走る。僅かに遅れてヒョウエとアルテナもそれに続いた。
「ええとこの先は・・・」
「二又になってます。4-27に通じる通路がいいかと思いますが!」
「よしそれで!」
短く言葉を交わしてサフィアとヒョウエが走り出す。
間に挟まれたアルテナも無言でそれに続いた。
僅かに間を置いて重い震動がこのパーティを追いかけて来た。
それはあっという間に距離を詰め、闇の奥から聞こえる重い足音からぼんやりとした影になり、更にヒョウエの明かりの中に明白な姿を現す。
「
咆哮が轟く。
明かりの中に見えた人間の十倍ほどの巨躯は、確かにヒョウエの前世で史上最強の肉食恐竜と呼ばれたそれに酷似していた。
「ティラノサウルス!? なんだいそれ!」
「ニホンというか向こうの世界にいた巨大なトカゲですよ! 六千万年くらい前に絶滅しましたけどね!」
「なんじゃ、軟弱じゃのう。竜の風上にもおけんわ!」
「直径10キロの岩が天から降ってきたらそうも言ってられないんじゃないかな!」
会話を打ち消すように咆哮が轟いた。
"
もっとも、その余裕も3秒後には消失した。
(あ、やばい)
ティラノサウルス型亜竜――もっとも、サイズは本物のティラノサウルスの1.5倍くらいはあるが――の牙がガチガチと打ち合わされ、火花が散る。
ヒョウエの背筋に戦慄が走るのと、暴君竜が大きく息を吸い込むのが同時。
「"
咄嗟に杖を地面に突いて術を発動するのと、竜の口から着火された高濃度の可燃性ガスが吐き出されるのが同時。
ヒョウエたちを焼き尽くすかに見えた火炎は、一瞬早く屹立した岩壁に遮られた。
次の瞬間、地面が震動した。洞窟を天井まで塞いだ岩壁に、亜竜の巨体が激突したのだろう。
「ふう、助かった」
三人が足を止めて大きく息をつく。
緑等級から黒等級の超人的冒険者と、未熟とは言え真龍の化身であるアルテナだが、それでも走り詰めは流石に疲れる。何とか息を整えようとして、再び岩壁に衝撃が走った。
「・・・」
ヒョウエのこめかみに冷や汗が浮かび、身を翻して走り始める。
「逃げますよ!」
「え、あ、わかった!」
「うむ!」
あっけにとられながらも、サフィアとアルテナがその後に続く。
次の瞬間、三度目の衝撃が響いたかと思うと岩壁を突き破って暴君竜が姿を現した。
「・・・!」
ものも言わずに速度を上げるヒョウエたち。
追いかけっこが再開された。
怒りの咆哮が轟く。
緑等級以上の身体能力を誇る上で"
走りながら術を構築して追いつかれては岩壁、追いつかれては岩壁の繰り返し。
走りながらサフィアが叫ぶ。その息が流石に荒い。
「ああもう、モンスターと戦ってる暇なんかないのに! ヒョウエくん、
「ダイヤモンドは燃えますから、下手すると一瞬も足止めできずに追いつかれますよ!
後"
「役に立たんやつじゃのう。オリジナル冒険者なら《加護》が無くなっても『ちしきちーと』とやらでどうにかならんのか」
「心に刺さる提言ありがとうございます。ダイヤモンドはわかりやすいんだけど、ロンズデーライトの分子構造とか覚えておけばよかったなあ・・・!」
どこで覚えたのか、変な言葉を振り回してくるアルテナに苦笑。
ロンズデーライト。ダイヤモンドと同じ炭素同位体だが分子結合の形状が違う。
「硬度10#」などとも言われるが硬度は約6割増。ダイヤと違って衝撃にも強く、高熱で生成されるので火炎にも多少は強い(はず)。
「六方晶ダイヤモンド」という単語は覚えているので実験を繰り返せば再現できたかも知れないが、目の前の白亜紀の生き残りが悠長に待ってくれるとも思えない。
「大体ロンズデーライトでも、"
何かに気付いた顔になったヒョウエが、走りながら術の構成を編み始める。サフィアも構成からして先ほどまでと同じ"
そして追いつかれかけたところに再び壁が立つ。
衝撃。また衝撃。そして更に衝撃。
「・・・?」
走りながら後ろを振り向く。
今までなら三回ほどで崩壊していた壁は、まだヒビも入っていなかった。
「少しペースを落としていいですよ。あれはそう簡単には壊せません」
全力疾走を小走り程度に落とし、それでも距離を稼ぎながら会話を交わす。
「今度の壁は何をやったんだい? 先ほどまでに比べてかなり奥行きが広い・・・でもそれだけじゃないよね。壁が生成されるときに、中がスポンジケーキみたいに穴だらけだったように見えるけど」
「おや」
ヒョウエが目を丸くする。
「あの一瞬でよくそこまで見て取れましたね。さすが
「お褒めにあずかり恐悦至極。観察力は探偵の基本だからね。それで、何が違うんだい? 中が隙間だらけなら、軽石みたいに砕かれそうなものだけど」
ヒョウエがニヤッと笑ってちょっと得意げに語り出す。
「そこがオリジナル冒険者族の知識チートってやつでして。
あれは単なる空洞じゃないんですよ。六角形を無数に組み合わせた小さな壁を中に並べて強度を高めているんです。もっと正確に言えば六角形の層と薄板の層を何十層も重ねてるみたいな」
「六角形・・・蜂の巣みたいな?」
「まさに。僕の世界ではあれを"
加えて中空がありますから、その分壁自体の厚みを増すことが出来ます。二重に強度が上がってるわけですね」
「なるほどねー」
「ほほう。よくわからんが凄いのじゃな。ほめてつかわす」
サフィアは素直に感心し、アルテナが無駄にえらそうに頷く。
「ハイハイありがとうございますアルテナ様」
くすくすと笑ってそれを流すヒョウエ。
後ろの地響きは、いつの間にか聞こえなくなっていた。