毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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10-39 クリスの真意

 黄金の迷宮に続く空洞からの数百メートル。

 それを全力で駆け抜けたヒョウエたちの目の前に広がっていたのは、生物とも物体ともつかぬ異形の触手のようなものにびっしりと覆われた水晶の間だった。

 その中央にそびえる"祭壇の長子"にして"残りし者"セレスソレパルの肉体を封じた水晶柱にもそれはまとわりつき、中のセレスの姿を半ば覆い隠してしまっていた。

 

「・・・ほんっと、使えないわネ、ル・ユフルもウィナーも! まあそのヘンはヒョウエくんと星の騎士が大したものダッタってことなんだろうケド!」

 

 浮遊する台座に乗ったダー・シ――かつての真なる魔術師、クリス・モンテヴィオラがふいごのような溜息をついて首を振った。

 部屋を覆い尽くした異形の触手にルーン文字が浮かぶ。水晶柱とその傍らに浮かぶクリスを中心として文字が点滅し、あたかも大広間中のエネルギーがこの両者に送られているかのような錯覚を与えていた。

 いや、恐らくは実際そうなのだろう。

 魔力を感知できる面々、どころかそちらの心得のないリアスでさえ、二人に強大な魔力が集まっているのがわかる。

 

「・・・」

 

 水晶の柱の中で沈黙する白い魔女。

 元よりその肉体は微動だにしないが、その思念の波は今全く感じられない。

 

「クリスだったか。うちの嫁をどうした」

「イヤですわァ、旦那さん。敬愛する姉サマにワタクシが手を出すわけないじゃアリマセンの。ご協力頂いた後はもちろんアナタの元にお返ししますワッ!」

「・・・」

 

 ケタケタと笑うクリスをサーベージがにらむ。その視線にまだ殺気は込められていない。まだ。

 代わって口を開いたのはヒョウエ。

 

「クリス先生。よろしいでしょうか?」

「アラやだ、まだ先生って呼んでくれるノ? 嬉しいワァ」

 

 揉み手をしてもじもじと身をくねらせる肉の塊。

 全身のぜい肉がぶるぶると震えて不気味なことこの上ないが、ヒョウエは動じない。

 

「質問したいことがありますので、相手に敬意を払うのは当然のことかと」

「うんうん、ホントあなたイイ子ネッ! ドンと来なさい、何でも答えちゃうワッ!」

 

 満面の笑みで笑うクリス。この時だけはヒョウエも笑みを浮かべて頷いた。

 

「それではお言葉に甘えまして――先生の目的はなんなんですか?」

 

 沈黙と緊張が降りた。

 今となってはさほど意味のないように思える、しかし何か深刻な結果をもたらすであろう質問。

 理由は判らないが、全員がそれを感じ取っている。

 

「悪魔王の召喚、世界の破壊、悪魔と手を組んでの世界の支配――どれもありそうではあるんですがぴんと来ないんですよ。どれもこれもおよそクリス先生らしくない」

「・・・続ケテ」

 

 笑みのままクリスが促す。ヒョウエも真剣な表情。

 

「もちろんこの世界の外に落ちて何があったかはわかりませんから、昔のクリス先生とはまるで違ったりするのかも知れませんけど。悪魔と契約して心が歪んだり、拷問を受けて傷ついたり、あるいは洗脳されたりしてるのかもしれません。

 ただ――」

「たダ?」

「芯のところは変わってないように思えるんです。

 今の騒動も、本質的にはクリス・モンテヴィオラという人物が元から持っていた危うさが原因であって、悪魔によって変質したそれではない――であれば、あなたの目的は何なのか。

 それが全く読めないんですよ。なのでそれをご教授頂きたく」

「・・・」

 

 バシ、バシ、バシと、象が足を踏みならすような音が水晶の間に響いた。

 ぽっちゃりした豚足のような肉の塊。

 クリスの両手が打ち合わされる音。

 

「オ見事。そこまで読まれるとハ、シャッポを脱いじゃうワ」

 

 今の彼にも似合わぬ、静かな称賛。

 ヒョウエが軽く一礼した。

 

「あなたタチはワタシが世界の破滅でも企んでると思ってるンだろうナアと思ってたワ。

 姉様ですら、その疑いを捨て切れてなかったシ。

 ソウね、その慧眼に免じて教えてアゲましょう」

 

 そこでクリスは一度言葉を切った。

 深く息を吸い、心の内の何かを吐き出すかのようにゆっくりと吐く。

 その目は宙をさまよい、遠くを見ている。

 

「ワタシはね、神になりたいノヨ。

 イエ、少し違うワネ。

 神にナルのは単ナル手段。

 ワタシは――エコール魔道学院に帰りたいノ」

「あ――」

 

 その瞬間、すとんと腑に落ちた気がした。

 クリス・モンテヴィオラという人間とダー・シ・シャディー・クレモントと名を変えた彼の行動との間にあるギャップ。

 それが全て一本の線で繋がったように思えたのだ。

 

「ワタシが地上に戻ったとき、もう学院は存在しなかった。兄弟たちも地上にいなかった。

 スィーリと議論がシタイ。

 ボルドゥと馬鹿な話をして笑いタイ。

 ボルギアとクーリエの関係をからかって二人を赤面させタイ。 

 ウィージャやアウレリエンとお茶がしタイ。

 無茶な実験に失敗して姉様とお師匠様に叱らレタイ。

 あの頃に戻りたいノヨ」

「だから神になって天上に」

「エエ。姉様も一緒にネ」

 

 その言葉に、サーベージが再び眼を細めた。

 

「オイてめえ。さっきセレスは俺のところに戻すと言ってなかったか?

 それとも俺の耳が遠くなっちまったか?」

 

 剣呑な表情になるサーベージ。

 ボハボハ、とクリスが調子を取り戻して笑った。

 

「やーネエ、話は最後まで聞いてヨッ!

 今だって姉様の本体はこの"ヨルニムの水晶棺"から出てこれないわけでショ?

 ダカラこの水晶棺を媒介にして、天上と地上の水晶棺と、両方に存在するようにスレばイイノヨッ! ソウすればそちらの化身(アヴァター)も姉様本体とのリンクを回復シテ、再び姉様そのものになるんだカラッ!」

「・・・なるほどのう、そう来たか」

「???」

 

 納得するメルボージャ、眉を寄せて考え込むサーベージ。

 

「おいババァ、どういう事だ? こいつ俺をだまくらかそうとしてる訳じゃないのか?」

「少なくとも筋は通っておるの。つまり天上にいるわしも、水晶の中にいるわしも、両方わしの本体になるということじゃ」

「・・・」

 

 やはり理解が追いつかないのか、必死で頭を回転させるサーベージ。

 ヒョウエが助け船を出す。

 

「言い換えればどっちにでもいて、どっちにもいないと言うことですよ。

 仏は欲界にも色界にも無色界にもいて、かつどこにもいない。どこの国にでもいるし、どこの国にもいない。如来法身の偏在と言ったはずですが、記憶にありませんか」

「え・・・あー・・・沢庵和尚からそう言えば聞いたような気がするなあ・・・つまりあれか、うちの嫁さんを無理くり仏様にしようってことか?」

「まあ大体そんな所です」

 

 四千年以上前の記憶を何とか引っ張り出すサーベージ。ヒョウエが頷いてみせる。

 

「どうカシラ。旦那さんとセレス姉様との関係で言えバ、現在と変わらないと思うのダケレド」

「・・・セレスの体なり心なりに悪影響はないのか」

「神にナルと言っても精神に変質はないワ。地上との交信がしにくくナルこと、力を振るいにくくナルことはあるケド、今言った手段を併用すれば、ソコはクリアできるはずヨ。

 ムシロ今のママの方が姉様のお体が危ういワ。ワタシみたいに禁呪を使って肉体を作り替えてルならともかく、いくら姉様でも肉体は人間ヨ。永遠に保持する事なんてできないワ。

 姉様が地上を守るために力を維持しようとするなら、現状これがベストなのヨ」

 

 ちらりと振り向くと、メルボージャが黙って頷いた。

 少なくともこの件では誠意を持って解答しているらしいと理解し、老剣士が黙りこむ。

 彼の立場からでは反対する理由が思いつかない。

 

「・・・セレスの意志はどうなるんだよ」

「姉様は多分首を縦にお振りにはならないでしょうネ。

 でもこのままだと、姉様は確実に千年以内に消滅スル。肉体だけじゃなくてそれを補うために魂に負荷がかかりすぎてるノ。

 ダカラこの件では姉様の意志を問うつもりはないワ。旦那さんはどう思われますノ」

「俺は・・・」

「僕は認めません」

「!?」

 

 サーベージの言葉にかぶせられるヒョウエの断言。

 視線が一斉に集中した。

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