毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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10-40 認めない理由、認められない理由

「・・・認めないというのはどういうことカシラ? 姉様の意志が優先されると言うコト?」

「いいえ」

 

 ヒョウエが首を振る。

 

「ではナゼ?」

「失敗するからですよ。もしくは世界が破滅するからです」

「・・・!?!?」

 

 クリスが目を白黒させる。

 メルボージャを含めて、その場の全員が理解しがたいという顔をしていた。

 

「口から出任せ・・・という顔でもないワネ。どういう事カシラ?」

「そのことですが・・・メルボージャ師匠。あなたはオリジナルであるセレス先生の知識を全て持っていますか?」

 

 無言でメルボージャが首を横に振る。

 

化身(アヴァター)は極めて本人に近い分身じゃが、それでも全く同じとはゆかぬ。

 術力や精神力、知力や知識も完全ではあり得ない。同じなのは人格だけじゃ」

「ですよね」

 

 じれたのか、モリィがヒョウエを突っついた。

 

「・・・どういうことだよ、おい?」

「セレス先生と僕が知っていて、クリス先生とメルボージャ師匠が知らないことがある、ということですよ。

 クリス先生もメルボージャ師匠も、幻夢界に直接立ち入ったことはありませんよね?」

「エエまあソウね。あの時昔の姿でアナタたちの前に現れたのもワタシ本人じゃないシ」

「本体ならまだしもこの身ではな」

 

 クリスとメルボージャが揃ってうなずいた。

 メルボージャが頷いた後少し首をかしげる。

 

「・・・む? 幻夢界・・・何か引っかかるものがあるの」

「あ、何となく覚えてはいるんですね」

「あるいは、分身(わし)にはあえてその知識を与えなかった可能性もあるか?」

「ありえるかもしれません。恐らくは極めて危険な知識です」

「ソレで? 結局、どういうコトなのカシラ?」

 

 耐えかねたのかクリスが口を挟んだ。

 その口調に籠もっているのは自分の計画を否定されたいらだちと、隠せない知的好奇心とが半々ほど。

 

(・・・)

 

 この期に及んでも学究を捨てきれないクリス。同類的親しみを感じて僅かに頬をゆるめ、次の瞬間に引き締める。今からヒョウエは、彼に残酷なことを言わなくてはならない。

 

「地上界からではわからないけど、気付いてしまえば簡単な話です。まず地上界からは、肉体を持ったまま幻夢界には赴けません」

「ソレはモチロン」

「だからあの時お主に様子を見て貰いに行ったんじゃからのう。この身(アヴァター)は人間に比べると本質的にもろいからの。魂だけ分離しようとすれば肉体まで崩壊する恐れがある」

 

 二人の真なる魔術師の反応に頷いて続きを口にする。

 

「ふたつめ。神々は肉の体を持ちません。ゆえに直接地上界に赴けません」

「そうじゃの。そうでなければ天上界でこの世界全体に力を及ぼすことはできぬ」

「僕もそう習いましたし、そう思ってました。でもちょっと違ったんです」

「どういうことヨ?」

 

 二人のみならず、その場にいる全員をぐるりと見渡す。

 

「神には神の、天上界に適した肉体があるんです。もちろん地上の、肉の体とは違いますけど霊体ではなく独自の肉体をまとっています。九十九の真なる魔術師たちが天に昇るとき、僕はそれを見たんですよ。

 そしてその肉体を纏ったままでは神々と言えども幻夢界を越えられません。

 幻夢界は地上界と天上界の緩衝地帯であると同時に、二つが混ざらないように遮る障壁でもあるんです。

 シチューを煮ていると、シチューの上に油の膜が出来ることがあるでしょう?

 油の膜が天上界、濁ったシチューが物質の体を持つ地上界です」

「あー、なるほど」

 

 何人かがうんうんと頷く。

 

「まあ、料理をしない人にはわかりづらいたとえかも知れませんが・・・師匠?」

 

 頷いているのはサーベージ、カスミ、ティカーリ、サフィア。

 モリィとリアスとセーナ、ミトリカとアルテナは無言のまま。

 そして弟子に問われたメルボージャが無言で目をそらす。

 

「あー無理無理。このババァ料理は鬼門だからな。俺の方がよほどうめえよ」

「このクソジジイ! 何をバラしとんのじゃ!」

 

 メルボージャが夫に詰め寄るが、そこにクリスのボハボハした笑い声が響く。

 

「なぁンだ、まだ直ってませんでしたのね、その料理下手! あの根気強い後の食神(バーテラ)が絶望的な顔でサジを投げてたのを思い出しますワッ! 何もかも完璧だった姉サマのたった一つのかわいらしい欠点じゃアリマセンノ?」

「貴様ぁ・・・」

「アァん、ステキ。その視線うずいチャウ!」

 

 殺気の籠もったメルボージャの視線を受けて、頬を赤らめてくねくねと身をよじるぜい肉の塊(クリス)

 バチン、と象も殺せそうなウィンク。

 

「・・・マ、実を言うとワタシも姉様よりは料理ウマいんだけどネ?」

「本気でブッ殺されたいらしいのう、この肉達磨が!?」

 

 完全にブチ切れたらしいメルボージャ。キャハハハハと笑うクリス。

 ぱんぱん、とヒョウエが手を打った。

 

「ハイハイその辺で。話を元に戻しますよ」

「ハーイ」

「ちっ・・・・」

 

 楽しそうに笑うクリスとヒョウエをにらむメルボージャ。もはやどちらが敵か味方かわからない。

 

「ソレでヒョウエくん? 話がどう繋がるかわからないんダケド」

「ですから」

 

 少しじれたようにヒョウエが言った。

 その視界の端で、メルボージャがハッとした顔になる。

 

「師匠はおわかりになったようですね。

 単純な話、肉の体のままだろうが神になろうが霊体になろうが、地上界からでは天上界に行けないんですよ。地上界から幻夢界に、天上界から幻夢界には赴けますが、そのまま通り抜けることは出来ないんです」

「!? で、デモ兄弟たちハ・・・」

「推測になりますが・・・かつての真なる魔術師たちが天に昇れた理由は簡単ですよ。

 そのタイミングで世界が作り替えられたからです」

 

 あっ、と誰かが叫んだ。

 

「そう、彼らが神になったその瞬間、まさしく創造の八神の手によって世界は作り替えられたんです。

 地上界が再構成され、新たに天上界が作られ、地上界との間に幻夢界が置かれました。

 〈百神〉――かつての真なる魔術師たちは幻夢界を通り抜けていない。

 その時にはまだ幻夢界がなかったんです。

 今幻夢界を無理矢理通り抜けて天上界に行こうとすれば、幻夢界という袋が破れて中身が地上界と天上界にぶちまけられる。その影響がどれほどのものかはわかりませんが、少なくとも神のような巨大な霊体が通り抜けた穴がそうやすやすと塞げるとは思えません。

 その影響はこの前の"舞台(アリーナ)"事件の比じゃない。

 下手をすれば異世界の法則にさらされた地上がグチャグチャの混沌になって、悪魔の草刈り場になるかも知れません。むしろそれを期待してクリス先生に協力しているのかも」

「・・・。・・・・・。・・・・・・」

 

 こひゅー、こひゅーとクリスは過呼吸状態に陥っていた。

 あるいはよほどのショックであったのかも知れない。

 

「・・・クリス先生?」

 

 見かねたヒョウエが声をかけると、クリスは彼をきっ、と睨んだ。

 

「今までのことは全て推論に過ぎないワ。実験をする必要はあるだろうケド、ワタシの目的は変わらない。いえ、変えられない」

「クリス先生ならわかるでしょう! 確かに仮説と推論を重ねた話ですが、蓋然性は高い! 強行したらどうなるか――!」

「黙レ小僧!」

「っ!」

 

 凶暴な顔でクリスが吼えた。口が耳まで裂けている。

 

「六千年! 六千年待ったノヨッ! それを、ソレをこんなコトで諦められるワケないでショッ! ワタシは姉様と天に昇る! 誰にも邪魔させはしないワッ!」

 

 黒い光が爆発する。

 爆発した後にクリスの姿はなく、騎士甲冑を身にまとった一人の人物が立っていた。

 

 無明の闇のような漆黒の鎧。

 不吉な未来を暗示する暗い紫のマント。

 兜の両脇から映えた禍々しい角。爪の如く尖った両手の指。体中に生えた(スパイク)

 

 葬送曲が奏でられた。

 少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。

 

 奏でるものなどいなくとも。

 そこがたとえ荒野のただ中であっても。

 死神は、葬送曲と共に現れるのだ。

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