毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
黒き鎧。
地底の大空洞に現れたそれは、それ自体漆黒のオーラを纏うかのように錯覚させる。
空洞をびっしりと覆う触手のようなものが放つルーンの光。
そのほのかな光に照らし上げられてなお、その周囲には闇がわだかまっているように見えた。
「降伏を勧めるワヨ。この鎧には既にヒョウエくんから貰った"
ワタシの魔力を合わせれば、かつての青い鎧を凌ぐ力が出せるってことヨ・・・うん?」
ちらり、と全員が視線を交わす。
「では頼むぞ、ヒョウエ」
「ったく、師匠を働かせやがってとんでもねえ弟子どもだ」
「この後で僕が一番働くんだからいいじゃないですか」
その様な軽口を交わしつつ、メルボージャとサーベージが前に出てくる。
いつの間に抜刀したのか、クリスも気付かぬうちにサーベージの右手には冷え冷えと輝く日本刀が握られていた。
「・・・チョット? 姉様? 旦那サン?」
いぶかしげに問いかける黒い鎧の視界の端で、ヒョウエたちが後ろに下がっていく。
ふぇっふぇっふぇ、とメルボージャが笑った。
「確かに小僧の鎧も"チイト"も桁外れに強力じゃ。真なる魔術師のお前が使えば素晴らしい威力を発揮するじゃろうな」
「・・・?」
「じゃが自分でも思わなかったのか? それだけ素晴らしいものなら、水晶の心臓はともかく青い鎧をなぜそのまま流用した?
真なる魔術師たるお前なら、それを越えるものを自分で作れたとは思わないのかの?」
「・・・!」
黒い鎧が絶句した。
青い鎧、水晶の心臓、龍脈の魔力、真なる魔術師の力。
それだけのものを揃えて、伝説の剣士や真なる魔術師の長女すら凌駕する力を得たはずのクリスが、姉弟子の問いに答えられない。
「答えは一つ。ヒョウエの小僧めの術式構築力が、真なる魔術師である我らをも越えているからじゃ。その様な不格好な改造しか出来ぬお前と違い、あれをほぼ独力で組み上げた奴は――それを応用することも出来る」
「!」
ハッと視線を移す。
メルボージャ達の後ろ10mほどに下がったヒョウエたち。
ヒョウエの目の前に具現化しているのはまさしくオリジナルの「青い鎧」。
それがまるで折りたたまれるかのように手足の先からへこみ、組み替えられて縮んでいく。
「しまっ・・・」
「させねえよ!」
火花が散る。目にも止まらぬ速度でヒョウエたちに迫ろうとした黒い鎧を、サーベージの刀が切り払った。
「!?」
二重の驚愕。
自分の速度についてきた、自分の攻撃を弾いて後退させた。
「いくら姉様の支援があるとは言え、今のワタシに・・・!」
「舐めるなよ、シャバ僧」
満面の笑みのサーベージ。
「達人というのはそういうもんだ!」
再び火花。黒い鎧の閃光の拳を閃光の鋼が打ち落とす。
「このジジイ!」
「それを言うならおめえは俺以上のジジイだろ!」
目に止まらぬ連続攻撃を目に止まらぬ刀さばきが全て叩き落としていく。
舞い散る無数の火花はもはや火花ではなく、花火の大玉であるかのように巨大な火の玉となっていた。
「くっ・・・たかが剣士風情ガ!」
「そう思うなら実行してみろよ、魔術師さん」
再び満面の笑みのサーベージ。だがそこに隠しようもなく匂い立つのは獣の如き剣気。
「てめぇの拳なぞ、俺の柳生新陰流が全て叩き落としてくれらぁ!」
拳撃と剣戟の火花が地下の空洞に太陽を作っているその影で、ヒョウエの作業は続く。
中空に浮いた青い騎士甲冑が「折りたたまれ」、ついには握り拳ほどの大きさの、透き通った青い塊になる。
「モリィ! リアス! カスミ! セーナ! ミトリカ! アルテナ! お願いします!」
ヒョウエが両手を掲げるとともに、青い鎧だった塊は彼の頭上に輝く。
モリィが雷光銃を構え、リアス、カスミ、セーナ、ミトリカ、アルテナがリーザを介して会話するための銀の護符を持ち上げた。
「
ヒョウエがコマンドワードを叫ぶと銀の護符が一斉に発光し、その光が雷光銃に吸い込まれていく。
良く見ればモリィの護符も光っており、またいつのまにかサフィアとティカーリがモリィの脇に並び、雷光銃にそっと手を添えていた。
雷光銃がチャージを開始する。だが銃口に浮かぶ雷球の輝きは、常のそれの比ではない。
「へへっ、すげえや・・・こんなん撃ったら、どうなるかわからねえぜ!」
冷や汗を浮かべながらモリィが笑う。
ヒョウエとメルボージャの秘策、それこそが"
天然の魔力の大規模生成器官であり術式演算装置である"
単に強力な強化具現化術式と言うに留まらず、魔力強化装置であり、魔力のキャパシタである青い鎧であれば、それを再現することは不可能ではない。
製作者ならではの理解で構造を組み替え、水晶の心臓の代用となるような具現化術式に再構成する。青い鎧という具現化術式にはそれだけのキャパシティがあった。
ただしそれだけでは足りない。
魔力を生み出す「生きた」器官となるためには魔力による衝撃を与える必要がある。
膨大な魔力を注ぎ込み、具現化術式に「火を入れる」のだ。
それゆえに雷光銃と銀の護符に簡単な改造を施し、護符を介して雷光銃に彼女らの魔力を注ぎ込む。
凝縮された魔力ビームが生み出す新たな水晶の心臓をヒョウエの胸に埋め込んで、メルボージャ達が埋め込んだ魔造心臓と接続すれば青い鎧復活というわけだ。
だが。
「くふ。くふふふふっ!」
「何がおかしい」
拳撃を中断して後退した黒い鎧の含み笑い。
いぶかしげな顔のサーベージに、更に笑いがこみ上げる。
その後ろでは厳しい顔のメルボージャとヒョウエ。
「残念でしたワネッ、姉様! 多少組み替えたとは言え、その規模の具現化術式に火を入れるには少ォォォ~~~し、魔力が足りませんワッ!
それとも姉様が魔力を融通しマス? 姉様の支援抜きでは、流石に旦那様が持ちこたえられないでしょうケドッ!」
「くっ・・・」
地上。
司令部のカレンの胸元で銀の護符が光っている。
姉は弟を想い、それを服の上からそっと握りしめた。
同時刻。
宮殿のカーラ王女の部屋でもリーザと、サナが同様に護符を握りしめている。
驚いたカーラがリーザに駆け寄った。
「どうしたのリーザ? サナも!?」
「ヒョウエくんに・・・力を送っているんです・・・」
「! わたし! わたしもお兄様の力になる! どうすればいいの、リーザ!」
「これを」
胸元から銀の護符を取り出す。
それはもはやまばゆいばかりに輝いている。
「これを握って、ヒョウエくんのことを想って下さい。大切なお兄様のことを」
「うん、わかった!」
リーザと手を重ね、輝く銀の護符を強く握りしめる。
(ヒョウエ・・・)
(ヒョウエくん・・・)
(ヒョウエ様・・・)
(お兄様・・・!)
火花散る剣戟の応酬は再開されていた。
高笑いしながら黒い鎧が縦横に拳を振るう。
「ホーッホッホッホ! 健気、健気ネエ! でも残ぁ~ん念、足りナイ! ほんのちょっとだけ足りナイ! ソウヨ、そのままもがいてナサイ! ワタシとお姉様が神になるその時を・・・」
「ここに私がいるってのよぉ!」
「なぁっ!?」
その瞬間、黒い鎧が心底驚愕した。
水晶の間の天井をすり抜けて現れたのは白を基調にした魔導ポッド、マデレイラの「ドルフィン」。その周囲には物理法則を書き換える疑似空間術式が既に展開されている。
これを展開している間のドルフィンは物理法則をある程度無視できる。
「物質は同時に同じ場所に存在できない」という世界の根本をなすような法則ですらだ。
アンドロメダとイサミを介して伝わった魔力が足りないと言う情報、そして「水晶の間」の場所。それを伝えられたマデレイラは、ドルフィンを駆って地下10kmのこの場所に一目散に突っ込んで来たのだ。
「よし、やれい! 小娘はポッドの魔力を全てその青い塊に!」
「おう!」
「わかりました!」
限界までチャージされた雷光銃の魔力ビームと、ドルフィンの魔力砲が小さな青い結晶に放たれる。結晶はその全ての魔力を吸い込み、次の瞬間大きく波打った。
どくん。
どくん、どくん。
どくん、どくん、どくんどくん・・・!
「そ、そんナ・・・!?」
まばゆい光がほとばしった。
青みのかった、強い、だが優しい光。
その光の収まった中空に舞う、今まで存在しなかった人影。
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ光ささぬ地の底であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。