毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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10-42 一つの力、一つの心

 透き通る湖水のような青。

 紅蓮の炎のごとき赤。

 

「青い鎧・・・」

「青い鎧!」

「青い鎧ッッッ!」

 

 地底の空洞に歓声がこだまする。

 屈強な青の騎士甲冑。背中に広がる赤いケープ。

 全身から吹き上がる瑞々しい魔力がそれを自然にはためかせている。

 ヒーローは今、ここに降臨した。

 

 

 

 青い鎧――ヒョウエが両の拳を固く握る。

 

「モリィ・・・リアス・・・カスミ。リーザ、サナ。セーナ。ミトリカ。サフィアさん。マデレイラ。アルテナ。カレン姉上やカーラの心も感じる。

 みんなが僕と一緒にいてくれる。ならば――負ける道理などない!」

「・・・!」

「へっ、ったりめえだろ」

 

 大粒の汗を流し、全身の魔力を絞り尽くしながらそれでも笑みを浮かべるモリィ。

 その手には銃身の破裂した雷光銃。

 ヒョウエを想う女性たちとティカーリの力を集めて解き放ったそれは、限界を超えながらもそのつとめを果たしたのだ。

 

「・・・」

 

 そして無言で宙に浮く黒い鎧。

 面頬でその表情は見えないが、恐らく悪鬼羅刹の如きそれを浮かべているのだろう。

 良く見れば、握った拳が怒りで震えている。

 だが今はその身にまとう圧倒的な暗黒の魔力でさえ、青い鎧の放つ清冽な輝きに押し戻されているかのようだった。

 

「へっへ、それじゃ真打ちも出て来たことだし、前座は下がるとするか」

「そうですね。なにぶんお年ですし、あいつの相手は骨身に染みたでしょう」

 

 笑みを含んだ声でヒョウエが謝意を表すると、拳の甲でがつん、と胸当てを叩かれた。

 

「あいつ如き、何百合打ち合おうが屁でもねえよ。ただ刀身がな・・・三池典太がありゃあ良かったんだが」

 

 そう言うサーベージの佩刀には、確かにいくつかの刃こぼれが見て取れた。

 三池典太光世。平安時代末期の名工初代光世の打った刀をそう呼ぶ。

 重く、分厚く、古風にして豪壮、魔を払う力を持つと言われる。

 サーベージこと柳生十兵衛三厳の愛刀として知られるが、残念な事にこちらの世界には持ち込まれていなかった。

 

「わしが作ってやったカタナじゃ! 文句を言うならその辺の木ぎれでも使っておれ!」

 

 下のメルボージャから怒声が飛び、師弟揃って肩をすくめる。

 

「じゃあな。俺は一抜けだ。高みの見物と行かせて貰うぜ」

「ご安心を。師匠の出番はもう幕が下りた後の挨拶だけですよ」

「へっ」

 

 今度は笑顔で、青い鎧の胸当てをコツンと叩くと、サーベージは地面に降りていく。

 

「・・・」

「・・・」

 

 輝く青とわだかまる黒が、ここで初めて相対した。

 互いに互いを見据えて微動だにせず、一言も発さない。

 

「・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 地上で見上げる面々もしわぶき一つあげない。夫の刀を修復するメルボージャすら、視線は上空の二人を見上げ、発する魔力も最小限にしている。

 まるで声を上げることで何か取り返しのつかない事が起こってしまうかのような。

 

 唐突に閃光と轟音が走った。

 まばゆい閃光はぶつかり合った魔力からほとばしる稲妻。

 天地を揺るがす雷鳴は、弾けたそれが空間を引き裂いた轟音。

 どちらから動いたとも知れないそれらは大空洞の中空に停止し、ただ見えない速度の拳を互いに打ち合う。

 

「ぬう・・・!」

 

 達人の中の達人であるサーベージですら、目だけでは追い切れない。

 相対すればこそ、まだ空気の流れや音、気配で追うこともできようがこの距離では。

 

 二人の拳の応酬をしかと見て取れたのは、この中では《目の加護》を持つモリィだけ。

 その彼女でさえ時折影しか見えない一撃がある。

 

「・・・」

 

 手に汗を握る。

 二人の戦いはもはや超人の域すら超えて神の域にすら届くかと思われるほどだ。

 

 雷鳴が轟き、稲光が空洞をまばゆく照らす。

 どちらの勢いも僅かにも衰えない。

 稲光がますます強くなる。

 震動が洞窟全体を揺らし始め、天井からパラパラと石くれが落ちてき始めた。

 

「・・・チッ」

 

 舌打ちして、黒い鎧(クリス)が間合いをとった。

 青い鎧(ヒョウエ)もそれを追わない。

 

「・・・はあっ・・・」

 

 誰かが大きく息をついた。

 余りの緊迫感に、思わず呼吸を忘れていたらしい。

 黒い鎧が眼下のセレスとその肉体が封じられた水晶を見下ろす。

 

「ここで戦えば姉様の体にも被害が及ぶわ。河岸を変えましょう」

「いいでしょう」

「■■■■■■■■■■■」

 

 青い鎧が頷いたのを確認すると、黒い鎧は両手を広げて真なる言葉で詠唱を始めた。

 

「■■■■■■■■・・・■■■!」「おおっ!」

「これは・・・!」

 

 メルボージャをはじめとしたギャラリー達がざわめく。

 周囲の光景にひびが入り、薄片となって剥がれ落ちる。

 ヒョウエと三人娘、アルテナにとってはかつて見た光景。

 

 幻夢界の狭間に作られた、悪魔ヴェヴィスの楽屋の洞窟。

 六千年前のクリス・モンテヴィオラの姿を借りて現れた現在のクリスが発動した術。

 空間にヒビを入れて穴を作り、別の空間を上書きしてその場の全員を強制的に移動させる。

 召霊術を応用して転移術を組み合わせた、霊魂の神(スィーリ)と並ぶ召霊術のスペシャリストの面目躍如。

 

「ここは・・・」

 

 青い鎧が周囲を見渡す。

 

「そっ。ワタシたちの決着をつけるのにふさわしい舞台じゃないかしら?」

 

 笑みを含んだ黒い鎧(クリス)の声。

 青い鎧(ヒョウエ)が無言で頷く。

 対照的にセーナは愕然とした顔。

 

「なんだ、ここは!?」

「そうさの、世界の外・・・平たく言えば月の上じゃよ」

「月!?」

 

 言ったきり、セーナが絶句する。ティカーリやサフィアも同様だ。

 一方で三人娘とアルテナは落ち着いている。

 

「あの時と同じってわけか」

「完全に同じではないがの。世界の外という意味ではそう考えてさしつかえない」

 

 石と砂だけが広がる、荒涼とした不毛の大地。

 暗闇の空、またたかない無数の星。

 そして頭上に輝く月よりも巨大な青い星。

 

「じゃああれが・・・」

「ああ。わしらの住んでいた世界・・・惑星サイモックじゃよ」

 

 頭上に見える青い星の茶色と緑に彩られた部分――マルガム大陸、ディテクの辺りを見ながらメルボージャが頷いた。 

 黒い鎧から漏れる含み笑い。

 

「ンフフフフ、いいわね、その顔。どう? 楽しんでくれたかしら?」

「まあ確かに一見の価値はあるな」

 

 モリィが肩をすくめる。

 セーナ達は未だに驚愕から回復し切れていない。

 

「そ、どういたしまして。さて、それじゃあ第二ラウンド・・・行きましょうか?」

「いいでしょう」

 

 青と黒、二つの騎士甲冑が互いに向き合い、拳を構える。

 ごくり、と誰かが唾を飲みこむ音。

 稲光が走り、雷鳴が轟いた。

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