毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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10-43 レベルを上げて物理で殴る

 空が割れる。

 大地が鳴る。

 

 稲妻が縦横無尽に空を走り、腹の底に響く轟音がひっきりなしに轟く。

 もはや音ではない。人間の体の底まで揺さぶるそれは大気の衝撃波。

 

 空間が歪むのではないかと思われるほどの魔力の爆発。

 渦巻く大気が暴風を生む。

 ここが地上の空であったなら、どれほど分厚い暗雲も綿のように引き裂かれ、分裂四散していただろう。

 

 そしてそれらの現象全てを引き起こしているのが、かたやオリジナル冒険者族、片や真なる魔術師とは言え、たかが人間二人。

 地上からはもはや魔力の輝点としてしか認識できぬそれらは、空の端から端までを縦横に飛び回り、ぶつかり合い、また離れる。

 

 爆発。雷光。衝撃波。震動。

 金属や石など、何か固いものを無理矢理に引き裂くような音がひっきりなしに響く。

 それはあたかも世界の悲鳴。

 腹の中で暴れる規格外の怪物どもに耐えきれない天と地のうめき。

 

 黒い鎧の両手を組んだハンマーパンチが青い鎧の後頭部に炸裂した。

 地表スレスレまで叩き落とされた青い鎧が、V字を描いて急上昇する。追撃を与えようと急降下してきた黒い鎧と、飛行の軌跡が交わる。

 交錯点で魔力の爆発。

 今度炸裂したのは青い鎧の右拳。

 下から伸び上がる、全身の勢いを集中したアッパーが綺麗に決まった。

 

 錐もみをして落下する黒い鎧を追撃。

 黒い鎧もすぐさま体勢を立て直して拳を振り上げる。

 足を止めての打ち合い。

 互いに回避も細工もない、真っ向勝負の殴り合い。

 一撃一撃に大地を砕く力がこもり、天を引き裂く魔力が放たれる。

 地上からその戦いの全てを見て取れるのはただ一人、モリィのみ。

 

「・・・」

 

 無言で天を見上げる。

 ヒョウエの相棒を自称するこの少女の心は、自分でもおかしいと思う位落ち着いていた。

 ダンジョンの奥で初めて会った日からまだ一年弱。

 それでもこの奇矯な少年は、モリィにとって自分の全てを預けるに足る相棒になっていた。

 少なくともモリィはそうだ。

 ヒョウエの方もそうであると信じたい。

 

(しくじんなよ、タコスケ)

 

 自分の唇が笑みを作っていることに、少女は気付いていなかった。

 

 

 

「・・・」

 

 いつの間にか固く握っていた右手にリアスは気付く。

 甲冑が重い。ほとんど全ての蓄積魔力を雷光銃に注いだからだ。

 ちらりと傍らを見る。

 常に冷静沈着な(時々怖い)妹のような従者がこれ以上ないほど真剣な表情で天を見上げている。

 

(・・・勝利を。どうか勝利を)

 

 視線を頭上に戻し、リアスは心から祈った。

 

 

 

「・・・」

 

 カスミはひたすらに上を見続けている。

 初めて会ったときは、正直自分と大して変わらない子供が魔導技師など何の冗談だと思った。

 その後のあれこれでリアスが惚れ込んでしまい、どうすればうまく行くかなどと算段していたが・・・いつの間にか自分の方が好きになってしまっていた。

 主にして姉の想い人であるのに。

 

(今は考えるまい)

 

 どのみち、この戦いに負ければ全ては終わる。

 だから只今は願うだけ。

 

(どうか、どうか無事のご帰還を)

 

 

 

「・・・」

 

 セーナも、ミトリカも、サフィアも。

 地上で待っているリーザとサナも、カーラもカレンも。

 無論メルボージャとサーベージ、ティカーリも願っている。祈っている。

 ただひたすらに彼の勝利を。

 

 

 

 打ち合っていた両者がどちらからともなく離れる。

 

「・・・」

「・・・」

 

 沈黙。

 それを破ったのは、黒い鎧の方。

 

「くふふふ。凄いじゃない、驚いたわ。まさかワタシとここまで打ち合えるなんてねえ?

 流石に『これ』のオリジナルと言った所かしら」

「・・・」

 

 青い鎧は黙して答えない。

 ただ油断なく黒い鎧の動向を注視している。

 

「でもそろそろ息苦しくなって来たんジャナイ? ここは月面でもあるけど同時に水晶の間でもある。黄金竜の迷宮、その中でも特に"魔素(マナ)"の濃い水晶の間と同じ魔素濃度。

 高い魔力は扱いなれてるでしょうけど、これだけの魔素はどうかしら?

 真なる魔術師であるワタシたちでさえ、そう簡単には適応できなかった魔素量よ。

 そろそろ体が辛くなってきたんじゃなくて?」

「・・・」

 

 無言。

 肩をすくめて黒い鎧は言葉を続ける。

 

「それにそのまがい物の水晶の心臓。ここまでよくやっているけど、調子はどう?

 余り激しい運動をしてると、お年寄りみたいにぱったり倒れちゃうカモよ?」

「問題はない」

「あら、初めて返事してくれたわね」

 

 驚いたように両手を広げる黒い鎧。

 そんな相手にも頓着せず、青い鎧は淡々と言葉を続ける。

 

「さっきも言ったはずですよ。この心臓にはみんなの心がこもっている。

 それが僕の心と結びついたなら負けるはずがないんです」

「まっ、純愛! おニイさん妬けちゃうわ!」

 

 けらけらと笑う黒い鎧を前に、青い鎧は拳を構える。

 

「おしゃべりの時間はこれくらいにしておきましょう」

 

 黒い兜の下で笑う気配。

 

「そうね」

 

 黒い鎧もまた構える。

 静かな対峙。

 

「!」

「っ!」

 

 僅かな沈黙を経て、再び天地を引き裂く音が轟いた。

 

 

 

 雷光が爆発する。

 空間が引き裂かれ、時間の流れが加速する。

 互いに膨大な魔力を持ち、数多の術を会得していても――ましてやクリス・モンテヴィオラは正真正銘の真なる魔術師であるのに――それを使おうとはしない。

 互いに魔力が高すぎて、魔力同士の干渉で術を弾かれるからだ。

 

 ゆえに、相手を倒そうとすれば魔力を込めた物理攻撃に頼るしかない。

 それも強化した自分の拳こそがもっとも効率がいい。そもそもこれほどの魔力に耐えうる武器など、鍛冶神(ファラマー)ですら鍛えられまい。

 互いに魔術を極めたがゆえの先祖返り。もっとも高度な技術を極めた者同士が、もっとも原始的な手段で相手を打ち倒さんとする奇妙な光景。

 そのぶつかり合いが世界を揺るがす様は、さながら天地創造前の混沌か。

 

「む?」

 

 青い鎧が僅かに困惑の声を漏らした。

 

(黒い鎧のパワーが・・・上がっている?)

 

 含み笑い。

 激しい打ち合いの中でも、それは何故かはっきりと聞こえた。

 

「ワタシもね、ただあなたの鎧を借りてるだけじゃないの。ワタシなりに工夫はしているのよ。真なる魔術師の技の冴え、とくとご覧なさいナ」

 

 ウインクをする気配。

 兜で顔は全く見えないにもかかわらず、それがわかる。

 そしてその瞬間黒い鎧の拳が、青い鎧の顔面に初めてクリーンヒットした。

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