毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-11 青き鎧と白き鎧

 

 

「!?」

「カスミ!?」

「ヒョウエ・・・さま?」

 

 剣が止まっていた。

 ヒョウエがローレンスの前に立ちはだかり、体でその刃を止めていた。

 素手でむき出しの刃を握り、切っ先を僅かに肩に埋めている。

 

 リアスが光の指輪を暴走させたとき、カスミだけが素早く動けた。

 ヒョウエはそこからカスミが光の術の使い手であり、それゆえに強烈な光に対して素早く対応できたのではないか、そう考えたのだ。

 そして光の術で実力で上回る相手に対抗するなら閃光の呪文ほぼ一択。

 

 果たしてヒョウエの読み通りにカスミは閃光の術を放ち、目を閉じていたヒョウエはその影響を受けずに済み、こうしてとどめの一撃に割り込むことができたのである。

 そして今、ヒョウエの肉体に異変が起こっていた。

 

「なんだ・・・テメエ・・・?」

 

 ローレンスの声に僅かに畏怖が混じる。

 ゆらゆらと、湯気のような、炎のような、オーラのような青い「何か」がヒョウエの体から立ち上る。

 

 魔力。

 魔力知覚を持たないものでも視認できるほどの膨大な魔力。

 術式という媒介を経ずにマナと反応し、物理現象を起こすほどの魔力がヒョウエから吹き出していた。

 

(何だこの手応え・・・?)

 

 一方でローレンスの背にじわり、と汗がにじむ。

 人間の体に突き込んだとは思えない感触。まるで鉄板のような。

 

 そもそもこんなチビに素手で止められるほどローレンスの突きは甘くない。

 妖刀の力が有れば尚更だ。

 そしてその妖刀ですらあふれ出す魔力を喰らいきれず、妖刀の吹き出す反魔力の炎がヒョウエの魔力にかき消されそうになっている。

 ゆらゆら揺れる魔力の中で、時折装甲板のようなビジョンが見えるのは気のせいだろうか・・・?

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしてローレンスが飛びすさろうとする。

 

「!?」

 

 だが動かない。万力に挟まれたように刀が離れない。

 生意気な小僧の顔を睨み付けると、その口からぼそりと言葉が飛び出した。

 

「いつまで(ほう)けてるんです」

「・・・?」

 

 ヒョウエの言葉が理解出来ず、眉を寄せるローレンス。

 その視界から外れたところで少女の体がぴくりと震えた。

 

「『白のサムライ』、家の跡継ぎ、周囲の期待からの重圧・・・そんなものがなんです。あなたはなりたかったのでしょう、『サムライ』に!」

 

 刀を握る少女の手に力がこもる。

 一方でローレンスは目の前の少年から視線を外せない。

 自分の事ではないとわかってはいても、その言葉が何故か心に響く。

 

「その姿が! 今のあなたがサムライですか! 情けない! 憧れはどこにおいてきたんです! このまま何も出来ず! 何もせずに! 一生後悔だけして生きていくつもりですか!」

「「!」」

 

 それは、一生抱えていく後悔を今も引きずる少年の言葉。

 今も苛まれる記憶とともに生きる少年の言葉。

 

 少女の目に火が灯った。

 狂気に囚われた男の目に鋭さが甦る。

 

「おどきになって。あなたのおっしゃるとおり・・・ここから先はあなたの出る幕ではありませんわ」

 

 静かに――だが闘志の籠もる声がヒョウエの後ろから掛かる。

 ヒョウエが微笑んで手を離し、後ろに下がった。

 軽く精神を集中させると両手と肩からの血が止まり、傷口が塞がる。

 

「・・・治療呪文が使えますの?」

 

 ちらりとヒョウエを見てリアス。

 

「初歩ですが」

「でしたらカスミ達をお願いします」

「承りました」

 

 ヒョウエが頷いたときには、既にリアスはそちらを見ていない。

 視界の中にいるのは目前の敵だけ。

 

「構えなさい、乱心者。ニシカワ家当主リアス・エヌオ・ニシカワの名において成敗します!」

「やってみろよ、小娘!」

 

 リアスは中段まっすぐ、青眼の構え。

 ローレンスは先ほどと同じく右八双に構える。

 

 ぴりっ・・・と緊張が走った。

 悲鳴や怒号を上げていた貴顕淑女も怯えたように静まりかえる。

 例外はカスミ達を治療するヒョウエと、杖をつきながらも鋭い眼光を放つシンゲンのみ。

 

「・・・」

「・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 息詰まる数瞬が過ぎる。

 リアスも、ローレンスも。

 ヒョウエも、シンゲンも、客や家臣達も。

 ヒョウエに癒してもらった忍びやカスミ達でさえ身動きできない。

 指一本動かしただけで取り返しのつかない何かが起きるのではないか――そんな張り詰めた空気。

 だが破局は、常に突然訪れる。

 

「イェェェェェェェェェェェェェッ!!!」

 

 怪鳥音――あるいは示現流剣士の猿叫に近いものを上げて、ローレンスが剣を振り下ろす。その速度はまさしく雷光にも比すべきそれ。並の剣士なら反応もできない。

 だがその瞬間、リアスは雷光を超えた。

 

「えっ・・・」

「あ?」

「え・・・?」

 

 その場にいたほとんどの者が目をしばたたかせる。

 剣を振り下ろしたローレンスの背後、剣を振り抜いた白のサムライ――リアスが立っていた。

 

 素人にはローレンスの振り下ろした剣が見えなかった。

 だがリアスの速度はその踏み込み自体を認識させなかった。

 この場にいるほとんどの人間には、リアスが瞬間移動してローレンスの背後に立ったようにしか見えまい。

 

 剣を振り下ろしたローレンス。横一直線に剣を振り抜いたリアス。

 引き延ばされた一瞬の中で二人は動かない。

 リアスが振り向いて残心を取る。

 同時にローレンスが血を吐き、その体が半ば両断されて床に崩れ落ちた。

 

 同時に歓声が上がった。

 ヒョウエとカスミ、シンゲンが揃って大きく息をつく。

 それと共にリアスの目から闘争心の光がふっと消えた。

 倒れたローレンスに駆け寄る。投げ捨てられた刀が絨毯の上に転がった。

 

「お兄様! ローレンスお兄様!」

 

 面頬を開き、ローレンスを抱き起こす。

 ローレンスが目を開いた。憑き物が落ちたような表情。既に死相が現れている。

 

「は・・・は。やっぱ強いなあ、お前・・・敵わねえや」

「お兄様・・・」

 

 言いたい事は沢山あるが言うべき言葉が見つからない。

 目じりに涙をにじませて、リアスは唇を噛みしめる。

 

「使えたんだな、それ・・・ああ・・・やっぱかっこいいなあ・・・」

 

 ローレンスの目に映るのは白甲冑をまとったリアス。

 子供の頃から憧れ続けてきた『白のサムライ』そのものの姿。

 

「一度でいい、それを身につけてみたかったな・・・」

「兄様!」

 

 それきり、ローレンスは目を閉じた。

 

 

 

 広間にリアスの嗚咽が響いていた。

 勝利に沸いていた客たちも、シンとして音もない。

 その場の人間の視線は彼女に集中している。

 シンゲンが悲痛に首を振り、ローレンスの体を運び出すように指示しようとしたとき、ヒョウエの体から立ち上る青い炎がふっと消えた。

 

「ヒョウエくん・・・?」

 

 返事は返らず、ヒョウエはそのまま意識を失ってくずおれる。

 

「ヒョウエさん!?」

「ヒョウエ様! ヒョウエ様!?」

 

 リアスとカスミの悲鳴が広間に響いた。

 




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