毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-12 見慣れた天井

 ヒョウエが目を覚ますと、ここ十日ほどで慣れた客間の寝室だった。

 開いた窓から日差しが差し込み、カーテンを風がゆらす。

 日差しの方向と高さからして午後半ばくらいだろうか。

 首を傾けると、口元を抑えて目を見開いたカスミと目が合った。

 

「おはようございますカスミさん・・・でいいのかな?」

「いえ今は午後三時・・・ではなくて! 申し訳ありません、失礼します!」

 

 慌てて一礼すると、カスミがパタパタと走り去る。

 さほど時間を置かずにリアスを連れてカスミが戻ってきた。

 走り寄ったリアスが上半身を起こしたヒョウエのベッド脇にひざまずき、手を取る。

 

「ああ! 良かった・・・良かったですわヒョウエ様! あのままお目覚めにならなかったらどうしようかと・・・」

「ご心配をおかけしました。多分魔力の使いすぎで・・・ん? ヒョウエ『様』?」

 

 ヒョウエが眉を寄せる。リアスが顔を背け、頬を染めた。

 いやな予感がした。

 

「あの、リアス様?」

「いやですわそんな・・・リアスとお呼び下さいまし」

 

 ヒョウエの背にじっとりと汗がにじんできた。

 カスミの表情が引きつる。

 

「お嬢様・・・?」

「い、いやその、いやしくも伯爵家のご令嬢、いや今は御当主でしたか――が一介の術師を様づけというのは色々問題があるかと。ほら、誤解されるといけませんし・・・」

 

 ぎゅっ、とヒョウエの手を握る力が増した。

 うるんだ目が引きつったヒョウエの顔を見上げている。

 

「そんな事は言わないで下さいまし。ヒョウエ様はカスミ達を助けてくれた上にわたくしの背を押してくれました。

 あそこでヒョウエ様のお言葉を頂かなかったら、私はこうしてここにいないでしょう。このご恩は一生かけてでも返さなくてはなりません。

 さもなくば『白のサムライ』の名に泥を塗ることになるでしょう!」

「・・・」

 

 ちらり、とカスミに視線をやる。

 ぶんぶんぶん、と猛烈な勢いでカスミが首を振った。

 

「と、ともかくですね! あれから何日経っているのか、あの後何が起きたのか、まずはそれを説明して頂けるとありがたいのですが!」

「あ・・・そうですわね。わたくしとしたことが、気のつかない事で申し訳ありません」

 

 ちょっと意表を突かれた顔になり、リアスが手を離して立ち上がった。

 ヒョウエもベッド脇に用意されていたサンダルに足を通して立ち上がる。

 リアスと、お茶の用意をしようとしていたカスミが驚いた顔になった。

 

「いけません、ご無理はなさらないで下さいまし」

「大丈夫ですよ。むしろ力がみなぎっている感じです」

「ならよろしいのですが・・・」

 

 ガウンを羽織り、居間に移動する。カスミが手際よく茶の用意をととのえた。

 淹れてもらった香草茶を口にして落ち着いたところで口を開く。

 

「それで、あの後何が?」

「そうですね。兄様の件については概ね慮外者の乱心と言うことでケリが付きました。

 死者も出なかったことですし、私の当主継承もつつがなく認められましたので、そちらについては概ね問題ないと思います」

「それは良かった」

 

 安堵の息をつく。

 そもそもニシカワ家に呼ばれたのがリアスの継承の儀を成功させるためである。ようやっと肩の荷が下りた感じだった。

 

「それで、今はあれから何日経っているんですか?」

 

 普通なら腹の減り具合などで察する事もできるだろうが、何せ魔法の世界である。

 食神(バーテラ)の神殿や術師に金を積めば、意識のない人間に栄養を補給することも不可能ではない。

 点滴が実用化されていないこの世界では医療上地味に重要な術であるが、術の系統が違うので治癒術師でこの術を習得しているものは少ない。

 閑話休題(それはさておき)

 

「まだ半日というところですね。昨晩は大変だったんですよ? マリー・・・治癒術師に『心臓が止まっている』と言われた時にはわたしの方も心臓が止まるかと思いましたわ」

「え・・・?」

 

 さすがにこれは予想外だったのか、ヒョウエが目を丸くする。

 リアスの方も余り良くは理解していないのか、つっかえながら説明を続ける。

 

「その、正確に言えば心臓は止まっているが息はあるという奇妙な状態だそうでして・・・医神(クーグリ)の神官様をお呼びにやろうとしたのですが、ちょうどその場に到着されたヒョウエ様の兄弟子様と姉弟子様が無用とおっしゃられまして」

「ふむ・・・?」

 

(何かを知っているのか? ひょっとして『これ』がらみか・・・?)

 

 自分の胸に意識を向ける。そこには超高純度の魔力結晶にして具現化術式、『隠された水晶の心臓』がある。軽く魔力を通すと、昨日までは明らかに違う感触が戻ってきた。

 間違いなく魔力の経絡(チャンネル)が開いている。四つしか開いていなかったはずの水晶の心臓の経絡が今は七つ全て開いていた。

 恐らくは昨夜限界を超えて魔力を酷使したせいだろう。

 心臓が止まっていると言われたのもそれか?と考えてふと気付いた。

 

「そう言えば兄さんたちはどうしたんですか? まだこの屋敷に?」

 

 ヒョウエの問いにリアスが困った顔になった。

 

「お帰りになられました。『寝かせておけば元に戻る、後はよろしく』と言われまして」

「薄情者め・・・」

 

 しかし、何か知っているのは間違いない。帰ったらとっちめて吐かせてやると決意する――主に兄弟子の方を。

 姉弟子の方はとっちめるどころか返り討ちに逢いかねないのでスルーだ。

 と、その表情を見てリアスがクスリと笑った。

 

「なんです? 人の不機嫌な顔が面白いですか?」

「すいません。でもやっぱり仲がよろしいんだなと思いまして」

 

 くすくすと笑いを重ねるリアス。いつの間にかカスミも僅かに笑みを浮かべている。

 さらに仏頂面になるヒョウエ。

 何か言うと墓穴を掘りそうな気がしたので、無言で香草茶を飲んで誤魔化した。

 

 

 

「そう言えばローレンス様の持っていた刀はどうしました?」

 

 二人の微笑ましげな視線に耐えるいたたまれない時間をしばらく過ごした後、ふと思いだしたことを口にする。

 魔力を食らう妖刀。ローレンスの様子が豹変したころから持ち歩くようになった。

 なら逆に、ローレンスを変えたのがあの妖刀であると考えられないだろうか?

 

("知恵持つ剣(インテリジェンス・ソード)"ってのもあるしなあ。"知恵持つ刀(インテリジェンス・カタナ)"があってもそりゃおかしくないか・・・)

 

 ヒョウエの質問に、リアスとカスミが顔を見合わせる。

 

「そう言えば・・・カスミは何か聞いてるかしら?」

「いえ、わたくしもあの後お嬢様と一緒に下がらせて頂きましたので・・・何かお気になることでも?」

 

 んー、と少し唸って。表現をソフトにしつつも推測と抱いた疑念をそのまま伝える。

 話が進むにつれ、リアスとカスミの表情が曇っていく。

 

「・・・それは本当なんですの?」

「現時点ではあくまで推測です。ちゃんと調べたわけでもありません。

 カスミさんはあの刀に何か感じませんでしたか?」

「ただのカタナではないとは思いましたが、それ以上のことは――申し訳ありません、私も多少の術は使えますが光系統のみですので」

「でしょうね。お気になさらず」

 

 術師の素質にも色々あって、ある系統の術にしか発揮されない素質というのもある。

 専門系統には尖った才能を発揮するが、それ以外はからっきしという類のそれだ。

 当然、魔力感知でも自分の専門外の魔力には精度が大幅に甘くなる。

 歳に似合わない術の見事さからすると多分彼女もそれだろうなと思っていたが、どうやら当たりらしい。

 

「ともかく、その剣についてはおじいさまなり家の者なりに確かめておきましょう。

 それでその・・・ヒョウエ様はいつまでこちらに?」

「? それはまあ、仕事も済んだことですし、体調も問題ないですし、この後にでも荷物をまとめて・・・」

「いけません!」

 

 いきなりの大声にヒョウエとカスミが驚く。

 リアス自身意外だったようで、恥ずかしそうに俯いた。

 

「その、仮にも心臓が止まっていたのですし、大事をとりませんと・・・一週間、いえ、数日ほどでも当家に滞在して静養を・・・」

「いやまあお心遣いはありがたいんですが、本当に調子は良いので」

 

 これは本当だった。

 「隠された水晶の心臓」が全開で稼働しているせいか、体の調子がこれまでになくいい。

 魔力は生命エネルギーの一種であるから魔力の高い人間はそれだけで健康・長寿になる傾向があるが、恐らくそう言う事なのだろう。

 

「それに貧乏暇無しと言う奴で、頑張って稼がないといけない身でして・・・お恥ずかしい限りですが借金があるんですよ」

「で、ではニシカワ家専属の魔導技師になりませんこと!? 借金についてもわたくしが何とか・・・」

「お嬢様・・・?」

 

 どうしてこんなに必死になるのか、自分でもわからないままにリアスが食い下がる。

 その後ろには愉快にひきつったカスミの顔。

 限りなくいやな予感を覚える。

 

「まあその、お心遣いだけ頂いておきます。多分お嬢様個人のまかない(ポケットマネー)だけでは足りないと思いますので」

「「え」」

 

 主従がハモった。

 冷や汗を一筋たらし、カスミがおずおずと口を開く。

 

「その、ヒョウエ様の借金はどれくらいおありになるので・・・?」

「あは、あは、あははははは・・・」

 

 多分カスミが想像してるよりも桁が二つか三つ違う金額を改めて思い起こし、ヒョウエが乾いた笑いを上げた。

 

 

 

 ヒョウエの虚ろな笑いがしばらく響いた後、居間に沈黙が落ちる。

 勇を鼓してというのがぴったりの表情で沈黙を破ったのはリアス。

 何故沈黙を破るのに勇を鼓す必要があるのかは本人もわかっていない。

 

「それでは、どうしても我が家をお出になるのですね――それではその、あの光の指輪をお貸し願えませんか!?」

「・・・? これをですか?」

「はい!」

 

 小指にはめている指輪を見下ろし、首をかしげる。

 

「そのですね、私もめでたく白の甲冑を継承いたしまして、こう、魔力のコントロールとかを覚えなければと思うのです。白甲冑は当主でもそうそう身につけられるものではありませんし、練習用に指輪をお貸し願えれば・・・!」

「・・・」

 

 光を出す指輪の一つや二つ伯爵家なら買えるだろうに、何でこの人はこんなに必死になっているのだろうと思うヒョウエ。

 わかる気もするがわかりたくない。

 

 後ろに控えるカスミをちらっと見る。

 すごく複雑な顔をしていた。顔面の表情筋が複雑骨折を起こしたような。

 

 渡したら身の危険を感じるが、渡さなくても身の危険を感じる。

 一瞬もの凄く真剣に考えて――結局ヒョウエは思考を放棄した。

 こういうところがトラブルの元になると、本人はまだ気付いていない。

 ともあれ溜息とともに指輪を抜いて、リアスに手渡した。

 

「そう言う事でしたらどうぞ。あの立ち会いを見る限り、ほぼ問題はないと思いますけどね」

 

 肩をすくめるヒョウエとは対照的に、リアスは受け取った指輪を胸元にぎゅっと握り込む。

 

「ありがとうございます・・・一生大事にしますわ!」

「・・・一生?」

「い、いえ! 心構えの話です! 心構えの!」

 

 顔を真っ赤にして慌てて弁解するリアス。

 

(ひょっとして僕は選択を誤ったんでしょうか)

 

 真顔になるヒョウエ。

 耐えきれなくなったのか、ついにカスミが頭を抱えてうずくまった。




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