毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-19 毒龍(ヒドラ)

 毒霧が爆発した。

 九つの首から濃い紫色の毒霧が一斉に噴射され、吹き付けられる。

 

「ちっ!」

 

 咄嗟に全員を浮かせたまま、全力で後退させる。

 自分と仲間に張った魔力障壁が辛うじて一瞬早く効果を発揮し、霧状の毒液を防いでいた。

 

「うおっ・・・」

「申し訳ありません、助かりました」

「気にしないで下さい。パーティですからね」

 

 

 

 毒龍(ヒドラ)。真なる竜の遥かに劣化した子孫である、いわゆる亜竜の一種だ。

 だが地竜(リンドヴルム)同様、竜と言われているだけあってその力は凄まじい。

 直接的な戦闘力は地竜に大きく劣るが全身から絶えず毒を分泌し、更に毒霧も吐く。

 更には異常なまでの再生力を有し、首をはねられようが手足をもぎ取られようがしばらくすれば生えてくる。ギリシャ神話のそれと違い不死身というわけではないが、それに限りなく近い厄介な怪物だった。

 

「昔話だと傷口に火を当てて再生を防いだ・・・でしたかしら。斬るのはわたくしがやりますが、雷光銃で傷口を焼けますかしら?」

「ええと・・・どうなんだ、ヒョウエ?」

 

 困った顔でモリィがヒョウエを見る。

 少し考え込んで、途切れ途切れに言葉を口にする。

 

「おそらくは・・・無理でしょう。チャージ攻撃でもです。雷光銃は雷光とは言いますが本質的には魔力によるビームです。相応の熱量は発生しますが、傷口の細胞を焼いて再生を阻害するには・・・」

 

 そこではたと気付いて周囲を見渡す。

 呆れ顔、ぽかんとした顔、必死に理解しようと努めるが理解の追いつかない顔。

 まあいつものことである。

 

「・・・ともかく、傷口を焼くのは僕がやります。ダメージを与えるのはリアスとモリィで。リアスは囮も兼任、モリィは基本チャージ攻撃をメインで」

「そりゃいいけど焼くって・・・ああ、あのでかい火の玉か?」

「今回はちょっと不向きですね。みなさんの飛行と毒霧からの防御で魔力経絡(チャンネル)はほぼ使い切ってますから、チャージに時間が掛かりすぎます。まあ任せて下さい」

 

 モリィが頷いた。それだけの信頼は既に二人の間にある。

 リアスがちょっと唇を尖らせた。

 

「カスミは・・・ちょっときつそうですね。目つぶし玉とかあります?」

「多少は用意がございます。後は光の呪文で」

「ではそれで牽制を」

 

 カスミが頷いた。

 ヒドラは飛行して後退したこちらを警戒しているのか、しゅうしゅうと威嚇音を上げているが攻撃を仕掛けてこようとはしない。

 それにちらりと目をやって、ヒョウエは全員の顔を見渡した。

 

「これからあなたたちに飛行呪文の制御を渡します。一人ずつ試しますから、失敗しても落ち着いて」

「どういう事だ?」

「自分の意志で飛び回れるようになると言うことですよ」

 

 つまり現在はヒョウエがリモート操縦するドローンで三人を飛ばしているが、そのコントローラーを三人に預けると言うことだ。

 

「できんのか?」

「慣れればそれほど難しくはありません。失敗してもやり直せますから一人一人やりましょう。まずはモリィから」

 

 ちらちらとヒドラの様子を窺いつつ、ヒョウエは制御の委任を始めた。

 モリィとリアスは最初戸惑っていたようだったが、すぐに慣れて飛び回るようになる。

 そしてカスミに制御を委譲しようとした瞬間、攻撃が来た。

 

「!」

 

 ブレスのように喉元を膨らませるといった準備動作無しに、首のうち六本が何かを吐き出す。

 同時にカスミが制御を失い、斜め下に錐もみしながら落下を始めた。

 

「回避してっ!」

 

 自分を含む四人に張った障壁に一層の魔力を注ぎ込む。

 同時に回避運動を指示し、自分も回避をかける。更に一つだけ残った魔力経絡で最後の術を発動、錐もみするカスミを支える。

 

「きゃあっ!?」

「何だこりゃ、汚ねえっ!?」

 

 飛行に慣れているヒョウエは回避した。制御を失ってランダム軌道を取るカスミも逆にそれが幸いしてヒドラの吐き出したものを回避する。

 だが制御できたとは言えまだ不慣れなモリィは一発、リアスは二発をまともに食らった。

 体の表面、正確には体を覆う障壁にべっとりと粘りついたそれは、言ってみれば毒液の痰。

 ねばっとした粘液は体の動きを阻害こそしないものの、腕を振った程度でははがれない。

 

(どうする? 毒をはがすには洗い流すか一度防御幕を解除する必要が・・・)

 

 幸い防御幕の上からなので二人が毒の痰で害されることはないが、ぬぐい去るには少し集中して作業をする必要がある。

 ヒョウエが扱える魔力経絡(チャンネル)は9つ。その割り振りを考え直そうとしたところで、ヒョウエはまたしても驚かされることになった。

 

「なぁっ!?」

 

 ヒドラが水面を滑るように動いた。

 泳ぐというスピードではない。

 水中翼船のようにしぶきを蹴立て、馬が全力疾走するよりも早く水面を高速移動する。

 

「ヒェッ!」

 

 がちん、と1m程の距離で巨大な牙が噛み合わされた。

 一瞬にして術式の制御を切り替えたヒョウエが全員をまとめて回避させたが、そうでなければモリィは右足を喰われていた。

 毒霧・毒痰が効かないと見るや高速移動しての噛みつき。判断が速い。

 10mを越す長い首から逃れられる高さは、この空間にはない。

 

(・・・そうか、足に魔力を集中させて、あめんぼみたいに水面に浮いているのか)

 

 一方でヒョウエは冷静にヒドラを観察していた。

 文字通り水面に浮いて機動力を確保する。恐らくは推進力もある種の魔力だろう。

 そして空中に浮くか水面に立つ呪文がなければ、冒険者たちは毒液の混じった水に浸かって戦わねばならない。

 水のある環境では、あるいは地竜を上回る強敵であるかも知れなかった。

 ちらり、と洞窟の岩肌を見る。

 

「降りますよ。20秒くらい耐えてください。毒霧と痰は防ぎますので」

「は、はい?」

「新呪文の威力を見せて上げましょう」

 

 鍾乳洞の岩棚に降り、飛行呪文を解除する。それと同時に防御幕を一括で張り直し、個々の魔力障壁を外して毒痰を振り払った。

 訳がわからないながらも他の三人が身構え、ヒョウエが精神集中を始める。

 例の玉ッコロじゃないのか?とモリィが思う暇もなく、ヒドラの首が来た。

 

「かぁっ!」

 

 食らいつこうと牙をむくヒドラの頭を、リアスが騎士盾で殴り飛ばす。

 間髪入れずに襲いかかって来たもう一つの頭の横っ面にカタナを叩き付け、辛うじて攻撃を逸らした。

 

「このこのこのこのこのっ!」

 

 モリィは後のことを考えず、雷光銃を乱射。

 それでも大半がヒドラの目やその周囲に命中しているあたり、並の腕ではない。

 目への攻撃を嫌がるヒドラが首をくねらせ、リアスへの圧力を大幅に減じている。

 

 カスミもそこまでではないが着実に牽制を果たしていた。

 タイミングを狙い、正確にヒドラの目を狙って目つぶし玉を投げつけていく。

 卵のカラにさまざまな粉末や香辛料を詰めたそれが目に辺り破裂すると、ヒドラの首が短い悲鳴を上げて苦痛に首をくねらせる。

 風が目つぶしの粉末を巻き上げ、残った粉末が別の目に入ってまた別の首が悲鳴を上げた。

 

「おい、まだかヒョウエ! いくらリアスがつえーったって限界がある・・・ぞ?」

 

 振り向こうとしたモリィの声が途切れる。

 ヒドラの首が一斉に苦しみ始めていた。目をパチパチさせ、苛立たしげに咳き込んでいる。

 

「もうそろそろ大丈夫です。下に降りますよ」

「下と言われましても・・・!?」

 

 下にチラリと目をやった三人が、異口同音に驚きの声を漏らす。

 

「水が・・・!」

 

 いつの間にか水が引いていた。

 ところどころ水たまりはあるが、人間が歩いて移動するのに何の不都合もない。

 水面に浮かんでいたヒドラの足も、今は洞窟の床を踏みしめていた。

 

 更に良く考えれば、先ほどからヒドラは一度も毒霧や毒痰を吐いていない。

 皮膚から絶え間なく分泌していた毒液も止まっており、明らかに異常だった。

 

「何やったんだ、おい? 念動で水を持ち上げた・・・ってわけじゃないよな」

 

 気がつけば天井の一角に巨大な水の玉があった。

 ただし毒の体液の混じっていない綺麗な水であり、かつそれではヒドラの異常が説明できない。

 

「"水生成(クリエイト・ウォーター)"です」

「"水生成(クリエイト・ウォーター)"!?」

「まあ、呪文なんて使い方次第と言うことですよ」

 

 ウィンクするヒョウエ。

 "水生成(クリエイト・ウォーター)"。空気中の水蒸気を集めて蒸留水を生み出す。

 最大数リットルの飲み水を生み出す、普通ならただそれだけの呪文である。

 

 ただ、「空気中の水蒸気を集めて」というのが今回の肝だ。

 普通なら周囲十メートルくらいの水蒸気を集めるに留まるが、ヒョウエの術力をもってすればこの広大な洞穴全てから水蒸気を集める事もできる。

 これ以上水が入ってこないように洞窟の入り口を塞ぎ、空気中の水蒸気、そして地面の水からも水分を奪う。

 そしてカラカラに乾燥した空気を念動で攪拌し、ヒドラの体表や喉、目の粘膜も乾燥させる。

 

 呼吸器や喉の粘膜を乾燥させる事によって毒霧や毒痰を吐かせず、体表を乾燥させる事によって毒液の分泌を阻害する。

 そしてフィールドを水辺から強制的に洞窟に戻すことで高速移動も封じる。

 そして仲間は念動で作った泡の中にいるため、この乾燥の影響を受けない。

 

「オーケー、理解した。後は――」

「倒すだけ、というわけですわね!」

 

 モリィとリアスが獰猛な笑みを浮かべる。

 趣味も育ちも戦闘スタイルも何もかも違う二人であったが、こういうところだけは良く似ていた。




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