毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
四人がふわりと着地する。
同時にヒョウエが飛行の呪文を切った。
「申し訳ありませんが魔力のチャンネルが足りません。飛行の呪文は・・・」
「必要ありませんわ」
「えっ?」
聞き返す間もあらばこそ、リアスが飛んだ。
遺失技術で生み出された魔導甲冑が生み出す筋力と瞬発力が、板金鎧を着込んだ人間を5mを遥かに超えて跳躍させる。
一閃。
ゆうに直径1mはあろうかという首の一本がすっぱりと、まるで人参でも斬るかのように両断されて落ちた。
ヒョウエが目を丸くし、モリィが口笛を吹く。目つぶし玉や光の術で牽制を続けていたカスミの口元がほんのすこし、注意していないとわからないくらいに微笑んだ。
「さあ、ヒョウエ様! 再生する前に!」
「あ、はい!」
今度はヒョウエが(呪文の力で)飛んだ。
怒りの咆哮を上げる8つの首を鋭角的な軌道でかわし、傷口に肉薄する。
綺麗な切り口は既にブクブクと泡立ち、新たな首が生えようとしていた。
「"
ぼっ、とロウソクほどの大きさの炎がヒョウエの指先に灯った。
火炎系の基本である発火の呪文。ヒョウエは湯を沸かすのにも使っているが、本来は名前通り種火にするか、タバコに火をつけるくらいしか用途のない呪文である。
指先や杖の先に小さな火を生み出すだけの呪文であるため、攻撃にはまず使えない。
だが高い術力で膨大な魔力を込め、その一点に圧倒的な熱量を集中させる事が出来るなら。
ヒョウエの指先に灯ったオレンジ色の炎が青く、白く、そして炎を超えてまばゆい光となる。
恐らくは摂氏数千度、鉄が瞬時に融解し、人間なら骨まで灰になる温度。
その光る指先を素早く縦横に、何度も動かす。
「シャアアアアアーッ!」
傷口を焼かれる激痛にヒドラがのたうつ。
ヒョウエが飛び離れた時、網の目状に焼かれた首の傷口は完全に再生が止まり、黒く炭化した断面をさらすのみ。
この時点で、既に勝敗は決していた。
最後の首を落とされ、ヒドラの胴体が動きを止めた。
モリィのチャージ攻撃で体を半分削られて、それでもまだ動いていたのは驚異的生命力と言うほかないが、脳と切り離されてはさすがに動けない。
ヒョウエがこれまでの8本と同様素早く傷口を焼き、再生を阻害する。
その強烈な生命力ゆえに心臓はまだ動いているが、じきに動きを止めるだろう。
モリィとリアスが笑顔を浮かべ、銃と刀をカチンと打ち合わせた。
「凄いですわ! まさか初めてのダンジョンでヒドラを討ち取れるなんて!」
「いやー、凄かったなお前! ヒドラの首をポンポンポンってよ!」
「モリィさんも!まさかヒドラの胴体を半分削れるとは思いませんでしたわ!」
モリィがリアスの肩を叩き、リアスも屈託なく笑っている。
話している内容を考えなければ、年頃の少女同士の会話だった。
一方でヒョウエは宙に浮かせた巨大な水の玉を見上げている。
周囲の水分を奪って作った水球だが、念動を解けば当然地面に落ちてくる。
毒が浄化された訳ではないので、そうなれば一面の毒の沼の復活だ。
「うーん、どうしましょう、これ」
「わたくしではなんとも・・・」
はしゃぐ二人をよそに、ヒョウエとカスミが眉を寄せていた。
結局水は元に戻した。
戻した上で"
毒を分泌するヒドラがいなければ、大量の水もただの水だ。
「とは言えこの先に向かうのは少し骨ですね・・・」
ヒドラの現れた通路の入り口を見ながら考え込む。
水の流入は既に止まっていたが、それでも高さ5,6mはあるだろう通路の半ばは水没している。
ちらりとリアスとカスミを見た。
「とはいえ今回は二人のお試しですから、ここで戻ってゆっくり休むのもありですか」
「ま、まだやれますわヒョウエ様!」
「わたくしもやれと言えばこなしてみせますが、ヒョウエ様のご判断でしたら」
予想通りの答えに僅かに苦笑。
「まあ『まだ行けるはもう危ない』というのが冒険者の金言でして。普通のダンジョンならここから帰るのもまた一苦労ということをお忘れなく。
それに、今何時くらいだと思います?」
「え? ええと・・・午後二時か三時・・くらいでしょうか?」
「残念、午後八時です」
「え・・・ええっ?!」
ヒョウエが懐中時計を取り出す。その文字盤は、確かに午後八時を僅かに回っていた。
「ダンジョンの中では時間がわかりづらくなりますからね。その辺は常に気を付けませんと」
「はい・・・」
まだ驚きの余韻を残しながらリアスが頷いた。
視線をカスミに移す。
「カスミはあんまり驚いていませんね。やっぱりそう言う訓練を?」
「はい、閉所暗所でじっとしている場合でも腹具合や喉の渇きである程度は・・・とは言えわたくしも午後六時くらいだと思っておりましたのでまだまだです」
「初めてのダンジョンでそこまでやれれば十分ですよ。それじゃ帰りましょうか」
全員が頷いた。ただし、モリィはにやにやしながら。
「モリィさん、何か?」
「まあ驚くからな。見てろって」
人の悪い笑みを浮かべる相棒に苦笑しつつ、ヒョウエが精神を集中させる。
ダンジョン・コアを預けてあるとは言え、ヒョウエがこのダンジョンの「マスター」である事には変わりがない。
ヒョウエにだけわかる波動を辿り、地上のギルド出張所の金庫に安置されたコアと精神的な接続を確立する。
「それじゃ行きますよ・・・1、2、3!」
「えっ!?」
「ふわっ!?」
リアスとカスミ、二人の驚きの声と共に一行は地上に転移した。
外は既に暗かった。
衛士と、運悪く出て来たばかりだった同業者がいきなり現れた一行を見てぎょっとする。
仰天するリアスたちを見てモリィが笑っていた。
あるいは珍しく年相応の驚き顔を見せるカスミに微笑ましさを感じていたのかもしれない。
衛士とギルド職員を相手にお定まりのやり取りをしながら、ふとヒョウエの脳裏に引っかかるものがあった。
"
普通なら守護者こそがダンジョン最強のモンスターであり、それに並び立つモンスターなど生まれないはずなのだ。
(・・・そのうちあの洞窟の先を探索してみないといけないかもですね)
僅かな引っかかりではあったが、その疑念は確かにヒョウエの胸に根付いた。
「キャーッ! キャアアアアアアッ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・!」
翌日。
一行はヒョウエの杖にまたがって郊外の空を飛んでいた。
例によって郊外の依頼のためであるが、なにぶん二人は飛行が初めてである。
「く、くるしい・・・いきが・・・」
ひたすら悲鳴を上げるリアスに強烈な
普段ならそれをフォローするカスミも、無言で目を見張っていて助けにならない。
ちらりと振り向いたヒョウエが苦笑する。
「やれやれ、大丈夫かなあ」
「たす・・・けろ・・・このタコ!」
新生エブリンガーの前途は少々多難なようであった。
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