毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-24 酸鼻

「なんだこりゃ・・・」

 

 顔をしかめたのはローレンスだった。

 カスミも表情を堅くし、リアスは顔を青くしている。

 

 そこに転がっていたのは大量のゴブリンの死骸だった。

 既に腐敗が始まっており、蠅がたかっている。腐肉あさりに襲われたか肉の大半がなくなっているが、それでも鋭利な刃物で、しかも一太刀で絶命したらしいのはわかった。

 モリィとカスミがしゃがみ込み、しばらく死体を検分する。

 

「どうでしょう、モリィ様?」

「もう大分暖かくなってきてるしな。殺られてから一日、せいぜい一日半ってところだろう」

「で、ございますね」

 

 カスミが頷いた。

 ヒョウエがローレンスに視線をやる。

 

「例の青等級の(パーティ)が襲われたのは時刻的にはいつ頃ですか?」

「昼間から夕方の間だな。オーガー退治してその帰りだったはずだ」

「オーガーとの戦いで手傷は?」

「ポーション一本で治る程度の怪我しか負ってなかった、つってたから疲労はしてただろうがせいぜい軽傷だな」

 

 オーガー。身長2.5mから3mの巨躯を誇る人食い鬼である。

 その巨躯に見合った怪力と頑健さ、そして10m程度なら一瞬に距離を詰めてくる俊敏さも持つ。ほぼ道具を使い、知恵もあるヒグマと思っていい。

 それを相手に軽傷で勝てるパーティを、妖刀を持った怪人は瞬殺した。

 

「ふらりと現れたそうだ。むき身の刀を持ってはいるが、最初は同業者だと思った。ピンク色に逆立てた髪と、同色の毛皮鎧(ハイドアーマー)を着て、腰には朱鞘」

「カブキモノにしても派手ではありませんこと・・・?」

 

 リアスが呆れたような表情。

 もっとも、白甲冑も知らない人間から見れば割とカブキモノの範疇ではある。

 そんな事を思ったかどうか、ローレンスが苦笑した。

 

「まあそうだが、たまにもっと凄いのもいるからな。ともかく、それが良く見たら鎧じゃなくて体から直接生えてるんじゃないか、と気付いて、その瞬間襲いかかって来た。

 後は話した通り、あっという間にやられて、五人パーティのうち生き残ったのが二人だけという有様さ」

 

 溜息をついてローレンスが話を締めくくる。

 リアスがきっ、と眼差しを強くした。

 

「その方々のためにも、必ずや妖刀とその怪人はこの世から消し去らねばなりません・・・みなさん、力を貸してください」

 

 強い目で周りを見渡す。

 固く握られた拳に、そっとヒョウエが手を重ねた。

 

「肩に力が入りすぎてますよ。大丈夫、みんな手を貸してくれます。仲間ですから」

「あ・・・はい」

 

 心持ち頬を染めてリアスが頷く。

 モリィがやってられるか、と言う表情で唇を尖らせた。

 一方でローレンスは面白そうな顔になり、しゃがみ込んでカスミの耳元に口を寄せる。

 

(なあおいカスミ。やっぱりあれってそう言う事なのか?)

(・・・私の口からは何とも申し上げかねます)

 

 疲労と呆れと困惑と諦めとが玉突き事故を起こしたようなカスミの表情。

 それだけで全てを察したのか、ローレンスが吼えるように笑った。

 笑いながらカスミの頭をグリグリと撫でる。

 カスミが疲れたように溜息を吐き、振り返ったリアスがきょとんとした顔になった。

 

 

 

「まあ問題はゴブリンより足跡ですね。モリィ、追えます?」

「追える・・・と思うがよ」

「何か?」

 

 険しい表情のモリィを見下ろす。

 

「人間の足跡じゃねえぞこれ。熊でも鹿でも狼でもねえ」

「・・・!」

 

 緩んでいた空気が再び引き締まった。

 

「やっぱり怪人(ヴィラン)か」

「変異も相当進んでるようですね」

「それこそ獣並みの身体能力持ってる可能性もあんのか」

「恐らくは相応の剣技も備えているとなると・・・白の甲冑を着ていても油断できませんわね」

 

 全員が頷き合う。

 

「出くわしたらリアスを中心に、ローレンスさんとカスミが前衛。念動障壁で防御を固めますが、知っての通りあれは術式と魔力を喰らいますから余り過信はしないで下さい」

「あたしゃ殴り合いは弱ぇーからな。悪いけど頼むぜ」

「わかってます。牽制はお願いしますわ」

 

 モリィとリアスが頷き合う。

 

「それじゃ追跡を始めましょう。みなさんくれぐれも油断しないように」

 

 ヒョウエの言葉に、再度全員が頷いた。

 

 

 

 五人で杖にまたがり、モリィが足跡を追跡する。

 数キロほども行ったところでリアスが口を開いた。

 

「そう言えば・・・あの妖刀と怪人の目的は何なのでしょうか?」

「目的ですか・・・ローレンスさま?」

「ンー・・・そうだな・・・」

 

 カスミの問いに、少し考えた後ローレンスが口を開いた。

 ヒョウエとモリィも、それぞれの仕事に集中しつつも耳をそばだてている。

 

「具体的にどうこうってのはなかったような気がする。ただリアスやカスミ達を斬った時にあいつらの魔力が俺の中に流れ込んできて、もの凄い高揚感を感じたのは覚えてるぜ。

 リアスは鎧の表面を斬っただけだがヒョウエ、あれはお前さんの魔力を喰ったってことでいいのか? いや、カゲたちを斬った時にも薄膜一枚何か斬った感覚があったがあれも?」

「ですね。術式を斬られて魔力を吸われたのはともかく、魔力を使うための経絡(チャンネル)も痺れたのは参りました」

 

 ああ、とカスミも頷いた。

 

「そういえばわたくしもローレンス様に斬られた時、同じような感触を受けました。今にして思えばあれが術式制御というか、魔力経絡に対するダメージだったのですね」

「だと思います」

「ヒョウエ様はあんなものを受けてよく術を紡げましたね・・・?」

「全くだ。果てには妖刀の一撃を魔力で止めるしよ・・・」

「まあ《魔力の加護》がありますので。僕は魔力経絡も特別製なんですよ」

 

 あはは、と笑って誤魔化すヒョウエ。

 さすがに"隠された水晶の心臓(クリプトス・クリスタル・ハート)"のことを簡単にばらすわけにもいかない。

 それでも《加護》という隠れみのがある分、二人とも素直に納得してくれた。

 うんうん、とローレンスが頷く。

 

「大したもんだな。実際カスミ達全員よりお前さんの術の方が『喰った』魔力量は多かった記憶があるぜ」

「そこまでですの・・・!」

 

 きらきらした眼でヒョウエを見るリアス。

 後頭部にむずがゆさを感じてヒョウエがポリポリと頭をかく。

 何とはなしにむっとしてモリィが口をへの字に曲げた。

 

「話がそれたが、魔力を喰うのが奴の目的の一つかもしれんな。魔力を喰って生きてるのか、それとも喰った魔力で何かしようってのかはわからんが・・・。

 魔力を喰うたびに剣が喜んでるような気がしたし、あれに取り憑かれてる間、何度か人を斬りたくなる衝動がわき起こったことがある」

「ちっ、つくづく物騒な話だぜ」

 

 舌打ちをするモリィ。実際ローレンスがその衝動に負けていたらもっと大規模な被害が出ていた可能性もある。リアスがすがるようにヒョウエを見た。

 

「ヒョウエ様は、何か心当たりはございますの?」

「妖刀なんてあの時までは僕も伝説の中の代物だと思ってましたよ。"意志を持つ剣(インテリジェンス・ソード)"というのは存在しますが、それとも異なるようですしね」

 

 この世界における"意志を持つ剣(インテリジェンス・ソード)"というのは概ね真なる魔法の時代の遺物(アーティファクト)だ。

 剣だけではなく、甲冑や腕輪が意志を与えられることもある。

 

 つまる所、現代日本風に言えばユーザーを補助するAIのような用途。

 情報や知識を蓄えたAIによって使い手の行動をサポートするための技術だ。

 もっとも、魔道具に擬似的な知性を与えるのは当時の技術ですら難しかったようで、そうそうある代物ではない。付与される人格も不安定で、人を斬りたがる剣だの蜘蛛が苦手な喋る剣だのの噂も、冒険者の与太話としてよく聞く代物だ。

 

「根拠はありませんが、むしろ刀に怨念が取り憑いたとかそう言う類かも知れませんね。もしくは"怪人(ヴィラン)"の物品版のような」

「そっちの方がよほどこえーよ」

「全面的に賛同いたします」

 

 ぼやくモリィに、げんなりした顔でカスミ。

 直接の被害者の一人としては、考えたくもないことに違いあるまい。

 

「後は怪人のほうの目的ですね・・・被害に遭った箱のみなさんから、何か?」

「んー・・・いやだめだな。それ以上のことは思いつかん。今ならもう少し何か思い出してくれるかもしれないが、何ぶん話を聞いた時には襲われた直後だったからな・・・。

 生き残りはしたが、魔力を根こそぎにされてまともに体も動かせない状態で、あまり長いこと話を聞くことも出来なかった」

 

 彼らが担ぎ込まれた村には幸い医神(クーグリ)の神殿があったが、肉体的な負傷はともかく破壊された魔力経絡、言い換えると肉体の欠損そのものを修復するような高度な魔法の使い手は、医神の神官と言えどもそう多くはない。

 山奥の開拓村であれば、治癒術の使い手がいただけでも御の字であろう。

 

「僕も初歩の治癒呪文なら使えますが、魔力経絡を修復するような術は使えません。

 即死しなければ何とかなりますが、斬られたらメットーに戻らないと治療は不可能だと思ってください」

 

 ヒョウエの真剣な声に全員が頷いた。




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