毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
追跡は続く。
午後一杯を使って足跡を追うが、時間切れで夕方になった。
森の中で杖を止める。
「今日はここでやめておきましょう。一度村に戻って明日の朝また追跡再開です。かまいませんか?」
全員が頷いた。
妖刀を持った怪人に夜の山の中で襲われるなど考えたくもない。
「それでは・・・」
一瞬だった。
五人は誰一人油断していなかった。
それでもなお、敵はそれを上回った。
五人のすぐ後ろ、若葉色の下草がショッキングピンクに色を変えた。
それが人の姿をとると同時に跳躍する。
その手には夕やけの光を浴びて不吉な赤に染まる日本刀。
「っ?!」
最後の瞬間に振り向き、不完全ながらもそれに対応して見せたローレンスは称賛されるべきだろう。
だがそれでも間に合わなかった。
「がっ!」
「ローレンス様!」
「お兄様!?」
最大限に体をひねり、バスタードソードを半ばまで抜刀。
甲高い金属音が鳴った。
ヒョウエの施した四重の防壁を切り裂いたそれを不完全ながらも弾き、辛うじて致命傷だけは回避した。
妖刀の刃は、同時に飛行の術式をも切り裂いていた。
バランスを崩して投げ出される五人。
ショッキングピンクの怪人は妖刀を逆手に振りかぶり、刺突でローレンスにとどめを刺そうとする。
「兄様ッ!」
リアスは「白の甲冑」の身体能力で無理矢理に起き上がり、抜刀する。
だがそれでも一手足りない。怪人の一太刀に間に合わない。
「させま――せんっ!」
ちぃんっ、と澄んだ音が響いた。
カスミが交差させた両手のクナイで辛うじて妖刀を弾いたのだ。
並外れた体術を持つ彼女は杖から投げ出されながらも体勢を整えて着地し、素早く割って入っていた。
更に後ろではヒョウエが地面に転がりながらも術を発動させ、不完全にではあるが怪人の体の自由を奪っていた。
それがなければカスミの腕力では押し切られていただろう。
そこでようやく、一行は怪人の姿をはっきりと見た。
毛むくじゃらの、雪男か毛羽毛現と言った姿の人型。
全身の毛は鮮やかで毒々しいショッキングピンク。手に持った妖刀と腰に巻いた白の布帯、そこに差した朱鞘だけが異彩を放っている。
目鼻は一応あるようだが、毛に埋もれてはっきりとしない。
「クソがっ!」
「カスミとお兄様から離れなさいっ!」
カスミほどではないが身の軽いモリィが素早く体勢を立て直して雷光銃を乱射する。雷光を浴びてひるむ怪人に、リアスが神速の踏み込みで斬撃を送り込んだ。
ダンジョンで見せたよりも二割増の踏み込みと膂力。先ほどよりも遥かに重い金属音が森に鳴り響く。
『ガァァァアァ!』
「くっ!」
だが白の甲冑の、古代遺物の魔導甲冑の力をもってしても怪人を押し切るには至らなかった。リアスの渾身の一撃は正面から受け止められ、怪人を僅かに押し返したに留まる。
「このっ!」
『グォォッ!』
「くっ!」
フリーになったカスミが、リアスとつばぜり合いをしている怪人にクナイで斬りかかる。
だがヒョウエの念動術で動きを止められていながら、怪人は何とかそれをかわした。
「くそっ、制御が甘くなってる・・・!」
手を伸ばし、必死に術式を維持しながらヒョウエがうめく。
魔力経絡にダメージを受けながらの術の行使に、指先の毛細血管が破裂して血をしたたらせていた。
彼の魔力感覚には自分の魔力を食い尽くそうと見えない反魔力の炎を上げる怪人と、それに何とか拮抗する自分の術式が見えている。
眉をしかめて次の瞬間、ヒョウエはぎょっとした。
怪人の双眸――毛に埋もれて見えないが――が自分を見つめている。
次の瞬間リアスが斬りかかって視線はそれたが、間違いなく自分を見ていた。
それも執念に近い何かとともに。
背筋のゾッとする感覚。それを忘れようと努力しつつ、ヒョウエは術式に更に魔力を送り込んだ。
火花が散る。
リアスとカスミを相手に激しく斬り結ぶ怪人。入れ替わり立ち替わる動きの激しさにモリィも雷光銃の引き金を引けない。
「モリィ、ローレンスさんをこっちに! それからポーションを!」
「お、おう!」
モリィが雷光銃をホルスターに納め、ローレンスの体を引きずって戦いから引き離す。
腰のベルトから取りだしたポーションを飲ませ、更に新しいポーションを傷口に振りかける。だが傷が深く、出血も激しい。即死していてもおかしくないほどの深手なのだ。
そのローレンスと怪人の間をヒョウエの視線がさまよう。
(現状の魔力経絡を全部使って、かろうじてリアスとカスミと互角。今ローレンスさんを治療しないと手遅れになるが、念動の枷を一つでも外せば・・・)
「ヒョウエ様。金縛りを解いてローレンス様の治療を」
「! そうですわね、お願いします、ヒョウエ様!」
剣戟の金属音の合間、カスミの冷静な声がヒョウエの耳に届いた。
怪人と打ち合って激しい火花を散らしつつ、リアスがそれに続く。
「ですが・・・」
「お任せ下さい。勝算はございます。お嬢様、少し」
「わかりましたわ!」
リアスが頷いて、
カスミが頼んだ数合の時間稼ぎ。一言二言で通じるだけの信頼が二人にはあった。
カスミが体を沈めてクナイを構えた。
すうっ、と。その瞳が黒から北海の氷のような透き通った青に変わっていく。
が、リアスは早くも押されていた。カスミと二人で何とか互角だったのだ、そう長続きするはずもない。
今度は逆に盾を押されてリアスがバランスを崩す。リアスに追撃をかけると思いきや、怪人が鋭く踏み込んでカスミに刀を振り下ろす。
「しま・・・カスミっ!」
「このっ!」
ヒョウエが念動の術に力を入れるが、僅かに剣先を鈍らせただけ。
妖刀の刀身が、するりとカスミに斬り込んだ。
『!?』
「えっ!?」
カスミを袈裟懸けに斬った、と見えた一太刀がカスミをすり抜けた。
怪人から発せられる驚愕と困惑の気配。
それと同時に、カスミの姿がぶれた。
一つのカスミからいくつものカスミの姿が分かれて、透き通った七体のカスミになる。
赤・橙・黄・緑・青・藍・紫。それぞれのカスミが異なる光を発している。
「!」
七人のカスミが七方に散った。
赤いカスミのクナイが後ろから怪人のすねを斬る。パッと青黒い血が飛び散った。
『ゴアッ!』
斜め前から飛びかかって来た青のカスミを、反射的に怪人が斬る。
妖刀が触れるか触れないかのところで青のカスミがふっと消えた。
『ガアッ!?』
同時に、緑のカスミが斬りつけた腕を浅く斬っている。
「無駄です。姿は虚」
紫のカスミが斬られて消え、すぐに怪人の左側に出現する。
「しかして攻撃は実」
橙色のカスミのクナイが怪人のこめかみを浅く斬った。
「開祖様から伝わる技を光の術と組み合わせた・・・名付けてヒダ流幻舞陣! あなたともう一度戦う時のために編み出した技です!」
あれほど圧倒的な力を見せていた怪人を、七人のカスミが翻弄している。
斬られても一瞬消えるだけで、またすぐに現れる七色の影は一瞬たりとも留まることなく、怪人の血を流し続ける。
他の三人が呆然とその様を見ていた。
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