毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-27 柳枝の剣

「師匠?」

「ほら吹きのじいさん!?」

 

 木立の中からふらっと現れたのは薄汚れた旅装束に杖をついた赤ら顔の老人。

 ヒョウエの語りの師匠、"ほら吹きサーベージ"だった。

 

「なんで・・・いや、どうやってここに!?」

「なに、俺は健脚でな」

 

 からからと笑うサーベージ。

 ヒョウエの飛行の術があるから簡単に行き来できるものの、ルダインの村からは歩いて半日以上、道もない山の中という事を考慮すれば丸一日以上はかかる距離だ。

 年齢を感じさせないかくしゃくとした老爺ではあるが、だとしても普通の人間が気楽に出没できる距離ではない。

 

「で、あれが噂の怪人とやらか。名前は・・・まだねえか」

「考えてませんでしたが・・・即興ですがムラマサ、なんてどうです」

「ムラマサか。それっぽいな」

 

 顎髭をいじりながらサーベージが頷く。

 

「ともかくここは俺に任せてお前達は逃げろ。・・・いや、物語では良くあるセリフだが、実際に言ってみると中々気持ちがいいな!」

 

 一つしかない目を細めて、がははと豪快に笑うサーベージが杖を構えた。

 1メートルほどの杖を木刀のように両手で持ち、下段にだらりとぶら下げる。

 

 その姿が、いつの間にか怪人とヒョウエたちの間にあった。

 普通に、ゆっくりと歩いて来るようにしか見えなかったのにだ。

 

「・・・・・!」

 

 リアスが目を見張った。

 ただ杖を垂らしているだけなのに、隙が全くない。

 白甲冑の力を全開にして後ろから斬りかかっても、まるで打ち込める気がしない。

 

 一行の中で、もっとも接近戦に長けたリアスだけが理解出来ること。

 そして、妖刀を構えた怪人もそれを理解した。

 

『ヴ・・・ウゥ・・・』

 

 妖刀を肩に担ぐように構え、しかし怪人は動けない。

 下手に動けば「斬」られる。

 そう剣士の本能が告げていた。

 

 

 

「ヒョウエ様! サーベージ様のお言葉通りここは撤退を! 今生き延びるためにはそれしかありません!」

「け、けどよリアス!」

「大丈夫です、モリィさん。この方は私より強い(・・・・・・・・・)!」

「・・・!?」

 

 モリィが目を白黒させる。

 同時に、その言葉が迷っていたヒョウエを決断させた。

 

「逃げますよ、みなさん! 師匠、後よろしく!」

 

 その言葉と同時にサーベージを除く五人の体がふわりと浮いた。意識を失っているローレンスを含めてヒョウエの杖にまたがり、そのまま飛び去ろうとする。

 

『ヴォッ!』

 

 さすがにこれは見過ごせなかったか、怪人が動いた。

 まずは目の前の邪魔者を排除しようと、閃光のような斬撃を送り込む。

 左肩から逆袈裟に切り下げられ、血の海に沈むサーベージ・・・を、リアス以外の誰もが幻視した。

 だが。

 

『ヴァッ!?』

「えっ!?」

 

 怪人ムラマサとヒョウエたちが等しく驚愕の声を上げる。

 妖刀は僅かに軌跡を変え、サーベージの頭から1センチほど上を通り過ぎた。

 サーベージがやったのは、杖を妖刀に添えて力のベクトルをずらしただけ。

 火花を散らすことも激突音を打ち鳴らすこともなく、怪人(ムラマサ)の剛剣は無力化された。

 

『グウォウォウォウォッ!』

 

 怒りにはやったか、ムラマサが矢継ぎ早に斬撃を繰り出した。

 リアスをして剣が三本に見えると言わしめた剣速。

 三面六臂に三本の剣を持つ阿修羅の剣。

 だがそれをすらも、老人の振るう杖は柳に風とばかりにことごとく受け流していく。

 

「ハハッ! 怒ったか! どうした、そんなものか!」

 

 カラカラと笑いながらも、サーベージの体さばきには一切のブレがない。

 早くはない。

 膂力でも完全に負けている。

 そのはずなのに、ムラマサの剣は老爺の体にかすりもしない。

 

「・・・・!」

 

 全力で飛び去り、あっという間に遠ざかりながらもヒョウエたちは驚嘆の目でそれを見ていた。

 四合、五合と打ち合いを重ねても老爺の守りは崩れない。

 羽虫を払うような気軽さで、魔獣をも即死させる剛剣をさばいていく。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 ムラマサが怒りの咆哮を上げる。

 だがそれでもその剣は空振りを続けるばかり。

 

 七合、八合。

 十合、十五合、三十合。

 そこで山の陰に入り、モリィの《目の加護》でも二人の姿を捉えられなくなった。

 

「・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 一行の間に沈黙が降りていた。

 既に日は暮れている。

 怪人の視界を外れたのを確認して、ヒョウエが大きく方向を変えた。

 村に向かってくる可能性を考慮して、飛び立つ時にほぼ正反対の方向へ飛んだのだ。

 

 山の陰を、ギリギリ木の梢に当たらないくらいの高度で飛び抜ける。

 山二つほどを越えたところでリアスが恐る恐る口を開いた。

 

「その、ヒョウエ様・・・あの方は一体・・・?」

 

 ヒョウエの帽子を被った頭が左右に振られる。

 

「わかりません。武芸の心得が相当あるかなくらいには思ってましたが・・・」

 

 ヒョウエの実力は、現代日本で言うなら実戦経験を加味しても剣道三段程度。

 歩き方や身のこなしを見て武芸の心得があるかどうかはわかるが、立ち会いもせずに実力を見定められるほどの目は持っていない。

 

「なあ、リアス」

「何でしょう、モリィさん?」

 

 言葉を濁したヒョウエと入れ替わるようにモリィが口を開いた。

 しばらく口ごもってから言葉を継ぐ。

 

「その、だな・・・あの爺さんお前より強いって言ってたが・・・白甲冑をつけた状態のお前よりってことか?」

「もちろんです。ご覧になったでしょう?」

「そりゃまあ、なあ。けどよ・・・」

 

 モリィの言葉が途切れて消えた。

 伝説の魔導甲冑をまとったリアスよりも、飲んだくれの語り部の老人が強かったという事実を受け入れ切れていない。

 一方でリアス本人は素直に事実を受け入れていた。

 相手の実力を正確に評価する専門家らしい態度でもあるし、初見でかなりの腕を持っていると見抜いていたせいもあるだろう。

 

「一族のものを含め、あれほどの技量を持った剣士は見た事がありませんわ。

 もしあの方が白甲冑をまとえるなら、あの怪人も一太刀で切り伏せるでしょう」

「・・・」

 

 再び沈黙が落ちる。

 今度の沈黙は村に到着するまで続いた。

 

 

 

 ルダイン村に到着した頃にはローレンスの意識も回復していた。

 ひとまず今晩は様子を見て、明朝一番にメットーの医神の神殿に担ぎ込むことにする。

 ヒョウエ以外の三人は何か起きた時に備えて村で待機だ。

 

「手紙をしたためますのでそれをお持ち下さい。神殿への寄進は我が家の方から出させて頂きます」

「ありがたいですね。今回ここの宿泊費とポーション分だけでもかなり赤字ですし」

「だなあ」

 

 溜息をついてヒョウエ。モリィもそれに追随した。

 村側の好意でかなり安くしてもらっているとは言え、それでも六人で一週間となるとそれなりにつらい。

 ヒョウエとモリィは金銭を稼ぐ手段として冒険者をやっているので、どうしてもその辺は気になる。

 遅い夕食を無言で腹に詰めて、四人はベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 翌朝。

 

「師匠!?」

「よっ。うまく逃げられたみてぇだな」

 

 朝起きて下の酒場に降りると、サーベージがしれっとエールを飲んでいた。

 開けたばかりと見える樽が既に半分くらい減っている。

 

 ちなみにビール(エールビール)を再現した冒険者族もいるのだが、ホップに相当する作物の生産が難しいために高級品になっていた。

 閑話休題(それはさておき)

 

「まあなんです、ご無事で何より」

「当たり前だ。無事で済むような相手でなきゃ助けねえよ」

 

 わははと笑う老人にヒョウエは苦笑するしかない。

 

「昨日の今日でよくもまああそこから帰って来れたな?」

「言っただろう、俺は健脚なんだよ」

 

 健脚で説明のつく距離ではないのだが老人はモリィの疑問をあっさり切り捨て、ぐびりとエールを喉に流し込む。

 何杯目かはわからないが豪快な飲みっぷりにはいささかの乱れもない。

 

「それで・・・あの怪人はどうなりましたの?」

「適当にまいて逃げてきたよ。まあつけられるようなへまはしてないから大丈夫だ・・・多分な」

 

(多分と言っておけば嘘をつかないで済むなんてことわざもあったなあ)

 

 そんな事を考えていると、じろりと睨まれた。

 

「何だ小僧、何か言いたいことでもあるのか?」

「いえいえ尊敬するお師匠様に何もってその様な」

「ふん」

 

 にやりと笑ってまたエールをあおる。完全に見透かされているがポーカーフェイスは維持した。




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