毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「そうだな、ものにするのに三日と言うところか」
「へえ?」
ヒョウエが声を上げたのは三日という日数に対してではなかった。
サーベージの表情に対してだ。
ヒョウエはサーベージとはそれなりに付き合いが長い。
酒の飲み放題に釣られて適当に教えているにしては、ずいぶんと楽しそうだった。
そんな考えを読んだか、サーベージがヒョウエの肩を掴んでぐいと引き寄せる。
(いや、あの嬢ちゃんは大したもんだぜ。最初は適当に技の一手でも教えるつもりだったが、なんのなんの。ありゃあ本当に玉だぜ。磨けば光る)
囁かれた言葉にふーむと感心するヒョウエ。
そう言えばリアスの祖父も彼女の素質を高く評価していたなと思い出す。
当のリアスは疲れた様子でこそあったがそれだけで、普通に昼食をとっていた。
「大丈夫なのか?」
「ええ。この程度は造作もありません。ですがお師匠様が三日と言ったからには三日で修めねばなりませんわ」
「思い詰めるのがお前の悪い癖だぜ。もうちょっと肩の力を抜けよ」
モリィとしてはまじめなアドバイスのつもりだったが、リアスはまじまじとその顔を見た後、疲れたように溜息をついた。
「私に言わせればモリィさんが適当すぎるのですわ」
「んだとぉ?」
「何です?」
食事の手を止め、モリィがリアスを睨み付ける。リアスもそれをにらみ返し、火花が散る。
低レベルなにらみ合いをカスミが温かい目で見守っていた。
「ところで、師匠」
「ん? なんだ?」
食事の手を止め、ヒョウエがサーベージをじっと見る。
「聞きそびれていましたが、あの時のやめとけよというのはどういう事です?」
「さてなあ。それに口に出したら困るのはお前の方じゃあねえのか?」
「・・・・・・・・・・・」
ヒョウエが老人を睨む。
我関せずとエールをあおるサーベージ。
結局、食事が終わるまでサーベージからは何も引き出すことができなかった。
またたく間に三日が過ぎた。
この間、ヒョウエ達も何もしなかったわけではない。
高度を取って怪人の足跡を追跡しようと言うアイデアもあったが、さすがに木の枝で隠れている足跡を上空から追跡することは出来ない。
かといって地上すれすれを飛んでいては前回の二の舞になることは確実だった。
「ムラマサの例の擬態、こちらから積極的に探すとして、モリィの目なら見抜けますか?」
ヒョウエの質問に、モリィは珍しくしばらく沈黙した。
「・・・やってみなきゃわかんねえけど、出来ないこたぁねえと思う。
ただ、出来るとしても相当集中しないと無理だ。足跡つけて木から地面から周囲を全部あらためろ、ってのはちょっと身がもたねえな」
「ですか」
ヒョウエが溜息をついてその話はおしまいになった。
結局リアスが修行をしている間ヒョウエは部屋に籠もって何やら作業、モリィとカスミは村の周囲を回ってトラップを仕掛ける事になった。
そしてトラップ設置も終わった三日目の午後。
やる事もなくなったモリィとカスミが酒場でまったりしている。
リアスは修行の大詰めらしい。
ヒョウエは部屋でやはり作業中。
「「!」」
緩んでいたモリィとカスミ、二人の表情が豹変した。
森に仕掛けていた鳴子が鳴ったのを、二人の鋭い聴覚が捉えたのだ。
「私が先行します! モリィ様はヒョウエ様を!」
「けどお前!」
「モリィ様よりは時間を稼げます! ご遠慮なく!」
言うなりカスミは酒場の外へ走り出した。
「ちっ!」
モリィは舌打ちして階段を駆け上がる。
一分後、二階の窓から杖にまたがったヒョウエとモリィが飛び出した。
宿屋の裏に回ると、リアスとサーベージが剣と杖を構えて対峙していた。
「リアス! 奴が村の近くに現れた! これから迎撃する!」
「!」
リアスがヒョウエを見上げて目を見張る。
「わか・・・」
「気をそらすな!」
サーベージが一喝した。
「今が大事なところだ。集中しろ!」
「は、はい!」
一瞬逡巡したものの、リアスがサーベージに視線を戻して頷いた。
今度はサーベージがヒョウエを一瞥する。
「もう少しでものになる。それまでもたせろ」
それだけ言ってリアスに向き直ると、後はもう目もくれない。
「わかりました師匠! リアスをよろしくお願いします!」
それだけ言ってヒョウエたちが飛び去る。
「へっ」
振り向かず、サーベージが僅かに笑った。
「あっちだ!」
「はい!」
カスミを途中で拾い、三人で飛ぶ。
ちらりと後ろを見ると、リアスとサーベージは互いに構えたまま動かない。
「ギャアーッ!」
「・・・!」
誰かの悲鳴――あるいは断末魔が聞こえた。
言葉にならない思いを飲み込みつつ、ヒョウエが飛ぶ。
飛行すること十数秒。
村から100mと離れていない木立の中に
毒々しいショッキングピンクの体毛で全身を覆い、頭部の毛は長く逆立っている。
腰に巻いた白帯とそこに無造作に差し込まれた朱鞘がいっそ滑稽だ。
そして右手には血に濡れてぬらりと光る鋼。
モリィの目にはその刀身が吹き上げる反魔力の炎、魔力を喰らう炎の舌が見える。
足元には背中を深く斜めに切られた村人。
逃げようとしたところをやられたのだろう。
即死ではないが、治癒呪文無しにはほぼ致命傷だ。
怪人――ムラマサが足を止めた。
その前に三人が降り立つ。
中央にヒョウエ。右にモリィ。左にカスミ。
怪人はまだ構えない。
この中に自分を抑えられる人間がいないとわかっている。
ヒョウエが念動で村人を引きずりよせ、体勢を崩さないまま杖の先を傷口に当てて治癒呪文を発動する。
呪鍛鋼で出来た物品は、その性質上極めて魔力を通しやすい。ヒョウエの杖であれば大抵の呪文は媒介できた。
治療を続けるヒョウエを見てもムラマサは動かない。
完全にヒョウエたちを舐めている。
「ヒョウエ様、モリィ様、私の後ろへ。何とか私が抑えてみます」
「だめだ。今のカスミには任せられない」
厳しい言葉に、思わずカスミがヒョウエの顔を見上げる。
怪人から目を離さず、ヒョウエが言葉を続ける。
「昨日あの術を使ったときに何度かかすったと言ってたろう? 僕みたいに魔力の加護があるならともかく、魔力経絡の傷は一日で治るものじゃない。
術自体を使うことは出来るけど、制御も効果も甘くなってるんじゃないか?」
「・・・お見通しですか。参りますね、ヒョウエ様には」
一瞬目を見張った後、カスミが深く息をつく。
「プロですからね、一応」
口調を元に戻して、くすりとヒョウエが笑った。
それでもカスミは言いつのる。
「ですがそれでもヒョウエ様が前に立つよりは時間を稼げます。
時間を稼いで・・・そうすればお嬢様が何とかしてくれます」
「後半は同意。でも前半は賛成できないかな。僕にもそれなりの考えはあるんですよ」
「・・・?」
首をかしげたカスミが、ヒョウエの左手首にはまった見慣れない腕輪に気付いた。
青珊瑚を削りだして作った細い腕輪。
限定的な魔力感知能力しか持たないカスミにも、僅かに魔力を感じ取れる。
「それは・・・」
「秘密兵器です。モリィ、この人を村に。それと注意喚起。カスミ、援護お願いします」
「チッ、しゃあねえな。死ぬなよ」
「この程度で死にませんよ。いざとなれば切り札だってある」
「そうだったな。まあ適当に相手して、後はリアスに任せな。どれだけ強くなってるか知らねえけどよ」
そのままモリィは村人を村に引きずっていく。
どうしてモリィ様はこんなにヒョウエ様の事を信頼しているのだろうかとの考えがカスミの脳裏によぎる。
が、それも一瞬のことですぐに精神は戦闘モードに入った。
物心つく頃から続けてきた精神鍛錬の効果で、一瞬にして心がフラットになる。
冷徹・冷酷な忍者の精神。
黒い瞳がすうっと青に変わっていった。
「それでは・・・」
ヒョウエが何か言おうとして、ムラマサの姿が霞んだ。
鋭い金属音。
ヒョウエの呪鍛鋼の杖が、妖刀の刃を弾き、受け流していた。
「!」
カスミがさっとヒョウエから距離をとる。
(・・・?)
その刹那、ヒョウエの左手首の腕輪から強い魔力を感じた。
モリィがここにいれば、腕輪が燃え上がるような青い光を発しているのが見えただろう。
妖刀が再び閃いた。
目にも止まらぬ速度のそれを、杖の表面を滑らせることでかわす。
鋼と鋼がぶつかり合い、火花が散った。
作者のモチベーションは読者の皆様の評価と感想です。
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