毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-30 杖術師魔導帳

(すごい・・・!)

 

 傷ついた魔力経絡で術を発動するため、必死に集中しながらカスミは目を見張った。

 三撃。四撃。五撃。

 モリィの《目の加護》でもなければはっきりと捉えられないはずのムラマサの剣速に、ヒョウエは完全に対応している。

 

 白甲冑をまとったリアスと互角に打ち合う怪人だ。パワーでは圧倒的に負けている。

 だが反対に敏捷性ではヒョウエが勝っていた。

 だから正面からは受け止めない。剣に対して斜めに杖を構え、力のベクトルをそらす。

 被弾経始ならぬ被斬経始。鉄を断ち切る妖刀といえど、刃筋を立てねば刃物は切れない。

 

 ヒョウエがちらりと青珊瑚の腕輪に目をやった。

 魔道具製作者であるヒョウエには、腕輪の魔力回路を走る自らの魔力と、それが稼働させる術式がはっきりと見えている。

 

(いい感じですね。最後までもって下さいよ――!)

 

 当たり前だが、戦士としてはちょっと腕の立つ程度のヒョウエが、リアスですら押し負けた怪人と互角にやり合えるわけがない。

 その種はやはり、左手首の腕輪であった。

 

 メットーでローレンスを医神の神殿に放り込んだ後ヒョウエはその足、もといその杖で兄弟子と姉弟子の店に飛んだ。

 そして使い手の敏捷性を増大させる術式の込められた腕輪を強引に借りだし、それが自らの魔力に耐えうるよう、この三日間調整と強化を続けていたのだ。

 (ヒョウエは肉体を強化する術を"生命力賦活(ライフ・リーンフォースメント)"以外に習得してないので、既製品をいじることは出来ても自分で作ることは出来ない)

 

 戦闘が始まって三秒。

 その間に、既にヒョウエは十を越える斬撃を受け流していた。

 とは言えヒョウエに余裕がある訳ではない。

 敏捷性のみなら上回ったとはいえ、剣の軌道を逸らすにも筋力の差は如実に表れる。

 

(それにこいつ・・・やっぱり剣士としてもすごい!)

 

 単に力が強い、身のこなしが素早い、というだけではない。

 純粋に剣士としての技量が高い。あるいはリアスよりも。

 

 敏捷性それ自体では勝っていても、動きの効率度が違う。

 踏み込みのタイミング。

 先読みのうまさ。

 攻撃の組み立て。

 コンパクトで、それでいながら十分な破壊力を生み出す剣筋。

 それらが全て、剣速を押し上げていく。

 

 実質的な速度はほぼ互角。

 一太刀一太刀、紙一重でしのぎ続けているに過ぎない。

 一手ミスをすれば即座に首が飛ぶ、命がけの詰め将棋。

 

 それでも何とかヒョウエが身を守れているのは、基本的な速度で勝っているのと、杖という武器、杖術という技術が守りに強いものであったのが理由だろう。

 

 心を無にして、ひたすら斬撃をそらし続けるヒョウエ。

 その視界の端に、魔力を高め精神集中するカスミが目に入った。

 

「カスミ! 無茶はしないでください!」

「時間稼ぎにはなります。

 それにヒョウエ様ではありませんが・・・この程度で死にはしません!」

 

 カスミには珍しい、強い意志を込めた言葉。

 それと共にその姿がうっすらと輝き、三日前のように色とりどりの姿に分裂する。

 

 ただしその数は三日前のような七つではなく、五つ。

 浅手とはいえ魔力経絡を傷つけられたダメージがまだ回復していないのだ。

 それでもカスミにこの状況を座視するつもりはない。

 黄・緑・青・藍・紫のカスミが五方に散った。

 

 

 

 三日前の光景が再現されていた。

 カスミの分身が五体に減ったとは言え、怪人の振るう妖刀をしのぎ続けるヒョウエの姿は、まさしく三日前のリアスの姿だ。

 

 ムラマサが苛立たしげに剣を振るう。

 空間に閃光が走るが、閃光に触れるか触れないかのところで黄色のカスミがふっと消えた。

 それと同時に左腕からパッと青黒い血が飛び散る。紫のカスミの忍者刀だ。

 

『ガァァァァァッ!』

 

 怒りを込めてムラマサが吼えた。

 わかってはいても怪人はカスミに対応せざるを得ず、それがヒョウエへの「圧」を大幅に減らすことに繋がっていた。

 それはつまり、ヒョウエに攻撃のチャンスを与えると言うこと。

 

「突けば槍」

『ゴァッ!?』

 

 ヒョウエの杖の先端が正確にムラマサの右目を突く。

 泥だか肉だかわからないような怪人の体組織だが、少なくとも人間と同じ場所に感覚器官はあるらしく、怪人が僅かにひるんだ。

 

『ガァッ!』

 

 反射的にムラマサが刀を振るうが、それはヒョウエに届かない。

 六尺杖(ろくしゃくじょう)、メートル法で言えば180cmの呪鍛鋼の杖。

 対して妖刀の長さは柄まで含めても100cm余り。

 杖に目を突かれた状態で剣を振るおうとも、単純に長さが足りない。

 

「払えば薙刀」

 

 目を突いた杖を外し、鋭く踏み込んでくるその一瞬前、外された杖の先端で剣を持つ怪人の手元を上から叩く。

 膂力の差で僅かに剣がずれただけだが、その僅かの隙間につけいる隙がある。

 同時に緑のカスミの忍者刀が怪人の右のすねを斬っている。隙間が更に広がった。

 

 タイミングを合わせて相手の間合いの内に滑り込み、相手の手を払って勢いがついた杖をくるりと一回転。

 同時に素早く手を滑らせて持ち手を変える。先端から50cmほどのところを握って振り下ろす。

 相手の刃渡りは70cm。その20cmの差が、怪人に刀を使わせない。

 

「打てば剣!」

『!』

 

 振り下ろす一瞬だけ、敏捷度増加の腕輪に回していた魔力を念動の魔力に変えて杖の先端に叩き込む。

 みしり、と。念動の剣と化した鋼の杖が怪人の肩にめり込んだ。人間なら鎖骨が砕け、腕は使い物にならなくなるダメージだ。

 

『~~~~~~~~~~~~っ!』

(じょう)はかくにも外れざりけり・・・ってね」

 

 怒りと苦痛、あるいは屈辱に、ムラマサが吼える。

 魔力を素早く腕輪に戻して怒る怪人の剣をさばきつつ、後退しながらヒョウエはニヤリと笑った。冷や汗を流しつつではあったが。

 

 

 

 俗に槍に勝る剣なしという。

 両者の力量が同程度であれば、リーチに勝る方が有利なのは当然の話だ。

 逆に敵の武器が振るえないほど密着すれば、ナイフや短剣を持つ方が一方的に攻撃できる。

 武器にはそれぞれ間合い=有効な距離があり、そして扱い方次第で槍にも剣にも短剣にもなる、それこそが杖の強み。

 

 杖には鋭い切っ先がない。刃もない。それは殺傷力に劣るという欠点であると同時に、どこを握っても振るうことができ、前後どちらを使っても打撃を与えられると言うこと。

 手元に近いところを持てば槍。

 中程を持てば刀。

 切っ先に近いところであれば短剣。

 

 相手がどんな武器を使うのであれ、苦手な距離はある。

 だが杖に苦手な距離はない。

 技量や速度によほど差があるのでない限り、常に相手の苦手な距離で戦える。

 

 そして相手の苦手な距離とは、相手の攻撃力が最大限に発揮できない距離と言うこと。

 相手の踏み込みの速さによってはあっさり無効化される利点ではあるが、敏捷性を限界近くまで上昇させているヒョウエは怪人相手にそれができる。

 

 一瞬とは言え敏捷強化を切って打撃力を強化するのはリスクが高いが、自分を傷つけられない相手を警戒するものなどいない。

 カスミもヒョウエも自分にとって致命的な存在でないと判断すれば、ムラマサは防御を度外視して全力での攻撃を仕掛けてくる。

 そうなった場合に攻撃を凌ぎきれる自信はヒョウエにはなかった。

 

 

 

 命をすり減らすような剣戟が続く。

 ヒョウエと、カスミと、ムラマサが火花と血を散らし合う。

 

 ムラマサの体は既に何度もヒョウエの杖やカスミの忍者刀によって傷つけられている。

 だがどのような構造をしているものか、血を流してもあっという間に傷口はふさがり消えてしまう。

 首をはねてすら再生復活してきた正真正銘の怪物。

 ならば恐らくこの人型はただの傀儡。

 本体は・・・

 

(妖刀、か? 泥人形の中に核がある可能性もあるけど)

 

 ムラマサは全身からかなりの魔力を放っている。

 攻撃の合間をぬって一瞬だけ発動した"魔力解析(アナライズ・マジック)"の呪文でも、特に魔力が濃かったり薄かったりする場所は確認できなかった。

 

(しかしこれは、本当に"鎧"を出すか、リアスに来てもらわないと・・・)

 

 人体が全力を出せる時間はそう長くはない。

 カスミと二人がかりであっても、一呼吸で三回の斬撃を繰り出してくるムラマサを相手にしていては精神も肉体も恐ろしい速さで消耗する。

 そしてもう一つ、急激に消耗しているものがあった。

 

 青い珊瑚の腕輪・・・ヒョウエの敏捷性を担保している魔道具。

 それが前触れもなく突然砕け散った。

 調整・改造していたとはいえ、桁外れなヒョウエの魔力に腕輪の回路が耐えきれなかった。

 

(やばっ)

 

 突然、世界が加速する。

 先ほどまで余裕を持って追えていたムラマサの剣筋が突然見えなくなる。

 気がついた時には、ヒョウエの腹に妖刀の刀身が突き立っていた。




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